第13話 僕っ娘属性なんて、俺の原作知識にはありません

「そういえば、お兄さん。名前はなんていうの?」


「俺? 俺は、カイムだ。よろしく二人とも」




 俺は、二人を見まわして言った。




「と、言ったところわるいんだけどさ。親睦を深めたいところではあるけど、生憎と夜が明けたらすぐに出発しなくちゃならないんだ。体力も魔力も、まだ心許ないから休ませてもらうよ」


「大変なんだね、カイムさん」




 ふと、フロルは目を伏せる。


 それから、消え入りそうな声で「私達、これからどうすれば……」と呟いた。




 なるほど、当然の発言だ。


 信じていた最後の希望に裏切られ、行く当てもない。


 こんな孤独な二人が、これからどう生きていくというのか。




「来る?」


「え?」


「俺と一緒に来るか?」


「そ、それは……でも」




 フロル達は、逡巡するように目を泳がせる。




「ここだけの話。お前たちを助けたのは、これから行動していく上で役に立つと判断したからなんだ」


「そ、そうなの? でも私達、ただの奴隷で……」


「そう。ただの奴隷だから、自分たちの持つ潜在能力ポテンシャルに気付いていなかったんだ」


「ポテンシャル……? はっ」




 何かに気付いたように、フロルは両手で慎ましやかな胸を隠し、フェリスはジト目で睨んでくる。




「えっち」


「不潔なのだ」


「違う違う、いかがわしい意味じゃない」




 ポテンシャル=女としての魅力と受け取られてしまった。


 まあ、実際二人ともレベルが高いから、下心が全くないというわけでもないが。




「俺がフロルに目を付けた最大の理由は、お前の保有してる魔力量だ」


「魔力……量?」


「やっぱり自覚はなかったんだ。俺自身、そこそこ凄い才能を持って生まれてきたと思ったけど、たぶんお前はそれ以上だ。鍛えれば、かなり強い魔法の使い手になる」


「そうなの?」


「ああ。折り紙付きだよ。もちろん、フェリスもね」




 俺は、フェリスの方に目を向ける。




「魔力量はフロルほどじゃないけど、レイズの蹴りをもろに食らって生きているだけのタフさは貴重だ。鍛えようによっては、優秀な防御前衛タンクを任せられる」




 そう言うと、二人は少し驚いたように目を見開く。


 少しだけ無言のときが流れた後、フロルは上目遣いで聞いてきた。




「カイムさんの……役に立てる?」


「もちろん。というか、厳しいこと言っちゃえば役に立ってくれなきゃ困る」




 そう、これは彼女に「恋人になって欲しい」と言っているわけでない。


 一緒に「茨の道を歩いてくれ」と言っているのである。




 俺の下克上計画は、生半可な覚悟では務まらない。


 現ラスボスとの力量差は、先程の戦闘で身に染みてわかっている。




 有無を言わせぬ俺の発言と眼力に、フロル達は怯む――かと思いきや。




「よろこんで、あなたの手足になる」


「僕の命の恩人。喜んで尽くすのだ」




 あっさりと、俺の手を握ってきた。


 


「おう、よろしく」




 俺は二人に笑いかけて――




「――ていうか、フェリス。お前僕っ属性だったの? 原作にそんな設定なかったじゃん!」


「僕っ娘? 原作? なんの話をしているのだ?」




 フェリスは首を傾げる。


 ああ、そういえば彼女は“殺されるために出てきたちょい役”だから、一人称作中で語られなかったっけ。




「なんでもないよ、こっちの話」


「そんなことよりカイム。さっき、夜が明けたらすぐに出発するって言ってたけど、どこに行くのだ?」


「ん? ああ、それな」




 俺は小さく息を吸って言った。




「ここから東へ二キロ行った先にある、アリクル山。そこに隠されている――《紫苑しおんの指輪》と武器を手に入れる」


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