第2話呆れる男

私の周りに高校生が30名ほどいた。

それ等は同じような服を来ていることから恐らく同じ学年の者だと見受けられる。


なるほど、あ奴らが先程女神が言っていたこの世界の危機に対するための措置とやらだろう


「お、おい?!ここはどこだよ……どこなんだよ?!」


ふむ、ここは剣と魔法の国「アルメリア共和国」

なのだが……まぁあいつらにわざわざ教える必要は無いだろう。


「そうよ……私たち……確かバスに乗って帰る途中で……」


成程、奴らはどうやら修学旅行の帰りだったようだ。なんと不幸な奴らなのだろうな


「……おいおい?!これって……もしかして〜!異世界転生って奴?!マジかよwwテンション上がってきたー!」


……あいつテンション大丈夫か?


「ぼ、僕にチート能力あるのかなぁ……ふへへ……」


成程。まぁあるとは思うが


「「皆様どうか、どうか落ち着いてください。……私はこの世界を管理する女神の1人、アルメリア……と申します……」」


どうやら先程の女神は本当に女神のようだ。その証拠に、辺りにいたものたちが皆ひれ伏せている。

まぁ私に言わせてみれば、あんなに無駄に光っているのはむしろ滑稽だと思うが。


そんな私の事は無視して……(まあ口に出していないのだから当然だが)女神は話を続ける。


「「皆様は勇者とそしてこの世界を救う偉大なる存在に選ばれました!なので……あなた方はこの世界を救うだけの力を……」」


私は正直どうでもいいので半分くらい無視しながら横になる。

あれだよ、動画時間が2〜3時間の動画って冒頭の茶番とか飛ばすことが結構あるだろう?それだ。


目を開けるとまだ話をしていた。どうやら彼等にこの世界で戦う為の力の説明をしていたようだ。

彼らの表情から見るにどうやら、満足のいくものだったようだ。


……まぁ彼らは少なくとも人の道を踏み外すのだろうな。と私は少しだけ過去の自分を見るような悲しい目で彼等を眺める。

……なに、あれだ。若気の至りを眺めてる気分さ。

果てしない闘争の末、宇宙そらの何処にも安寧の場所が無くなってしまった私からすると……些か、そう……平穏な世の中こそが至高のものであるといえよう。


しかし、彼らの心の衝動ボルテージは最高潮であった。

その様子を私は冷淡な目で、少し子供を眺めているような目で見ていると


「おい、オッサン!」


と話しかけられた。少なくとも私はオッサンでは無く……お爺さん……いや?もっと歳をとってしまったので……もうそんな若くないと訂正しようとした時


「ちょっと、やめなよ!お母さんが言ってたのよ!初対面の人のことをオッサンなんて呼ぶやつは、バチが当たるって!」


どうやら正義感の強い……いや、言い換えるならば頑固な、ステレオタイプな人がいたようだ。


……少なくとも私は気にしていないのだがな。

うん。気にはしていない。


私は特に見ることも無くなったのでとりあえず全員の居場所をこの世界のデータに追加する。

おそらくこいつ等が何処にいるのか把握しておかないと私に平穏は訪れない。そんなに予感が下からである


私はため息をつくと

空転くうてん』と呟いた


その瞬間私は全く別の場所に転移した。


というのは女神がこちらに近ずいてきたからに他ならない。

これ以上黒歴史みたいな輩と同じ空間に居続けるのは流石に苦痛だ。


めんどくさくなったら直ぐに身を引くといいとかつて私が最も滞在していた国、ニッポンの武人が言っていたことをふと思い出す。


……思えば、彼と過ごしたことでかなり有意義な時間を過ごせたのは……ある意味良かったのかもしれないが。


そんなことを考えながら私は山に続く一本道を歩いている時の事だった。


「ふむ。山賊が4匹……か」


決して健康そうでは無い男たちが4人程待ち伏せしていた。

私は拳を彼らに対してゆっくりと突き出す。


同園流どうえんりゅう波擬なみもどき』


その拳はゆっくりと周囲の水を吸収して行く。その技は、日本の古武術使い、同園どうえんの技。

少しのさざ波はやがて街をも飲み込む波に変わる。そういった技だ


彼等を周囲の水分が集力された拳……いや、波が襲う。


彼らは叫び声すら発せずに消し飛ぶ。



……私はため息をついて天に祈る。


「どうか、今回の世界では平穏を私にください」

と。






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