外野がなんか言ってる その2
別にこれは男女恋愛だろうが女女恋愛だろうが男男恋愛だろうが、とにかく恋愛なら確実に当てはまることではあるが。外野から「お前らお似合いだよな」と言われた二人が実際に色々とある、というパターンだと色々としんどいのである。それを隠しているとなれば、尚更。
そもそも反応に困るし、何より第三者の目にそのように映っていると思うと……何とも、複雑なのである。むずがゆい、というか。奇妙に言語化できない感情が心中を渦巻くのだ。特に上から三番目、四番目のお似合いとか付き合ってなかったの?とか。第三者から見てもそうなんだ、と思うと……何を感じるのが正解なのかまるでわからない。どうすれば良いのだろう。恋愛経験が皆無に等しい梅吉には難易度が高すぎる。そしてきっとこれは青仁も同じなので、つまりは手遅れだった。
さて互いに視線を送り合ったところで特に何も事態は進展しないし、むしろ先程から一茶の熱視線がその温度を増している気さえする。ここはとにかく、何かしら発するべきだろう。少なくとも無言を貫くのは得策ではないだろう。ということで。
「この参加者の声抜粋ってとこのさ、世界平和って何?」
一際異彩を放っている文言にツッコミを入れることにより、お茶を濁そうとした。
「ああそれか。それはな、『あいつらに女の子取られるぐらいならあいつら同士でくっつかれた方がまだマシ。そしたら世界が平和になるだろ』だってよ」
「それ本当に俺らの現状知ってる奴の発言か?!絶対同学年じゃないだろ?!俺ら彼女ができるどころか会話すらままならないってのに!」
「もしかしなくても回答者パラレルワールドの住人なんじゃねえの?!なあオレもこんな女友達ゼロ人の記録を更新し続けてるクソッタレな世界線じゃなくて、オレが女の子と最低でも会話はできてるらしいすっばらしい世界線に行きたいんだけど?!」
無事お茶を濁すことには成功したが、それはそれとして心に多大なる傷を負った。
一体その人物は何をどう勘違いしているのか知らないが、人間たかが女の子になった程度で彼女ができたら、誰も苦労しないのである。そこに至るまでは多大なるコミュニケーションの積み重ねやら何やらが存在しているというのに。
「……お前らがそんなんだから、余計にそういうことを言われるんじゃないか?」
「どういう意味だよ!」
「なんか知ってんなら口を割れ口を!」
何故か残念なものを見る目で見られた。解せない。
実の所一茶の視線は「たかが性転換した程度で、ある程度相性問題があるにしてもここまでの美少女になるかよ」というものであったのだが。その辺りを指摘される機会がないままここまで来てしまった童貞達に、それが理解できるはずもなかった。
「は?お前らを調子に乗らせるような事を僕が言うかよ」
「むしろ調子に乗らせてほしい。今調子最底辺だから」
「そうだぜ一茶、オレら友達だろ?友達の機嫌を最高潮にしてくれないのか?」
「友達なあ。友達だってんなら、僕の質問に答えてくれるよな?」
奴の言葉に、二人は顔を見合わせ。
「青仁、木村一茶?って知ってるか?」
「あーなんか名前だけ聞いたことある。一年の時同じクラスだった奴だよな」
二人と一茶はとても仲の良い友人なので、それはもう爆速で赤の他人のふりをした(矛盾)。
「お前らマジでそういうとこだけ仲良いよな」
「いやあそれほどでも。なあ青仁」
「だなー!」
「褒めてねえよ!ってだから感想は無えのかってさっきから聞いてんだけど?!」
何としてでも二人から美味しい反応を引き出そうと必死らしいが。それに簡単に乗ってやるほど、二人は御し易い人間ではないので。
「感想?さっき言ったじゃん、あの世界平和とかいう意味不明な文章は何なんだって」
「それは梅吉の感想だろ。青仁、お前は?」
「破れ鍋に綴じ蓋って確実に悪口だよな。俺らのこと一体なんだと思ってる訳?」
「日和ってんじゃねえよおま」
「って事でもう終わりで帰って良いよな?!よし帰ろうぜ青仁!」
「よっしゃ」
「おい!!!!!」
全力で勢いで押し切って、この場から逃走するという手段を試みた。流石に身体能力に優れる一茶とはいえ、隙を突かれた上で二人の人間を同時に留めるのは困難だろう。そう判断しての行動であったのだが。
ふいに、梅吉の指先が先程から度し難いプレゼン資料を表示し続けているスマホに触れ。
「……は?」
ぱ、と切り替わった画面に、梅吉の思考は完全に囚われる羽目になった。
大きく目を見開いたまま、動きの一切を止める。見るべきではないと理解しつつも、そこから視線を離すことができなかった。
「ど、どうしたんだうめき、ち……?」
様子のおかしい梅吉に気がついたのだろう、青仁がこちらに振り向き。己と同じようにスマホの画面を見て、梅吉と同じ末路を辿った。
94票:付き合いたい
以下参加者の声抜粋
・ちょっとでも考えた事ない奴はこの学校にいないだろ
・おっぱいとおっぱいの間に挟まりたい
・元男?うるせえんなこと知っててこっちは言ってんだよだって可愛いだろ?!
