友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?
濃支あんこ
勢いって大体ロクなことにならない
目の前に居るのは自分の性癖をこれでもかと盛りに盛って体現したかのような美少女(友人)。対面する己は友人の性癖をこれでもかと盛りに盛って体現したかのような美少女(元男)。傍から見ている立場であったのなら、普通にめっちゃかわいい女の子とめっちゃかわいい女の子が一緒にいる!で終わったと言うのに。自分も友人も中身は男であるということを嫌ほど思い知っているのだ。普通に猥談とかしたことあるので。
「なあ……」
「うるせえ黙れ喋るな。口開くと中の人が滲むんだよ」
「おめーだってそのツラでうるせえ黙れとか言うな夢が壊れんだろ」
「は?そんなクソみたいな夢とっとと壊しちまえよ。オレはれっきとしたオレだが?」
「でもお前の息子死んだじゃん。お前のお前もういないじゃん」
「いやちんこの話してねーから。何言っちゃってんのお前」
なお現在地はファミレスである。美少女ルックで男子高校生的ムーブをしているのである。しかも大人しそうなお姉さん系ゆるふわ三つ編み美少女(友人)の傍には、明らかにドリンクバーを混ぜまくってやらかしたブツが置かれていた。あまりにも絵面がやばい。しかし現在己は当事者(ゆめかわ系ツインテ美少女)なのである。第三者であれば単にドン引きして去って終わりだと言うのに。
「てかなんでお前美少女になっちゃってんの???」
「俺の台詞取らないでくれる???」
「もしかちて性転換病を知らないんでちゅかー?もしかちてお前原始人なんでちゅかー?」
「いや知ってるっての俺とお前が言いたいのは元は単なるフツメンだろって話だろうるせえな」
「マジでなんでだ?百歩譲ってオレがウルトラスーパーイケメンだとしてもお前はフツメンじゃん。変にブサメンでもないから影薄いし」
「おめーがウルトラスーパーイケメンなら俺は超ウルトラスーパーイケメンだから」
「小学生か?」
「急に冷静になるのやめろ」
冷静になった勢いで吐瀉物みたいな色をした液体を吸う友人。頼むからやめて欲しい。そして何故それを平然と飲み干せるんだ逆にどんな味か気になってきたぞ。しかし友人が作り出すグロ物体は大抵ろくな味ではない、それで何度痛い目を見たのか数えたくもないため、好奇心を抑え込む。
「……っ、ちょっと不味いなこれ」
「味覚死んでるお前が不味いってやばくね?このゲロ」
「ゲロじゃねーから。飲料だから……で、何の話してたんだ?」
「鳥頭め。つか、とにかくその外見でゲロ啜るな」
「だから違うっつってんだろ。で、なんでお前は俺の好みを体現してんの?」
「体現したくて体現したんじゃねえよ。姉貴に連行されて気がついたらこうなってたんだよ。つか、お前こそなんでゆるふわ三つ編み巨乳お姉さんなの?」
「あーお前の姉ちゃんか……。俺は、オカンにやられた」
「お袋か……それは……どうしようもないな」
互いに互いの姉もしくは母親を思い出す。なんとなくしか知らないが、そのなんとなくの時点でわかる程度には強引というか、なんと言うか。とにかく立場の弱い男は逆らえないようなタイプである。
「でもさー……まさかお前が自分と同じように性転換病やって、互いにド好みの美少女になってるとかどんな確率だよ……?」
「それはそう。思わずちんこ無いの忘れた」
「だからその外見でんなこと吐くな。……まあオレも忘れてたけど」
そのまま男子高校生ムーブから葬式ムーブにシームレスに切り替わったが、適当に頼んだポテトとからあげが来た為またシームレスに男子高校生ムーブへと戻った。
……互いに何をしたのか、それは互いに自分の息子が息を引き取ったことを忘れて、勢いそのまま男のノリでナンパをしてしまったのだ。当然そんなことをしてしまえば、口調やらノリやら表情やらで中の人(男)が透けるわけで。即座に気が付き、無言で近場のファミレスへと飛び込み現在へ至る。
「お前だけ女の子になってればさー、お前に突っ込めたのにさー」
「いややめろよキショいわ」
「で、本音は?」
「逆の立場だったらお前に突っ込んでたに決まってんだろ、男子高校生舐めるな」
キリッとした顔で宣言すれば、いやキリッとすんなしーと返される。男子高校生なぞ十割性欲で出来ているのだ、当たり前である。
「なんでオレの息子は旅立ってしまったんだ……?」
「仮に今の外見についててもそれはそれでなあ」
「それでもいい、ヤる」
