第64話 小鬼狩りの数少ない利点の一つ

 何体もの強腕猿を倒すことで第二階梯の真言である『強腕』を手に入れた自衛隊一行だったが、流石にそろそろ疲れてきているようだった。


 まあ今日の目的である二つの真言を手に入れて、真力も四になるということまで達成できているので成果としては十分過ぎるというものだろう。


「それじゃあ皆さんはここで休んでいてください。俺はちょっとまだやることがあるので」

「もしかしてまだ迷宮に挑むつもりなのですか?」


 鈴代さんが驚いた様子で聞いてくる。


 自分達のサポート、それも戦闘のほとんどを請け負っておいて、まだ戦うだけの余裕があるのが信じられない様子だった。


 でも真力による強化があればこのくらいは当然なのだ。


 それこそあちらでは大して鍛えていない一般人であろうとも。


 と言っても、この仕事をするようになってから俺なりにどちらの世界でも鍛えてはいるのだが。


 真力による肉体強化も筋肉が多い方が高いという説もあるとのことなので、それを検証する意味も込めて。


「ええ、と言っても行くのはゴブリンの階層ですけどね」


 ゴブリンの真言は使えない。

 だからその階層は不人気であり他に誰かがいるということも無かった。


 実際、ゴブリン階層に入ると入口の見張りに告げたら、最初の内は正気を疑われたほどだったし。


 でも小鬼狩りとしてゴブリンの真言を全て手に入れている俺にとって、この階層はある種の稼ぎ所であるのだ。


 だって誰も寄り付かないこともあって、ここの階層のゴブリンを全て狩り尽くしても問題ないと見張りから言質も取ってあるし。


 ちなみに他の階層でそんなことをやったらしこたま怒られた上で罰金や厳罰が下されることもあり得る。


 だってそうすると魔物がある程度の数まで復活するまで他の誰かが真言を手に入れられなくなってしまうからだ。


 それを考えれば狩り尽くしても全く怒られない点からもゴブリンから得られる真言の価値の低さが分かるというものだろう。


 つまりここはマジで誰も利用しない階層ということである。


(だとしても一つ一つは安くとも魔石であることには変わりないし、迷宮なら解体する手間がいらないからな)


 それに何より人気のない階層だから入場料も小銅貨一枚と激安なのが最高だ。


 それならゴブリンを狩りまくれば十分に利益を出せるのである。


 本来なら余計な真言を手に入ってしまうというどうしようもない障害も既にそうなっている俺にとっては何の意味がない訳で、敵の居場所も『小鬼感知』の真言があるから探す手間もほとんど必要ない。


「これで今日の痛い出費も少しはマシになるからな」


 そう言いながら俺は階層にいる全てのゴブリンの命を容赦なく刈り取っていく。勿論魔石は全て回収して上で。


 ちなみにこの俺にしかできないゴブリン狩りだが、実は迷宮の存在を知ってから定期的に行なっている。


 だって折角の自分だけが可能な稼げる手段なのだから利用しない手はないだろう。


 どうもゴブリンのような雑魚魔物から採れるクズ魔石でも利用方法が全くない訳ではなく、ギルド以外でもウルケルなどがそれなりの量を定期的に買い取ってくれるのだ。


 なんでも魔石を装備に組み込む際に、こういう使えないクズ魔石を砕いて他の魔石の緩衝材に利用できるとかで。


 ただこれはあまり一般的ではない利用方法らしく、それもあってクズ魔石を売っているところは意外に少ない。


 だから普段のウルケルはクズ魔石が買えなかったら、それなりの大きさの魔石を買って砕いているらしい。


「正直に言えば勿体ないが、納期がある装備を期限内に仕上げるためには仕方がない場合があるから」


 だから俺が定期的にクズ魔石を手に入れて定期的に卸してくれるのは助かっているとのこと。


 まあ俺としてもそれでクズ魔石をそれなりの値段で買い取ってもらえるなら損はないので文句はなかった。


「ふう、終わりかな」


 散々異世界でやってきた小鬼ゴブリン狩りだ。今更失敗する訳もなく順調に全てのゴブリンを狩り終えることに成功する。


 と言うか、こうやって何度も何度も『小鬼感知』を利用しまくっているせいか、以前よりも随分と感知範囲が広がっているのだった。


 それもあってやればやるほど効率的になっている気がする。


(もしかしたら世界で一番、ゴブリンを狩ることに関して俺が上手いかもな)


 俺より強い冒険者や騎士は幾らでもいるだろう。

 だから仮に討伐数を競うなら勝てないのも分かっている。


 彼らがその気になれば強力な真言で数百のゴブリンを一気に殲滅できるようだし。


 だけど少ない労力で効率的にゴブリンを狩るという点では誰にも負ける気がしなかった。


「ま、そんなので勝ったところで誰も認めてはくれないんだけどな」


 エイレインなどはそんな俺に価値を見出しているようだが、それはあくまで現状で便利だからでしかない。


 転移門騒ぎが落ち着いてゴブリンの異常繁殖が終われば、そんな俺の価値も暴落するのは分かり切っているのだから。


 転移門が幾つあるのか、そしてその全てを管理下にできるのかは分からない。


 だから事態が収拾するかどうかはまだ不透明な面もあるが、だからと言ってそうなった時に手遅れにならないよう自分なりに稼ぐ手段などを確立しておかなければならないだろう。


 現実世界でも異世界でも、生きていくためには金が掛かるものなので。


(次は四日後くらい来るかな。その頃には数も戻ってるだろうし)


 迷宮の魔物は弱い奴ほど復活が早い傾向にあるようなので、そんなに待つことなく定期的な収入となる俺にとっては実に見入りの良い仕事なのだった。

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