第7話 この日、運命と出会った
確信があった。間違いなく噂の妖刀とは私の探している大太刀のことだ。幸い拠点としている場所まで知ることができた。歩いて二日といった所だろうか。
しかし、月がはっきり見えるくらいには暗くなってきた。そろそろ、休んだ方が良さそうだ。休息の意味ではなく、人としての世間体を維持するためである。夜間を強行できる程度には夜目は利くが、それをすると人間であることを疑われる。妖怪に見られても、人間に見られても不都合に働いてしまう。
だから私はこの五年間、人としての常識を守り、夜中はほとんど動かずに野宿で過ごしてきた。本当だったら野宿ということも避けるべきなのだろうが、いちいち宿を探すのが面倒だったし、私の場合はただの野宿ではなかった。
街道の横に草むらがあったので、そこへ荷車を隠して私は無数に生える草の一本に変化した。
こうして、手近にあるものに変化して眠りにつくのだ。
翌朝、周囲に誰もいないことを確認すると私は、人の姿へと戻り荷車を押していった。予想通り二日ほど街道を歩くと、町と言えるほど発展した場所に着いた。
生活の場というより、商いの場といった印象で、近くを流れる川には絶えず舟が行き来をして、荷物を運んでいた。露店には野菜を売る者、陶器を売る者、武具を売る者など、様々な商人がおり活気に溢れていた。町の名前は、
「お嬢ちゃん! 髪飾りなんていらないかい?」
「綺麗ですね。でも手持ちがないので、また今度寄らせていただきますね」
母の美貌を受け継いだことには、とても感謝をしていた。こうして好意的に声をかけられることも多いからだ。本当は変化で、もう少し無難な顔に変えた方が目立たない点で言えば良いのだろう。しかし、それは親を否定するような罪悪感が伴い長続きしなかった。
町内を歩いていくと『妖怪退治』と大きく書かれた旗の下に、一人の青年が不愛想な顔をして、腕を組んでいた。足軽が装備しているような軽装な甲冑を着けた青年の背には、探し求めた大太刀があった。
青年に向かって歩いてゆくと、視線がこちらを捉えて眼が合った。お辞儀をすると青年は軽く会釈を返した。
「妖刀使いの退治屋とは、あなたのことですか? もし、そうなら刀について、聞きたいのですがお時間よろしいですか?」
「刀のことは知らない……拾い物だからな」
心底、私に早く立ち去ってほしいような邪険な扱いを受けたが、もう少し粘り強く交渉をしてみようと私は思考を巡らせた。
「あと……妖怪退治をお願いしたいのですけど、よろしいでしょうか?」
「何を退治してほしいんだ?」
「白峰という天狗を退治したいのです」
「……あんた……どこで、白峰の名前を知った?」
青年の目つきが変わった。冷やかしではないことは察しているようだ。
「両親の仇ですので、絶対に殺さなくてはいけません」
「あの天狗、いろんなところで恨みを買いすぎだろ……だが、無理だ。できない依頼を受けることはできない。すまないが、依頼は受けられない」
偶然で済ますことのできない何かを私は感じた気がする。
「あなたも、白峰という天狗と何か因縁が?」
ただでさえ、陰気な印象を感じさせる長い前髪の奥にある表情は、さらに曇りをましたように眉間にしわを作った。
「君と同じだ。家族の仇だ。俺だって殺してやりたいさ。だが、大天狗は文字通り格が違う。人間では勝てないさ」
彼の心象風景を覗いてみた。すると見渡す限りの焼け焦げた森だったような場所だった。あちこちで、赤い火が燻っており風を受けたなら、今にも燃え上がってしまいそうな怒りを隠しているという印象だった。
私と同じく白峰を恨んでいるが力不足という現実が重くのしかかっている。
私が風になれば、燻った木々は大きな炎が上がる。そんな予感がした。
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