第19話 ワイバーン退治

「お前は公国に使い潰された。お前の後ろにいるフロルやフェリスもそうだ。救われない運命を歩むだけなんて、そんなのゲームのシナリオだけで十分だろ? 現にお前等はこの世界で生きている。定められた運命に抗う正統な権利がある。だから――」




 俺は言った。


 リーナに差し出した手にほんの少し力を込めて。




「お前が望むなら、俺達と一緒に来い」


「おぬし……」




 リーナが俺の手をとるまで、果たして一秒もかかっただろうか?




「ああ、どうか頼むのじゃ」


「任された」




 俺は力強く笑いかけ、フロルとフェリスの方を見た。




「さて、じゃあ……手始めにこのトカゲを全員でぶっ倒すか」


「できるかな。私達だけで……」




 フロルは、不安そうにそう呟く。




「大丈夫だろう。だって俺がいるし」


「っ!」




 フロルは一瞬硬直して、緊張が抜けたように笑顔を向けた。




「そうだね。頼りにしてる、マスター




 フロルは、すらりと刀を抜き放つ。


 その美しい刀身が、真っ赤な空の下で一際強く輝いた。




「さて。やるか」




 俺は《紫炎牢しえんろう》を解除した。


 とたん、ワイバーンを地面に縫い付けていた紫色の炎が、ろうそくの火を吹き消すがごとくかき消える。




『グワァアアアアアア――ッ!』




 身の毛のよだつような声を上げ、ワイバーンは飛び上がった。


 咆哮が大気をビリビリと揺らし、否応なく緊張を高める。




 ワイバーンの口が大きく開き、真っ赤な火球が生まれる。


 その火球が、真っ直ぐに俺達の方へと迫り来る――




「僕に任せるのだ」




 刹那、俺達の前に青い影が飛び出した。


 盾を構えたフェリスだ。




 俺達の前に躍り出たフェリスに、火球が激突する。




「フェリス!」


「大丈夫。心配いらないのだ」




 爆炎と煙が逆巻く中、フェリスは振り返って笑いかける。

 

 ところどころ、傷や火傷を負っているが――比較的軽傷だ。彼女単体でワイバーンと渡り合うだけの能力は無いから、おそらく国宝武器のお陰だろう。




「これが僕の役目なのだ」


「いやそうだけど……肝が据わってるな」


「まさか。怖いに決まってるのだ……でも。今までの、幸せな未来が見えなかった頃に比べれば、全然大したことないのだ」


「そうか。無茶はするなよ」




 俺は爆炎をかき分けて走り出す。


 


「今度はこっちの番だ! 《風刃エア・カッター》ッ!」




 風属性魔法の《風刃エア・カッター》を、上空のワイバーンめがけて放つ。


 瞬間、巨大な風の刃が天空へと駆け抜けた。




「っ!? でか!?」




 ワイバーンはギリギリで回避し、獲物を捕らえ損なった巨大な風の刃は赤い空に激突。


 異空間である《解放の試練》の空に亀裂が入った。




 いやしかし、なんだ今の威力。


 元 《剣聖》を打ち破ったから、確かに魔力量が上がっている自覚はあったけど――どんだけレベル上がってるんだ?




 俺は、自分のステータスを横目で確認し、戦闘中だというのに腰を抜かすほど驚いた。




◆◆◆◆◆◆




 名前:カイム=ローウェン


 年齢:17


 性別:男


 職業:《黒の皚鳥》戦闘員




 レベル:55→175


 体力:11000→32500


 魔力:18700→44000


 魔法適正:火・土・風・闇+無属性


 


 スキル:《鑑定眼》 《索敵》 《火球フレア・ボール》 《土形変化ソイル・チェンジ》 《石弾ロック・バレット》 《風刃エア・カッター》  《暴風乱テンペスト》 《疾風足ジェット・ラン》 《空間移動ワープ》 《回復リカバリー》 《解呪ディスペル》 《色彩変化》 《魔力障壁マジック・フィールド》 《紫炎(火属性魔法+《状態異常スペシャル》)》



 《状態異常スペシャル》で生んだ闇属性魔法一覧:《金縛り》


 固有スキル:《魔法創作者マジック・クリエイター




◆◆◆◆◆◆




 れ、レベルが120も上がってる!?


 弱体化しているとはいえ、《剣聖》を倒したのだ。


 まあ、わからなくはないが――




「行けるぞこれ!」




 俺は、ニヤリと不敵に笑い、空に浮かぶワイバーンを睨み上げ、駆けだした。


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