・赤山のちっちゃい唇にむしゃぶりつきたい
・三つ編みの子、最近生足じゃん。あの白くてすべすべな太ももに膝枕してもらいたい
……まあ、冷静に考えて何も不思議なことはない。男子高校生だもの、大して接触のない美少女に対する認識なんてこんなものだ。むしろ今まで出てきていない事に驚くべきだろう。梅吉だって、こんなザマにならなければ絶対そちら側であーだこーだ言っていただろうし、完全に否定するつもりは毛頭無いとも。
それはそれとして、と。自分でも何に対して言い訳しているのかわからないまま、梅吉の思考回路は加速していく。無意識的に奇妙な激情を伴いながら。
考えたことない奴はいない?わかる。梅吉だって青仁でその手の妄想はもう何回もしている。まあ妄想の先に果てるアレがないが。
おっぱいに挟まりたい?わかる。まあ梅吉はあの夢がたくさん詰まってるでっかいおっぱいを、数度ほど触ることに成功しているのだが。
元男だけど可愛い?わかる。まあ梅吉は自分という奴にとっての最高の美少女を使って、そいつが見たことがない可愛い青仁も見たことあるのだが。
……まあ、これは正直ノーコメントとさせていただきたい。正直ちょっとうえってなった。
だが最後、お前だけは絶対に許さねえよ。
「う、うわあ。いやわかるけどさ、これは……ってヒョ゜ッ」
苦い顔をしていた青仁が、こちらを見て何故か唐突に奇妙な悲鳴を上げる。はて、どうしたのだろうか。梅吉は特に何もしていないのだが。
「梅吉?ど、どうしたんだなんか怒ってんのか?ま、まあ確かに俺もちょっとどうかなって思うけど。でも正直こんなもんじゃん?だからその、そんな怖い顔しなくて」
「怒ってねえよ」
ああそうだ、梅吉は別に怒っていない。いやちょっと怒ってたかもしれないが、感情の大部分はそんな瞬間沸騰してどうにかなるような簡単なものではなかったので。
膝枕してもらいたい?とてもよく理解できる。良い性癖をしていらっしゃる、と握手をしてやっても良い。まあその時うっかりそいつの手を握り潰してしまうかもしれないが、問題ないだろう。この通り今の梅吉は最高に美少女なのだから。美少女に手を握り潰されるなんて、女子に飢えた男子高校生にとってはご褒美でしかないだろうし。きっと許してもらえるだろう。
でも正直、その程度じゃ梅吉の心中で渦巻くこれは収まらないのだ。だから。
あれはオレが美少女になってしまったからこそ手に入れられた特権であって、お前がそう簡単に手を伸ばせる聖域じゃねえんだぞ、ぐらいは思ったって良いだろう。なあ?