「ひえっガチじゃん。目が据わってんじゃん。てか仮に俺とお前がヤってもそれはレズなのか?違くね?」
「あー……なんなんだろな?でもホモでもねーしな」
現実逃避代わりに至極どうでもいい討論が交わされる。正直目の前の美少女がクソみたいな言動しか取らないせいでお互い限界なのである。自分が友人の幻想を殺そうとすれば、友人が自分の幻想を殺しにかかるのである。なるほどこれが幻想殺しってか、やかましいわ。
「ツインテふわふわで巨乳のくせに」
「ゆるふわ三つ編みで巨乳のくせに」
「うがあああああ……」
「己が美少女であることなんか認知したかねえんだよおおおおおおおおお……」
そろって頭を抱えてテーブルに突っ伏した。そしてそのままの勢いで己は店員を呼び、ハンバーグプレートを注文する。贔屓目抜きにスーパー美少女である二人組のうち片方が、濁った眼でテーブルに伸びながらハンバーグプレートを注文しているという、過去最悪の意味不明混沌構図に店員が明らかに困惑の眼差しを向けていたが、接客業はそんなもの(偏見)なので是非ともドン引かずに頑張ってもらいたい。
そんな手が滑った自分と可哀想な店員の一部始終を虚無顔で眺めていた友人が、口からもごもごとポテトをはみ出させたまま言葉を口にした。
「
「これ以上絶望を重ねるつもりか?」
「
「やめろォ!!!!!!!!!都合のいい展開カモン!!!!!!」
「
「クソがッ!あと美少女ルックキメてるオレをその名前で呼ぶのキツくねえの
「めっっっっちゃくちゃきつい。でもお前を梅吉以外のどんな名前で呼べってんだよ」
「梅ちゃんと……いやまってクッソきめえわ却下で」
自分で言っておいて、青仁が現在進行形で吸い上げてる吐瀉物を飲み込んだような気分になった為即刻却下する。そりゃそうだろーという目で奴は見てくるがお前だって似たようなものだろう、青仁だぞ青仁。普通に明らかな男性名だぞ。
「こんなにかわいいのになんで中身が青仁なんだよ」
「そっくりそのまま返すぞ無限ループやめろ」
「……いや、待てよ」
梅吉が突如シリアスな空気を生み出す。それに合わせて、青仁の表情も引き締まった。なお現在地は真昼間のファミレスである為、パーテーションの奥、奥様方の団欒は見なかったこととする。雰囲気を阻害するので。
「中身が気心知れた友人なんだから、むしろどんだけキモイ願望でも互いに実行し合えるのでは???しかも外見は性癖どストライクの美少女にだろ???」
「………………天才か?」
気の狂った発言に、憔悴しきった青仁が据わった目でIQ1桁の回答をする。ツッコミ不在である。そしてまたもや気まずい状況にやって来たハンバーグプレートに梅吉がかぶりつく。なお現在午後四時である。
「俺お前みたいな女の子といちゃらぶセックスするの夢だったんだけど」
「いや初っ端から飛ばすな?そこは手繋ぎとかキッスとか」
「でもお前たしか年上のお姉さん趣味じゃん。……お姉さんにぃ、甘やかしてほしいんでしょ?」
「うっ……」
わざとらしく婀娜っぽく振る舞うゆるふわ三つ編み巨乳お姉さん(青仁)(いちゃらぶ好き)に思うところがなかったと言えば嘘になる。例え相手の性的な趣味を把握していようとも、現在の自分みたいな外見の女の子といちゃらぶセックスしたいと思っていようとも。
「……つまり、青仁くんは、わたしと……付き合いたい、ってこと?」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「うわっ壊れたウケる」
仕返しに全身全霊全力を持ってしてやつの好きそうなタイプをロールしてみたところ、赤面しながら言語機能を失ってしまった。いや本当に、赤面している姿はとてもかわいらしいのだが、表情の崩れ方が生み出す雰囲気が見慣れた野郎のそれなのである。それだけで若干萎えてしまうはずだから中の人は重要だ。……その、はずなのに。
「私で、いいのかしら……?」
頬を真っ赤に染めて、わざとらしく恥じらう乙女の素振りを上乗せして。それでも透ける見知った友人の人間性とそのお世辞にも綺麗とは言えない欲望が複雑に絡み合った表情を浮かべる青仁に。
「っ、うん!」
見知った、女に対する劣情と。一生知らずに生きていくつもりだった謎のときめきのようなものを。相反しそうなそれらを彼に対して感じてしまっただなんて。そんな気の狂った言葉、言えるはずがないだろう?
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