怪異を一つ、おはなししましょうか

北野かほり

第1話


 怪異をひとつ、はなしましょうかぁ。

 

 掛川市は今年も面白い遊びをするんだ。なぁに大々的な百鬼夜行をするそうだ。去年の今頃も、ネットで募集がかかってね、あのときも小説部門とTRPG部門があったんだ。遊びに遊びの要素をくわえてどんどん広げてるようだね。

 掛川市は歴史としてはまだまだ浅いところでね、いろんなものがあるけど、ここぞっていう売りとしては少しばかりいまいちだからさ、いい目の付け所だろう。若い世代が好きな怖いものやゲームに現実でも遊べれるもので人を呼んでいる。

 祭りの日は朝からみんな仮装をしてね、といっても和風な鬼とか狐とかで、お祭りらしく楽しんでいたっけ。ああ、そうそう、今回もある小説の部門があるから、それに一本なにか載せるためにネタを探してるんだっけ?

 鐘が七度なれば幸せになる、女が殺された石、色の変わる二つの石……なんてなぁ、探せばいくらだってあるもんだ。

 けど、そんな当たり障りのないもんは、もう書かれているし、まぁ、別に土地のものじゃなくても、なんていうが、やはりその土地のものを使うっていうのはいいことだ。だから探せばあるもんだ。いくらだって。

 

 ふぅ。暑いね。けど、ひぐらしが鳴く季節だ。もうずいぶんと涼しくなってきたが、見てみろ、山があるし、川もある。ここは潮騒の橋っていうそうだが、川は浅そうだが足をとられたら死者の国にはいることになるから気をつけな、あのぺらぺらとまわるのは風車ぽいな。硝子も有名だし、らーめんもおいしいから、なんとも飽きさせないところだよ、ここは。ああ、話の続きだがね、なぁに、怪談をひとつ、あつめようじゃないか。それで賞をとれたら山分けだ。

 知ってるかい、首切り鳥っていうのを。知らない。ああ、そうだろう。そうだろう、あれは愛媛にいる怪異だそうたが、なんでもね、語られたのが「クビキリドリがくる」っていうたった一言だけなんだ。内容はない、なにをしたのか、どんなことをしたのかも、なぁにもない。案外とね、そういうやつがちょろり、ちょろといてね、ただ名前だけ、なんとかがきたぞ、というだけのやつ、なんでそんなもんが? そりゃあ、怪異だからさ、そして誰かが見たが、結局語られなかったってやつさ。最近、ネットでは有名だろう。名前だけある、何かきた、のにじゃあその内容がないってやつは本当はえらい怖いものじゃないかのって、ね。語られないのはそいつがえらいことをしたから誰も語れないのか、それとも語ることすらためらったのか。けど名前やら何かいたというのだけは語ってあるのは語らずにはいられなかったのか……謎があれば、人はそいつに刺激されて知りたくなる。ここはずいぶんと新しい街だっていったがね、それでもちゃあんとあるんだよ。語られてないものっていうのが、むしろ、そういうところのほうがいっぱいあるもんさ。まだ語られていないやつっていうのがね。なんでだろうね。新しい街なのになんでみんな知らない古い名前だけのもんがいるんだろうねぇ。


 で、怪異をひとつ、話しましょうかぁ。

 へぇ。遠くの山からひゅーどろんどろんと音がする。そりゃあきっと天狗さまの笛の音だ。山からすると、子どもが一人消える。そりゃ江戸時代のお話かい。そうか、人さらいの天狗さまかだぁ。

 

 で、怪異をひとつ、話しましょうかぁ。

 深夜ね、タクシーに若い娘さんが乗るっていうが、そいつを家に届けるといないっていうんだ。家族は娘は死んだといいながら、料金を払ってくれるそうだ。むすめがかえってきたんだねぇ。

 

 で、怪異をひとつ、話しましょうかぁ。

 大きな池があるそうだ。そこにね、行くと腕が伸びてきて、旅のひとの腕をひっぱってなかにおとしてしまうそうだ。おまえもこっちにおいでってねぇ。


 ……なんてね、いろんな話がころんり、ころんりんとしているが、どれもこれもみぃんな知ってるもんばかりだねぇ。

 怪異なんてもんは人が作り出して、勝手語って、おもちゃにしちゃあ、飽きて捨ててしまうものだ。

 怪異を集めれば、祭りの日には本物さんたちがくるかもしれない。そんな話はよくよくいろんなところで聞くが斬新さがない。ここにきて、探し回って、なにかねぇかと興味と楽しみを持つもんは、そうだね、ありきりたなものじゃあ飽きている、むかし話っていうのじゃあ、人さまに語っても面白味がない。

 人ってもんは貪欲でわがままなものでさ。作ってもすぐに飽きてしまう。刺激がほしい、ほしいとあっちをさがし、こっちをさがし、


 怪異を一つ、話しましょうかぁ。

 新しくて斬新なもんを人は探してふらふらしていると、こうやって一緒に探してくれるやつがいる。

 そいつはね、ずっとこうやって話を聞いてくれるんだけどな、ああ、そうだ。知ってるものばかりで飽き飽きしていると、じゃあ、とっておきと口にして、知らない話をしてくれる。そいつはね、こうやって誰も知らない怪異を探そうじゃないかなぁと言って、こんな静かでからからとひぐらしが鳴く、顔もわからん黄昏時、そうそう、いまだよ。黒く赤い、空の下だ。どこからか、ああ、聞こえた。鐘の音だ。こいつは七回目だね。そうしていうんだよ。

 怪異を一つ、お話しましょうかぁ。

 あんたが知らない話だよ。いま、ここで作られた。

 怪異を探すやつは、だぁれも知れない怪異と巡り合う。けどね、だぇれもしらないのは、それりゃあ、理由がある。

 ああさき語ってみたいに怖いもの、危ないもの、語れないものじゃない。


 お前がそれになるんだよ。


 

 ああ、よかったよかった。これで俺は終わりだね。次はお前だよ。

 俺もう行くよ。

 こんなこと語っても仕方ないだろうに。ええ、なんだって? なんの話だって、次に作るのはお前っていってるんだよ。悪いねぇ。誰も語らないものなんない、こうやって怪異のなかで語り続けて、どんどん膨れて、溢れて、人がいつの間にか語るってなるんだ。今日あったことは俺がちゃあんと他人にも教えておくから、お前は新しいもんをせいぜいがんばってくるだね。斬新で、おっかなくて、人が興味をひいて、おもちゃにしてくれるもんを。じゃないと、ずぅとずぅとついてまわられるよ。なにって、なんだろうね。なにかだよ。

 え、それで何に語っているかって。

 おいおい、そりゃあ、お前さん薄情だ。

わかってんだろう?

 お前だよ。お前。ここまでずっと読んでる、無責任で好奇心いっぱいの、お前だよ。


 かいいをひとつ、はなしましょうかぁ


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