第8話それはヴィランたる所以

ヴィランとは何だろう。

──────正義とは何だろう。


悪はなぜ正義に滅ぼされると決まっているのだろう。


オスカーは幼少の頃からヒーロー物の作品が嫌いだった。

何故なら、どうあれ正義は勝つ。そう言ういわばな風潮が嫌いだったからだ


力を手にしてから、彼は数多のヒーローと拳を交えてきたが……結局、何奴も此奴も悪を憎むやつばかり。


だいたい、悪役なんて言葉は理不尽にも程があると思う。


……███……███?……あぁ……君は誰だったかな?……


これはなんの記憶だ?……


突然自分だけの脳内空間に知らない奴の言葉が入ってきた。

別にテレパシーを使えば誰も彼も脳内を読むことは容易い。

けれど、問題は……こいつは誰なのか。という事だ。


昔の記憶?いや、昔の記憶を私が忘れるわけがない。

……ならば誰だ?




「……っ!さっきから私を押さえつけたまま何をしている!……」


──────いかんいかん。つい変な事をしてしまっていた。


先程、領土内で見つけた魔物の巣窟のようなものを処理しようとした際に出てきたこの女をどうにか説得しようとしていたことをわたしは思い出す。


空間固定ディメンションロック


「……がっ……」


わたしは動きを完全に止める。

どうやらこの女は『神槍グングニル・プロト』と言うこちらの世界の神器ゴッズウェポンのようだ。


「なるほど、君は持ち主に捨てられた哀れな武器なのだね。」


この武器には、持ち主の名前が表示されていた。その名は明らかに異世界人だったのだが、驚くことにその男は既に別の武器を手にしたようであった。


男の名は工藤くどう・アーサー・フォルン。おそらくどこかの王家の後を継いだものなのだろう。

名前がすごいことになっている。

そして、その男は今どこにいるかと言うと……

「ほう?……ルルナルの大司教を務めている……か。」


ルルナルは確か法皇制度を取り入れている神の宿る国だったか?


ならさっさと潰すべきか?

まずは法皇国とやらの戦力を引き出すのが先か。


私は未だ固定されているその女を

──────、そのデータを持って新たな臣下を生成した。


「さて、まずは法皇国を貴女1人で襲撃してきなさい。勿論、判断は貴女に任せます」


「御意。」


そう言ってかつて『神槍グングニル・プロト』だった者は姿を変えた兵士へと変わる。


「……私に復讐の機会を与えて下さり、感謝の極みでございます。私『天誅槍グングニル・オリジン』。対象を殲滅して参ります」


そう言って飛び去った彼女を見ながら、わたしはマップを開く。


「さて、あとは国力を測る時だ。勿論この国以外の国は全て滅ぼす。それが私の安寧のためなのだから仕方がない。」


そう言ってオスカーはため息をつく。

彼は戦火からは逃れられない。いや?違うな。

彼は悪役を演じ続けてしまう運命なのだ。


──────結局の所彼はヴィランであり、人々を救い出す救世主でもなければ、誰かに夢や希望を与える英雄ヒーローでもない。

それは何故か。


──────彼が安寧を手にするということは即ち全ての知的生命体の消滅を意味する。

彼は全ての生きとし生ける存在にとって毒であり、絶望なのだ。


ヴィランとは何か?

その問いに彼は昔、こう答えた


「──────自分以外の事を一切切り捨てる事ができる者だ。と」


また、こうとも言っていた。


「切り捨てれないのがヒーローなのだ。それ故ヒーローの最後はいつも凡人を助けてろくな目にあっていない。」





──────さて、と。

わたしは首をゴキゴキと鳴らしたあと、地面に手を当て、始める。


偉大なる地母神安寧を持って世界かす』


手を当てた場所から樹状に光の線が伸びていく。

それは蜘蛛の巣のようにどんどんと大地を覆い始める。

数刻の後、大地が隆起し、この国の国境を境に巨大な壁を作り始める


そして、その壁はやがて背景と同化するように消えていく。

空層断崖くうそうだんがい』という魔術だ。

私の魔力を練りこんだ土塊を辺り一面に散布してあるのだが、それは世界の認識に齟齬を生み出し……その結果そこには《土があるのだからこの国の国土である》という結果を生み出す。

つまり緊急時にこの国を守護する防壁を世界に上書きしたという事だ


次に、辺りに杭を打ち込んでいく。

これは計測用の杭であり、もし仮にこの地に厄災が訪れた際、起爆することで先程の『空層断崖』を発動させるいわば信管の役割となっている



さて、完璧に出来た。

あとは城の方だな。


私は昨日王子と騎士団長と話し合った結果、この国アルメリアを空中都市に変えることが決まった。

それは何故か、シンプルな話なのだがそうすることで国としての最低限の防衛措置をあげる狙いがあった


しかし、この国アルメリアは共和国であり、当然そんなことをしてしまえば反発は免れない。

だからこそ僻地から進めていく必要があったというわけだ。

次はエルフの国を防衛システムに組み込むか……?

それともドワーフの国を地下に設置して地下迷宮でも作って罠として活用するか?……やってみたいことはかなりあるが、どうしてもめんどくさいのがその国に住む住人のことだ


……いっそ目の前で己の無力さを理解させて心を砕いてやろうかな?……


しかしそれは国の民を減らすことになり、王子の理解は得られないだろう。……


「脆いものだな……この世界の住民は」





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