87 巨大な光の柱

「遅いな」


「あぁ、エゴロヴナの連中は一体何をやっているんだ?」


「まさか、エルフの女どもを捕まえるのに手間取っているのか?」


ラザロとグライム、そしてドレッドノートは転移魔法陣を使い、魔族国ガリウッド西部の中心都市『ローグ=リッジ』の主城に帰還した。『ローグ=リッジ』は西部の中心都市として、今回の『超高純度魔鉱石』の奪取を最重要案件として捉え、賢魔1位から4位の最大戦力での対応を決定した。


『超高純度魔鉱石』は不安定で、少しの衝撃でも暴発しかねない、極めて危険な性質を持っている。その取り扱いは最も危険なものであった。


ドレッドノートは、エゴロヴナが帰還しないことに不思議がりながらも、全ては奴の自己責任であるし、今までも同じように個人での行動も無かったわけではなかった。エゴロヴナが何をしていようと気にかける必要はなく、常に自由気ままに行動する奴を心配するほどのことではなかった。


エルフ国戦略本部がある第二都市『ローグ=リッジ』は西部の中心であり、エルフ国セダム侵略の最前線基地となっている。対する東部の中心都市は『グロズノ』と呼ばれている。ローグ=リッジとグロズノはどちらも魔族国内で巨大な都市であり、ハウディア大陸全土から多くの人々や物資が集まっている。その中には奴隷も多数含まれ、エルフ族やヒト族、獣人族が各地から連れてこられている。


魔族国ガリウッドは非常に排他的で魔族至上主義を掲げており、ハウディア大陸の支配権を巡り、エルフ族領、ヒト族領、獣人族領を長年侵略している。今回の任務はエルフ族国の都市ウォルタ近郊に現れた大規模なダンジョンで『超高純度魔鉱石』通称『エルダ・スター』が生成されている可能性が高いことが確認され、その奪取を目指して派遣されたガリウッドの精鋭、賢魔最上位のエゴロヴナパーティに最重要ミッションが与えられた。


第二都市ローグ=リッジの中心にある主城の中をラザロとグライム、ドレットノートは歩いていた。進むと、巨大で重厚な10メートルもあるドアの前には左右に5メートルもある屈強な衛兵2名が立っていた。


「誰だ?」


「領主に謁見を願います」とドレッドノートが言い、自身の身分を証明する首飾りのペンダントを見せた。


「貴様たちは・・・エゴロヴナパーティか。リーダーのエゴロヴナはどうした?」


「知らん。まだ帰還してこない。それよりも『エルダ・スター』を奪取した。それを領主に報告したい」


「見事だ。領主はお待ちしている。謁見を許可する」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ


衛兵たちは力強くドアを開け、その先には巨大な赤い絨毯が敷かれた通路が広がっていた。奥には5メートルもある煌びやかな服装をした魔族が玉座に座っていた。この都市の領主、テネブル=インフェルナルである。彼女は若く、屈強な体格にもかかわらず、美しい容姿を持っており、その笑顔は場を凍りつかせる威厳を放っていた。


3人の魔族が領主テネブルの前に平伏した。


「エゴロヴナ、よくぞ帰還した」


「ははは!リーダーのエゴロヴナはまだ帰還しておりません。私はドレッドノートと申します。先に帰還した我々だけで領主様の御前に参りました」


「そうか。では『エルダ・スター』はどこに?」


「は!ここに」


ドレッドノートは袋から棒を取り出し、その先にはヒラヒラとした糸のようなものがついている。そこからが別の次元への入り口となっていた。彼はその糸を引き、『超高純度魔鉱石』が現れるように空間を開いた。異次元空間から『エルダ・スター』が現れ、濃密な魔素が玉座の間に充満した。魔王テネブル=インフェルナルは、高濃度の魔素に満足げに口角を上げた。


「素晴らしい・・・これでまた一つ神器が作れるな。獣人族国レアルタードには3つの神器。ヒト族には1つ。我が都市には2つ、東の中心都市『グロズノ』には2つだ。この戦力バランスではまだヒト族国ファーダムと獣人国レアルタードを圧倒し切れまい。我が都市に新たに1つ加われば、大きな戦力増強になるであろう。私がこの魔族国の王となる日は近い。くっくっくっく」


テネブル=インフェルナルは第10部隊長として、ハウディア大陸の侵略を指揮していた。魔族たちは北側の大部分を制圧したが、中央部を覆う広大な死の森、抵抗を続けるヒト族国ファーダム、エルフ族国セダム、そして超閉鎖国の獣人族国レアルタードが残っていた。これらの国々を征服するのは時間の問題であったが、時間はかかることには苦い思いをしていた。


今回、エルフ族国セダムで条件に合ったダンジョンが発生し、テネブル=インフェルナルは『エルダ・スター』の奪取を命じた。エゴロヴナパーティはその任務を成功させ、大きくレベルアップしていた。彼らの成長を見て、テネブル=インフェルナルは今後の戦いに期待を抱いた。


「さて、『エルダ・スター』を魔鉱石鍛工所に持ってい・・・」


テネブルは一瞬『エルダ・スター』に違和感を覚えた。


(ん・・・?なんだ、『エルダ・スター』の中に全く違う魔素が見えるような・・・いや、多種多様な魔素が絡み合っているのか・・・気のせいか・・・)


その瞬間、『エルダ・スター』の近くに小さな魔法陣が現れた。


「ドレッドノート!!!アイテムポーチに戻せ!!」


「え?」


テネブルは神器『ゲルボーグ』に手をかけようとしたが・・・


すべての出来事がテネブルの目の前で高速で駆け巡るように起こった。一瞬たりともテネブルは動く事は出来なかった。


魔法陣から火が噴き出し、『エルダ・スター』に亀裂が入った。


『エルダ・スター』が含む膨大な魔素が空間に広がった。


濃密な魔素に触れたものはすべて消滅していった。


魔素の膨張が速すぎて、テネブルはただ見守るしかできなかった。


(誰だ?こんな悪魔のような策を考えた奴は?『エルダ・スター』に魔法陣を忍ばせ、我が戦略都市の中枢まで運ばせ、破壊させる・・・敵ながらあっぱれな奴だ・・・)


そう思った時には、テネブルの意識も肉体はすでに消滅していた。



                 


                 ◇





ド―――――――――――――――――――――――――――ン


ガッ!ガッ!ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!


