第32話 解呪
俺は触手に四肢を拘束され、フルーホの前に吊り下げられる。
『喜べ、ハイリゲス! 我がお前の呪いを解いてやったぞ』
ギリギリまで近づけられたフルーホの口から漏れる生暖かい息が顔に掛かる。
フルーホが悪意に満ちた表情で告げたその言葉に、俺は一瞬思考が止まる。
俺の呪いを解いた?
こいつは何を言っている?
「剣士君! ステータスを見てみるんだ」
脳内に響く張り詰めたイルジィの声を受け、俺は指示通りにステータスを確認する。
「なっ!?」
俺は自身のステータス表示を確認し、驚愕する。
―――――
ハイリゲス
レベル:99
HP :201/838
MP :2/320
筋力 :765
耐久力:402
敏捷力:238
魔力 :103
スキル
『大物喰い《レベルイーター》』『
―――――
「呪いが、消えている!」
ステータス最下段に表示されていた『不明の呪い』が消えている。
それに伴って俺のレベルは前回フルーホと戦ったときのレベルである99まで上昇していた。
『気分はどうだハイリゲス? お前は呪いが解けるのをずっと心待ちにしていたんだろう。念願かなったわけだが、どうしてそんな不快な表情を浮かべているんだ?』
「くっ……」
フルーホの戯言が俺の神経を逆なでする。
確かに俺は願っていた。呪いが解け、再び冒険者として戦えるようになることを。
しかし、今呪いが解かれレベルが元に戻ってしまえば敵とのレベル差の分だけステータスを上昇させる『大物喰い』が無効化されたことを意味する。
その分持っていたスキルは復活しているが、以前俺がフルーホを倒すことができたのは仲間の協力があったからだ。
俺はすでに満身創痍で、ツァウはすでに魔力を使い果たしている。
イルジィもこの場には居ないのだ。
俺単独の力ではフルーホに刃が届かない。
『大物喰い』の力を失った今、いったいどうすれば……
「剣士君。ちょっといいかい?」
絶体絶命の窮地に、頭の中へと声を掛けてきたのはイルジィだった。
「僕に作戦があるんだ……君の命、僕に預けてみないかい?」
イルジィの意味深な発言に対し、決断を迷っている暇はない。
俺の命なんてとうにこの戦いに賭けているんだ!
なんでもいい。イルジィ、頼む。俺に力を貸してくれ!
「よーし、僕の出番だね。任せて! 『
俺の口が俺には使えないはずの回復魔法を詠唱する。
魔力が体の奥から流れ出し、両手へと集まっていく。
これが魔法を使う感覚かと緊迫の現場に遭って、場違いな感想を抱く。
俺が感心していると、俺の中から流れ出す魔力が堰を切ったように一気に増大する。
魔力は制御を失い、勝手に渦巻き大気中に漂う魔力を巻き込むと遂には暴走する。
異変に気づいたフルーホが視線をこちらに向けるが遅い。
膨大な魔力が俺の目の前で大爆発を引き起こす。
「ぐはっ」
魔法の暴発により俺を拘束していた触手もろとも俺の体も吹き飛ばされる。
酷く背中を地面に打ち付けられ、肺から空気が漏れる。
『ぐああああああああああああああ!』
鼓膜が破れるほど大きな叫び声があがり、空気が振動する。
なんとか顔を上げ声のした方向を見れば顔の半分を吹き飛ばされたフルーホが絶叫をあげていた。
『ぐ、うああああああ。何が起きた!? ハイリゲス、お前は何をした!?』
フルーホは激昂しながらも残った片目でこちらを睨みつけている。
そして、いきなりフルーホの全身が液状化すると体が一回り大きく膨張し、吹き飛ばされた部分が修復されていく。
ラスタースライム戦でも見た『擬態』スキルを使った回復だ。
本来ならば致命傷となるダメージも今のフルーホ相手では回復されてしまう。
しかし、どうやらフルーホの精神的な動揺は大きいようだ。
修復途中の顔面は憤怒の形相にゆがんでいる。
『お前は剣士だ。魔法は使えないはずだろう! なのになんだ今の威力の爆発は!? どうして『物理無効』を持つ我がダメージを受けている!?』
「だから言っているだろう! 敵に手の内をさらす謂れはない!」
俺はフルーホ目掛けて駆け出す。
フルーホは冷静さを失っており、触手による狙いが大味となっている。
『大物喰い』によるステータス上昇を失ったことで移動速度は減少しているがフルーホの狙いの甘い攻撃を避けるには十分で、俺は攻撃を受けることなく触手の隙間を回避していく。
爪による薙ぎ払い攻撃をしゃがみ込みやり過ごし、フルーホの懐にもぐりこんだ。
さあ、もう一発かましてやるか。
頼んだぞ、イルジィ!
俺は再度目を閉じる。
「よーし! じゃあ、もう一発行くよ! 『
俺の口が再び魔法を詠唱する。
今度は触手に拘束されていない。
フルーホへと手掌を向けると、そのままフルーホを対象に回復魔法を発動する。
「ぼーーん!」
再び起こる魔力の暴発。
大爆発がフルーホの体に直撃する。
爆風のあおりを受けのけ反るが、自分を対象に回復魔法を発動した先よりは衝撃はない。
反対に暴発の影響をもろに受けたフルーホの腹には大きな穴が開いていた。
『ぎゃあああああああああああああああああああああ!』
フルーホからまるで断末魔のようなおぞましい叫びが上がる。
しかし、腹に開いた穴の周囲の肉が液状化しすごい勢いで傷が塞がっていく。
「それならもう一回! 『
『させるか!!』
フルーホへと向けた掌の前に無数の触手が割り込み壁を作る。
俺の手から弾けた巨大な爆炎が触手と衝突し俺たちの視界を塞ぐ。
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