岩石になったんだが色々あって元に戻れました

はこにわにわに

第1話

イシダは考える。

…最初は、でっかい岩ぐらいの大きさだったんだよ。

山ほどじゃないけど、小高い丘ぐらいの大きさだったな、多分。

今は土の中に埋まってて、サイズもよくわからない。

…あれからどれくらい経ったんだろう?

よく分からないけど、かなり経った気がする。


岩だったあの頃が懐かしい…


そうそう、なんか勇者っぽいやつの邪魔をしたりした事もあったな。


「この岩を壊せば、魔王の城に行けるんだ!」

やーめーてーよー、痛くもかゆくもないけど壊さないでー(棒読み)


「くっ…この岩がなければ世界を救えたのに!」

ふはははー、そんなヘナチョコな剣じゃ壊れないよー!


で、何十人目の勇者がやってきた時だっけ?


「勇者様! 岩にかけられた魔法を解けば、破壊できます」

げっ! バレたか!

むーねーん、ぎゃーっ(棒読み)


それから落ちて川に流されちゃって…

川ってすごいよね。岩も簡単に流せるんだから。

でも、久しぶりに違う場所に行けたんだよね。

周りの景色が変わるって感動するよなー。


この世界に来る前は、全国の営業所を回ったりして、正直こんな仕事を辞めたいと思ってたんだよな。

でも、一切動けないってのも地獄だよね。


あの日は新しく立ち上げた営業所でトラブルが続いて、社用車のドアの取っ手には鳥のフンが付いていて、むしゃくしゃして石を蹴飛ばしたら、壁に跳ね返って自分に当たったんだよな、確か。

それから気がついたら、まさかの異世界にいたってわけ。


泣こうにも岩だったから、涙は出なかったけど、かなり鳴動してしまって近隣住民を怖がらせちゃったんだよなぁ。


その騒動のせいか、気がついたら願いをかなえてくれる神として祀られてたし。


「神々の恩寵を仰ぎ、我々の願いをお聞きください。」

おお、なんか美人なお姉さんだな。


「我々の魂は純粋で、この願いは真摯です。神様、お願いします、我々の願いを叶えてください。」

鼻の下を伸ばすイシダだが、お姉さんが鈍器のようなものを手にしてイシダに向かって振り下ろす。


「神様、我々の願いをお聞きいただき、心から感謝申し上げます…っと、チェストー!」

…え、ちょっと待って、やめてくれ!

てーてーてー…意識が消えていく…


次に気づいたら、世界を滅ぼした原因として封じられてたんだっけ。


真っ暗で湿気た場所に1人、いや、正確には岩として1つだけ。

 「お前のせいで…村は滅んだんだ…」

え? 岩違いですよ? それに今度は幼い声だ。保護者の方はどこにいるんだろう?


 「返せよ! 母様を返せよ!

うわぁぁん!」

うわぁ…オレ、何をしちゃったんだろう?

心が辛いから、とりあえず意識を切るかな…

そーい…


で、川に流された後、誰かに拾われて、分かれ道の休憩スポットの代わりに使われている石なんだ。

みんな、容赦なくオレの上に座ってくるんだよな。


「ふぇっふぇっふぇっ、よっこいしょい、と。」

くっ…今日は婆ちゃんか。

出来れば隣の可愛い孫娘に座られたかったのに…!


 「ふぇっふぇっふぇっ。

石が自分の存在を自覚しているとは、おかしな話だわいねぇ。」

 「バァちゃん、また変なのと話してる。

今度はなぁに?」

 「バァちゃんの尻の下の石が喋りおったわいな。」

おいおい、婆ちゃんオレに言ってるのか?

わかるのかオレが?


 「ふぇっふぇっふぇっ。

お主にいいことを教えてやるわいな。

今からずぅっと先の天と地が一度滅んだ先の世界でなぁ、お主は元の姿に戻るじゃろうて」

え? オレ、戻れるの? てか一度滅ぶの?

この世界が?


 「ふぇっふぇっふぇっ。ところでミューンちゃん。

……

お昼はまだかいのぅ?」

 「バァちゃん、ついさっき食べたばかりでしょ?」

おいいい! ボケてんのかよ? それとも異世界にありがちなお助け婆なのか?

おい、婆ちゃん! おいいい!


都合よく暗転。

げっ、またこれかよー!


*****


時間は経ち、岩として土に戻る…


 さて、イシダの物語もここでお終い。

あの気まぐれな老婆の言葉の通り、イシダは何億年もの先の時代に発掘されます。

 

イシダは錬金術師たちの手によって元の姿を取り戻し、目を覚ますと、彼の目に飛び込んできたのは、彼の元の世界に似た世界でした。


 目覚めたイシダは岩になる前と同じ生活を始めるのですが、その話はまたどこか別の場所で。


 めでたしめでたし。

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