55.ラフェル帰還
「お兄ちゃん、これ……」
「ああ、想像以上だな」
ヴェスタ公国との同盟締結を行いラフェルに帰還したレフォード達。道中で会ったヴァーナ達から魔族の王城襲撃を聞いていたが、その被害は予想より大きなものだった。ガイルが言う。
「城が半壊しちゃってるぞ」
可憐で気高かったラフェル王城。初めてレフォードとミタリアと一緒に訪れたあの国を象徴する立派な王城が、魔族の攻撃を受け見るも無残な姿になり果てていた。対照的に王都に被害はほとんどない。住民達も無事だ。だが王城のあの姿を見ると、城に残して来たエルク達が心配になる。
「すぐに行こう」
「うん!」
レフォード達は城の修復が急ピッチで進められている城へと駆け出した。
「レフォードさん!!」
レフォード帰還の報を受けた副団長シルバーが走り駆け寄って来る。城内の破損も激しく、多くの修理工が慌ただしく働いている。レフォードがシルバーに言う。
「派手にやられたな」
「ええ。辛うじて首の皮一枚つながっただけです」
本音だった。
ヴェスタの『業火の魔女』がいなければこの城は崩壊していた。シルバーは魔族襲撃の件を詳しく説明した。黙って聞くレフォード。ミタリアは泣きそうな顔になって目を赤くする。
「ヴァーナは本当に頑張ってくれたんだな」
「ええ。ゲルチ殿の英断も我が国を救いました。本当に感謝してもしきれません」
「そのようだな」
レフォードはまだ城の原型を残している王城を見て頷いた。どうしてあの気まぐれなヴァーナがこれほど一生懸命戦ってくれたのかは分からないが、もっと褒めてやっても良かったなとあの時の再会を思い出す。シルバーが尋ねる。
「それで同盟の方は無事に締結できたのでしょうか」
「ああ、問題ない。ミタリア、証書を」
そう言って隣にいるミタリアに同盟締結証書を渡すよう指示する。
「はい、これです」
ミタリアは鞄に大切に入れていた同盟の証となる証書を取り出しシルバーに手渡す。それを読んだシルバーが頷き言う。
「さすがレフォードさんです。対魔族だけでなく、今後憂いとなるガナリア大帝国への対処もできるような内容ですね。本当に有難い。感謝します」
そう言って深々と頭を下げるシルバー。レフォードがすぐに答える。
「いや、頭を上げてくれ。この国が大切なのは俺も同じ。エルクやレスティアを守ってくれて本当に感謝している」
「とりあえずエルクとレスティアの顔を見て来る」
「ええ、騎士団長室にいらっしゃいますので」
レフォードは軽く礼を言い、急ぎ最上階にある騎士団長室へと駆け出した。
「エルク、レスティア!!」
騎士団長室に入ったレフォードが開口一番大きな声でふたりの名前を呼ぶ。部屋のベッドには前のまま安らかな顔で横たわるエルク。その横に腰かけたピンク髪のレスティア。反対側には心配そうな顔でエルクを見つめる元恋人のマリアーヌが立っている。
「あ、レーレー。おかえり」
レスティアがダルそうな声で反応する。
「エルクは大丈夫だったか?」
「エルエル? うん、ほら、だいぶ良くなったよー」
そう言って見つめるエルクの体には以前あった黒い斑点がほぼなくなっている。間違いなく治療が進んでいるようだ。
「みんな大丈夫だったのか?」
そう尋ねるレフォードにマリアーヌが答える。
「ええ、突然体が動かなくなって驚きましたがエルク様の為、必死に耐えて見せましたわ」
何だか話の論点が違う気もするがとりあえず問題なかったらしい。レフォードがレスティアの頭を撫でながら言う。
「お前も頑張ったな。このまま治療を頼むぞ」
頭を撫でられながらレスティアが言う。
「ああ、あれはヴァーヴァーが来てやっつけてくれたみたいだよ。それよりさあ、レーレー。私、こんなに頑張ってんだからちょっとだけ甘いもの食べさせてよ~」
懇願するようなレスティアの顔。レフォードが答える。
「そうだな。ちょっとだけならいいかな。どうだ? マリアーヌ」
話を振られたマリアーヌが少し考えてから答える。
「ええ、適度な糖分もリフレッシュの為には必要です。いいでしょう。許可します。ただし今回限りです」
一瞬嬉しそうな顔をしたレスティアがはあとため息をつく。
「ねえ、レーレー。管理役、他の人に変えてよ~。彼女厳しすぎるよ~」
そう言うものの、レスティアの肌艶も随分良くなってきている。
「ダーメだ。お前はあれぐらい厳しい方がいい。すぐ怠けるから」
「そんなことないよ~、一生懸命やってるよ……」
マリアーヌのカッと見開かれた双眸に睨まれ、レスティアが小さくなる。レフォードが言う。