パステルカラーの夢を煮詰めたような女の子の姿で。口角を釣り上げて、目元を獰猛に歪ませる、独占欲剥き出しの男の子みたいな顔をして。どこの誰とも知れない青仁に劣情を向けた男に、
「……」
「な、なんだよ」
「いやオレ案外運良いなって」
側から見れば、フリーズしたかと思えば外見に反した笑みを浮かべる梅吉は非常に不可解なものであり。ついでに言えばそれを至近距離で目撃していた青仁にとっては、梅吉マジでお前案件であったが、青仁がそれを素直に口にする訳もなく。
「はあ?どっからそんなよくわかんない自己肯定が生まれんだよ……もしや、自分って魅力的に見られてるんだあ、とか思っちゃってたり?」
「……ん?ああそういえば。でもそんなの普通に当たり前じゃね?だってお前もオレのことそういう目で見てくるじゃん」
「そうだな」
「だろ?だから正直知ってた感といつも通り感しかない」
そういう意味では前例しかないのである。自分に対する劣情に塗れた発言なんて、青仁の口からそれはもう耳にタコができるぐらい聞いているし、素直にキモいと思っている。ついでに言えば自分も同じようなことを青仁にやっているし、多分青仁もキモいと思っているだろう。
強いていうなら、青仁に直接的にその手の発言をしている自分以外を見たのが、たまたま初めてだったぐらいで。正直、日常茶飯事ではあるのだ。
多分、その自分以外、というのが妙に引っかかっているのだけど。まあ雑にまとめれば「オレはお前より先に青仁の膝枕堪能してやったぜバーカバーカ!」って辺りなので。深い意味は無い、はず。
「ちっ」
「おい今舌打ちしただろ。舌打ちする要素あったか?」
「いやいやまさかこんなビジュアルの美少女が舌打ちなんかする訳ないだろお前の幻聴だって!」
「中身が青仁だから普通にする」
「俺は品行方正だから舌打ちなんてしない」
「もしかしてオレが知らないだけで今日ってエイプリルフールか?」
青仁の『てっきりお前も自覚したと思ったのに』という舌打ちに梅吉が気がつけぬまま、やり取りは平常運転へと戻っていく、その横で。
「──よし、あいつ処す」
己の目の前で梅吉か青仁、もしくはそのどちらかに対し付き合いたいと述べた参加者全員に一撃を喰らわせ、例の協力者にもこれだけは載せるなと厳命していた男が、低い声で物騒な宣言を口にしていた。
あれがなくては梅吉の牽制も青仁の落胆も目撃できなかったことは理解してはいるが、それはそれとして直接見せるようなもんじゃねえだろうがよ、と複雑な内心を単純明快な憎悪一色に染め上げて。一茶は二人が視線を逸らしたスマホをスッと手に取り、指を鳴らしながら教室を去っていく。
「……あれ、一茶どっか行った?」
「よくわかんねえけど帰っていいのかな」
「って、あ、なんかL◯NE来たんだけど」
その後、一茶がいなくなったことに気がついた二人が首を捻っていると。勝手に呼び止めておいて勝手に去っていた一茶からL◯NEが送られてきた。
『イッサホイサ! が画像を送信しました』
『お前らに汚い物を見せた馬鹿は僕が責任をとってちゃんと処した』
『安心しろ』
何も安心できない文面に、大柄な男子生徒が廊下に倒れ伏しているという大分ショッキングな写真を添えて。
「シンプルに犯行現場じゃん。つか薄々そんな気はしてたけど、やっぱあれあいつの意思じゃなかったか」
「だな。一茶本人も順番が前後する、とか言ってたし。多分二枚目に出てきたやつが本来のトリだったんだろ」
「つってもまあ、それで確認を怠ってんのもちょっとどうかと思うけど」
結局は一茶の確認不足により発生した事故……と言えるほどではない何かだったので、奴に過失がないわけではないのだが。故意ではないのだし、この通りアレな方法とはいえ本人が当事者である二人以上に気にしているようなので、特に追及するつもりはない。というか結局、協力者とやらは一体何者なんだ。
「てかそもそも悪口調査の発端はあいつだし」
「な。そもそもお前らにくっついて欲しいって思ってるやつがこんなにいるんだぞ!って見せたかっただけ感あるし」
「あーそれか。てかああいうの見せられて、素直に進展するやつっているのか?少なくともオレだったら逆に後退すると思うけど」
「でも俺ら特に何も進展するつもりないし、関係無いけどな」
なんてことのないように語る青仁に、お前あんなにヤりたがってたくせに進展する気ないんだ?と梅吉は言いたくなったが。墓穴を掘る気配しかしなかったので口にはしなかった。
下手なことを言って、今の関係性を壊したくないという気持ちも大分ある。
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