第5話 邂逅、悲運の少女

◆◆◆◆◆◆




 名前:カイム=ローウェン


 年齢:17


 性別:男


 職業:《黒の皚鳥》戦闘員




 レベル:32→55


 体力:8500→11000


 魔力:13850→18700


 魔法適正:火・土・風+無属性


 


 スキル:《鑑定眼》 《索敵》 《火球フレア・ボール》 《土形変化ソイル・チェンジ》 《石弾ロック・バレット》 《風刃エア・カッター


 固有スキル:《魔法創作者スキル•クリエイター


 


◆◆◆◆◆◆




「うわっ! 一晩で20以上もレベルが上昇してるし」




 そりゃ、いきなり魔法の威力も上がるわけだ。


 ただでさえ俺は、保有魔力量も多いというのに。




「このまま上げてくと……少しマズいかもな」




 いつ、今回みたいなミスをしでかすかわからない。


 それに次ミスをすれば、今度こそレイズの耳に入る。




「あと、いつまでこの膨大な魔力や体力を隠せておけるか、だな」




 今は一般人を装いつつ、目立たないことで自分がとんでもない魔力を有していることを隠しているが、それもいつまで持つか。




 高位の者が見れば、その者の魔力の保有量は看破できてしまうし、膨大な魔力を持つようになれば、一般人でも気付くほどのオーラを全身から放出してしまう。


 


「主人公……王国の勇者アリスがダンジョンでの修行を終えて出てきたとき、放たれる強烈なオーラで、周囲の人間が驚いてたからな」




 なんとか、ステータスを隠蔽する方法を考えなければ。


 


 何かなかったか?


 俺は、ゲームの知識を総動員して思案に耽る。


 


「ステータスを隠蔽する方法……他の目から欺く……魔力を隠蔽する魔法が作れれば……!」




 俺は一瞬、《魔法創作者スキル・クリエイター》のスキルを思い浮かべる。


 が、すぐに頭を横に振った。




「ダメだ。魔力を隠蔽する魔法は作れるけど……俺じゃ使えない!」




 唐突だが、この世界には魔法の属性が六つ+一つ存在する。




 火・水・土・風の基本四属性に加え、光・闇。そして回復や身体強化などの無属性。


 その中で、魔力を隠蔽する魔法など、状態異常や五感を欺く魔法スキルは、闇属性のものだ。




 しかし、俺の所有している魔法適正は、火、土、風、無属性の四つだけ。


 闇属性の魔法は、使えないのである。




 俺は、落胆で肩を落とし――




「――いや、待てよ」




 ふと、とあることを思い出す。


 あった。


 俺のゲーム攻略知識の中に、闇魔法を使えるようになる方法が。




「そうだ! あのアイテムをゲットできれば、俺も闇魔法が使えるようになる。そうしたら、ステータスの隠蔽もできるじゃないか!」




 ゲームの序盤。


 物理攻撃の効かない相手に苦戦した勇者アリスは、自身が使えない闇魔法を使えるようにするため、そのアイテムを手に入れた。


 俺もそれをゲットするしかない。


 


 幸い、今はまだ物語開始前。


 ゲットする余裕は十分あるし、これ以降レベルをガンガン上げても差し支えないだろう。




「とりあえず、例の場所へ行く準備を整えるか」




 俺は訓練場を出て、アジト内の廊下を歩く。


 周囲は冷たい石で固められ、窓は小さくくり抜かれたものしかないため、昼間だというのに薄暗い。




 こんなんじゃ、足下もおぼつかないな。


 そう思いながら歩いていると、曲がり角で誰かにぶつかった。




「うわっ!」




 俺はびっくりして声を上げる。


 が、相手は特に声を上げることなく、代わりにドサッという尻餅をつく音が聞こえてきた。




「す、すいません! お怪我は――」


「おいっ! テメェ!」




 謝罪を遮られ、男の罵声が飛んできた。




「ご、ごめんなさい!」




 反射的に頭を下げる。


 ――が、男が怒鳴った相手は、俺じゃなかった。




「テメェ、人にぶつかったくらいで何転んでやがる! マヌケが!」


「も、申し訳ありません」




 尻餅をついた女の子は、弱々しくそう答える。


 暗くて気付かなかったが、隷属の首輪をはめられていた。




 奴隷か……


 少女の背後にいる、怒鳴りつけた男に聞こえない大きさで、舌打ちをする。




 《黒の皚鳥》は、公国内にいる身寄りの無い子どもを拾って、無理矢理奴隷にしている。


 もちろん、その指示を出しているのはレイズだ。


 隷属の首輪という、主人に逆らったら死ぬ呪いがかけられた首輪をはめられ、本人の意志に関係なく働かされる。




 それに、原作ではほぼ全員の奴隷が女の子なんだよな。


 それが意味することとは、無論“そういうこと”だ。


 組織上層部の連中の、情欲の吐き溜め。


 そんな奴等に夜を蹂躙され、昼間もこき使われる。




 そして厄介なことに――奴隷に憐憫れんびんの情を抱いて手を差し伸べた者にも、罰が与えられる。




 可哀想だが、ここは見て見ぬふりをするしかない。


 俺は、少女の顔もろくに見ず、その場を去ろうとする。




 だがそのとき――俺はふと、少女に違和感を覚えた。




 なんだ、この異様なオーラは。


 目を合わせないことで、より際立つ違和感。


 滲み出るオーラは、濃い魔力のアカシ。


 おそらく、この少女は……俺と同じか、それ以上の魔力を内に秘めている。




 俺は反射的に振り返る。


 少女は既に立ち上がり、男によって乱暴に手を引かれながら、去って行くところだった。




 その後ろ姿を見て俺は目を見開く。


 白く長い髪は、先端だけ桃色に色づいている。


 左腕には、ミサンガのような紐を巻き付けていて、一目で大切なお守りだとわかった。




 そして――そんな特徴的な髪とチャームポイントを持つ少女に、俺の記憶が反応した。




 間違い無い。


 彼女の名は、フロル=シルベニア。


 


 『国家大戦・クライシス』に登場する、いわゆるネームドキャラクターだ。


 そして――時系列でいけば、レイズの最初の犠牲者になる少女である。




 より簡単に説明しよう。


 彼女は物語開始前に、死ぬ運命だ。


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