遥か遠くに、この世のものとは思えないほどの巨大な光の柱が出現した。まるで終末を告げるように高天までそびえ立ち、その輝きは全ての地上の存在を包み込んでいるかのようだった。


その余波は大地を揺らし、微風となってネオが生成した絶対零度の氷壁にまで届いた。


魔法陣の距離感から推測すると、およそここから2000キロの距離だろう。これほどの影響が及ぶということは、爆心地にはおそらく塵一つ残らないだろう。


ネオはスカーレット、スリー、スカイを近くに寄せ、全員を抱きしめるように守っっていた。氷壁で防御を固めたが防御過剰であることが分かり、すぐに氷を水へと戻し消失させた。


ネオは魔族国の方向を見ると、遥か遠くの光の柱は今も輝いている。その極大の光の周囲に雲の渦が見え、雷や嵐や竜巻が発生している。魔族国ガリウッドは壊滅的な天変地異に見舞われ、その余波でエルフ国全体は大きな地響きを鳴らして揺れている。


ガリウッドは黒い雲に包まれ、時折稲光が走る。


ネオはその場で大きく跳躍し、周囲に立ち並ぶ高い木々を越え、空へと飛び出した。鬱蒼とした森を上空から見下ろすと、無数の木々が織りなす緑の絨毯がどこまでも続いているのが見える。小さな湖や川が点在し、青と緑が映し出され、光が枝葉を揺らし、風がさざ波のように動かす。


森の深部は暗く、密集した樹冠の下には何が隠れているのか想像できない。全体として、自然の力強さと静謐さが感じられ、その広がりが果てしなく続いているかのようだ。


森の果てに聳える姿勢を見せる巨大な山脈があった。荘厳で畏怖を感じさせるその山々は、天に届きそうな高さで、峻険な峰々が連なり、石灰岩や花崗岩が斑鳩を形成している。あの先のどこかにヒト族国があるのだが、あまりに巨大で広大な山脈の為どこにあるのかは見当もつかない。


山々の間を風が吹き抜け、その音は神聖な領域に立ち入ったかのように聞こえる。山肌は太陽の光を受けるたびに驚くべき色彩を放ち、生命力そのものが溢れているかのように見えた。この神々の山々は、自然の偉大さとその創造力を象徴する存在だった。


山脈から視線を外し、ネオは魔族国の方を見た。


驚くべきことに、遥か遠くの空は広がる暗雲に包まれていた。太陽が輝く地表とは対照的に、魔族国の空は暗く、巨大な灰色の雲が空を覆い尽くしている。その雲は広がりを増し、複雑な形状をしており、まるで巨大な山脈が空中に浮かんでいるかのようだ。雲の中からは、深紅やオレンジの稲妻が時折光り、神々の戦いを見ているかのような迫力があった。


闇夜の中で、雲の下の地上は不気味な緑色の光で明滅している。突如として稲妻が走り、空を横断し、その光は地上を一瞬だけ明るく照らし出した。その後、轟音が響き渡り、まるで巨大な獣が咆哮しているかのように、地上を蹂躙していた。


そして、地平線では地震の揺れが感じられ、地面からは噴煙が上がり、地表はひび割れた。竜巻が空を横断し、風の柱が地上を襲った。竜巻の中心では、砂や砂利が舞い上がり、大地が自然の怒りに呼応しているかのように見えた。


再び地上に戻ると、ネオはスカーレット、スリー、スカイを抱きしめた。「おそらく、一緒に見た方が良いだろう」と言って、風魔法を発動させ、全員を上空へと飛び立っていった。


彼女たちも驚きの光景に目を見開いた。


「もしエルフ国だったなら・・・」とスリーが呟く。

「エルフ国はこの瞬間に壊滅状態だろうな・・・」とネオは答えた。


「あの黒い空の下ではどうなっているのだろう・・・?」とスカイが心配そうに尋ねる。

「魔族は全滅かもしれないな」とネオはぼんやりと破壊されていく情景を見ながら答えた。


「この『超高純度魔鉱石』の破壊力を考えると、恐ろしいことね」とスカーレットは恐れを隠さない。

「あの地域にいる者たちは全滅したかもしれないが、まだそう判断するには早いだろうな」とネオが返答すると、ネオたちは再び地上に戻って来た。


「おそらく、今後のエルフ国の状況を考えると、今の魔族国の状況を分かっていなければならない。けども、まずはエルフ国だ。『超高純度魔鉱石』が無くなっているから、奈落の底も無くなっていくはずだ。それに魔族国ガリウッドが壊滅的状況になっているはずなのは、エルフ国の内の人たちも分かっているはずだから、魔族たちはこの国から出て行くのか、どうするのかもも確認したい。ここからエルフ国の反転攻勢の戦いに打って出れるはずさ。まずは状況確認からしていこう」とネオは仲間たちに語った。


「そうしましょう」とスカーレットは、戦いの正念場になるだろうと思い、強い希望を感じて一歩前に進み始めた。

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