「じゃあ、俺はちょっと色々と見回って来る。お前らも好きにしてろ」
そう話すレフォードにガイルとミタリアが答える。
「そうだな。俺は街で頑張ってる奴らに会いに行ってくるよ」
元『鷹の風』の部下達。今は正騎士団として頑張っている彼らの顔を見に行きたい。ミタリアも言う。
「私はここでエルクお兄ちゃんをしばらく見ているね。もうちょっとで起きそうだし」
「ああ、分かった。明日、出発する予定だから準備しておけよ」
レフォードは軽く手を上げ騎士団長室を出る。今日は休んで明日からルコ探しの旅に出る。王城のことは心配だが今は彼らに任せることにした。
(しかし、魔族のボスってのはとんでもねえ奴だな……)
レフォードは至る所で崩壊した城内を歩きながら思う。ひび割れた壁、崩れ落ちた天井。ヴァーナの魔力も大概だが、魔族側にもとんでもない使い手がいるようだ。重力を操る魔法。魔法隊長のレーアですら聞いたことのない魔法。強い怒りと共に世の中には未知の魔法があるのだとレフォードが思う。
「おーい、おっさん!!!」
そんなレフォードに背後から懐かしい子供の声が掛けられた。
「お、クソガキじぇねえか。無事だったか?」
それは元蛮族、三風牙のひとりライド。子供ながら風のように動き戦う姿は大人顔負けの強さを誇る。ライドが嬉しそうな顔で言う。
「大丈夫だったよ。おっさんはどうだったの?」
「ああ、無事同盟を結べた。ヴェスタはもう同盟国だ」
「うわーすげえ!! じゃあ『業火の魔女』も仲間ってこと?」
「ああ、そうだ」
レフォードの言葉にライドが嬉しそうに頷く。
「でも魔族もめっちゃ強いのいたよ」
「みたいだな」
レフォードが半壊した城内を見て言う。
「そうだよ。俺見たんだ、敵のボスらしき奴」
その言葉にレフォードのまゆが動く。今後矛を交える可能性もある魔族。情報は多い方がいい。
「ほお、見たのか? どんな奴だった?」
「えっとねえ、小さな女の子だったよ。紫髪のボブカットの」
(!!)
その話を聞いたレフォードが固まる。
「その子の周りに強そうな魔族も結構いたけど、あの子だけは別格だったよ。可愛らしい顔してんのに、もうちびりそうなぐらい強そうだったよ」
「……」
無言のレフォード。ライドが言う。
「ん? どうしたの、おっさん?」
「あ、いや。何でもねえ。その魔族のボスったのは本当に紫髪のボブカットの少女で間違いねえんだな?」
「そうだよ。あれがボスに間違いない。忘れらないよ」
「分かった……」
その後レフォードはライドと少し会話を交わした後、ひとり歩き出す。
(紫髪のボブカットの少女。まさか、いや、そんなはずはねえ。あいつが魔族のボスなんかになるはずが……)
それはレフォードの中に初めてその可能性について火が灯った瞬間であった。
その後、レフォードは王城周辺でルコについての聞き込みを行った。
彼女が身受けされた商家についての情報、詳しい場所、使用人の素性など。副団長シルバーの許可を貰っているので聞き込みには皆が快く応じてくれたが、結果としてあまり有益な情報は得られなかった。
「うーん……」
ルコが身受けされたサーガル家は貴族でもないし、有力な豪商でもない。ありきたりな商家でルコもそこのただの使用人である。魔族襲撃によって不幸な最期を迎えたわけだが、それ以外特別なことは何もない。サーガル家の悲惨な最後に同情する言葉はたくさん聞かれたが、そこにいた使用人について知っているものは皆無であった。
「仕方ねえ。あまり期待はできねえが、サーガル家のあった場所に行くか」
実際その商家のあった場所へ行き聞き込みをする。そう決意したレフォードは城内での聞き込みを終え部屋に戻る。そしてその夜、王城内の来客室で寛いでいると部屋を強くノックする音が響いた。
「ん? 誰だ?」
強いノックの音。緊急を告げる用件だろうか。
ガチャ
ドアを開けると、そこには真剣な顔をした副団長シルバーが立っていた。
「よお、どうした?」
シルバーは夜半の訪問に申し訳なさそうな顔をしつつも、早口で言った。
「夜分すみません。今、各地から入って来た情報なんですが」
レフォードがその言葉を黙って聞く。
「色々な場所で青髪の男が魔族に拘束され、連れ去れているそうなんです……」
レフォードは先程風呂から上がりまだ半乾きの自分の青髪に手をやった。
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