第11話 本来のシナリオをねじ曲げて

《レイズ視点》




「……終わった」




 《極光閃オール・レーザー》が駆け抜け、えぐり取られた地面を見つつ、俺は呟いた。




 仮面を付けた、黄色い目の男。


 決して、手強かったわけじゃない。


 


 実際、実力差は十分以上にあった。


 だというのに――あいつは《終末ノ焔ラグナロク》を最後まで耐えきって見せた。


 


 見たところ、まだレベルは低い。


 脅威になるはずもない存在であるはずなのに、《終末ノ焔ラグナロク》で追い詰められ、トドメを刺すその瞬間まで、あいつの目は死んでいなかった。




 それが、気色悪くて仕方ない。


 あの、俺の全てを知っているかのような黄色い目が、いけ好かない。


 まるで呪いのように、ベッタリと脳裏にこびりついている。




「あの野郎……」




 死んでスッキリしないヤツなんて、初めてだ。


 俺は、その男が最後に立っていた場所――《極光閃オール・レーザー》でえぐり取られた地面に、唾を吐き捨てた。




△▼△▼△▼




《カイム視点》




「――とまぁ、今頃あの男は、俺が死んだと思ってるんだろうなぁ」




 アリクレース公国、西地区の某所。


 人気の無い、木々に囲まれた静かな湖の畔に俺はいた。




 俺は、身体の状態を確認する。


 幸い、軽度の火傷と打撲くらいなもので、神話級の魔法を撃たれたわりに奇跡だとしか言いようがない。




 ちなみにだが、最後の清廉潔白レーザーは喰らっていない。


 というか、あれを喰らってたら今頃この世にいない。




 光属性魔法、《極光閃オール・レーザー》。




 《終末ノ焔ラグナロク》と同じ、神話級の魔法スキルだ。


 触れた対象を、概念ごと抹消する超必殺殲滅魔法。ストーリーのどのあたりで登場したかは……よく覚えてないけど。




 まあでも、一周回って《極光閃オール・レーザー》には助けられた。


 何せ、退場のタイミングを見失っていたから。


 アイツが、自分の視界も遮ってしまう大魔法を使ったお陰で、相手からは完全に俺達の姿が隠れる形となった。




 その結果、レーザーの直撃で消滅したと見せかけ、直撃の寸前で《空間転移ワープ》を起動して安全な場所に転移できたのだ。




「っと、こんなことしてる場合じゃなかった」




 俺は、一緒に連れてきてしまった女の子二人の方を見る。


 フロルの方は、気絶していた。どうやら、さっきの攻防の激しさで気を失ってしまったらしい。




 まあ、彼女に関しては特に目立った外傷はないし、放っておけば目を覚ますだろう。


 問題は、フェリスの方だ。




「酷いな、これは。血を流しすぎてる」




 俺は、ひんやりと冷たい草の上で横たわるフェリスを見る。


 夜の闇の中でも、はっきりとわかるほどに血色が悪い。




 すぐに手当てしなければ助からないのは、火を見るよりも明らか。


 ――が、この状況は想定内だ。




 ゲーム内では、俺が助けに入らなければフロルは絶望に打ちひしがれたまま、殺されていた。


 壁にたたき付けられ、致命傷を負ったフェリスも、そのまま誰にも見つかることなく息絶えてしまう。


 それが、本来のシナリオだ。




 ゆえに、彼女が致命傷を負っていることは予め想定済みである。




「本当なら、お前が傷付く前に登場すべきだったんだろうけど……間に合わなかった」




 実際、最後の最後までフロル達を助けるべきか悩んでいた。


 けれど、やっぱりどうしても、見殺しにできなくて変装用の仮面を調達し、二人の元へ向かったのだ。




 あのとき、あと一秒でも駆けつけるのが遅かったら、助けることはできなかったと考えるとゾッとする。




「痛い思いをさせた分、死なせはしないから。《魔法創作者スキル・クリエイター》、無属性回復魔法 《回復リカバリー》を制作」




 《回復リカバリー》。


 読んで字の如く、体力を回復させる無属性魔法だ。


 


「さっきの戦いで、魔力のほとんどを使っちゃったけど……残った魔力を全部回復に当てれば!」




 フェリスの身体に手を当て、《回復リカバリー》をかける。


 すると、フェリスの全身が淡く発光して、ゆっくりと傷が癒えていく。




「このまま回復魔法を維持して……ゲホッゴホッ!」




 俺は激しく咳き込み、血を吐き出す。


 残り少ない魔力を無理矢理絞り出しているのだから、当然だ。


 でも、ここで手を止めるわけにはいかない。




「死なせない、絶対!」




 意識がもうろうとしていく中、俺は根性で回復魔法をかけ続けた。


 やがて――無事、フェリスの傷は完治した。




「よかった。これで――」




 そのとき、張り詰めた緊張が解けたからか、はたまた魔力を限界まで絞り出したせいか。


 急激に意識が遠くなって。


 ドサリ。




 地面に倒れ込む。


 そのまま、俺の意識は深い眠りの中へと埋没した。

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