第62話 真言構成と所有限界の意味
『頑丈』の真言を得たことで多少の無茶が効くようになったこともあり、折角の機会なので甲冑亀以外の魔物とも戦ってもらうことにした。
勿論、迷宮の別のフロアに行くためには一度甲冑亀のフロアから外に出てまた祭壇の入口から入り直す必要があり、そうなれば当然その度にお金を払う必要がある。
(このままだと苦労して稼いだ金があっという間に無くなっていくな……)
一人ならともかく全員が複数階層に挑戦する費用を出すとなれば、まだまだアイアイランクで収入に限りのある俺にとってかなり痛い出費ではあった。
でも効率よく真言を手に入れてもらうためには迷宮を利用するしかないので仕方がない。
連続して同じ魔物を倒すと真言も手に入れ易くなるそうだし、なにより魔境だと狙いとは違った魔物と遭遇することも避けられないからだ。
それで万が一でもゴミのような真言を手に入れるのは避けるべき事態である。
まあ彼らがこちらでも稼げるようになったら掛かった費用は返してもらえるとのことだし、貸しも作れる意味もあるのでこれも先行投資だと思うことにしよう。
「これが真言と真力か。確かにあるのと無いのとではまるで違うな」
「でもこれでも得た真力とやらは2だけなんすよね? それでもこんな違うとなると、真力の差がある相手は多少鍛えた程度じゃどうにもならないってのも頷けるってもんすよ」
「だからこそ異世界では真力や真言が重要視されている、ということですか。やはり実際に体感してみないと分からないことも多いですね」
酒井さん達がそう話しながら自分達の変化からこの世界での真言の重要性を実感しているようだ。
その発言は正しく真力があるのとないのとでは肉体の強度や発揮できる膂力などが雲泥の差となる。
しかも今回はそれに加えて『頑丈』の真言の効果もあるので、今までとは肉体の頑丈さにかなりの違いがあることだろう。
(『頑丈』の真言は防御限定だけど真力を2か3くらい上乗せした感じになるって話だしな)
つまり四人の自衛官は防御力だけなら真力を4から5ほど有しているのと同じ状態な訳だ。
攻撃面は武器でどうにかするとして、これなら多少の魔物から攻撃を受けても問題ないはずである。
この鬼の迷宮と呼ばれる迷宮で狙い目となる真言は幾つか存在している。
甲冑亀『頑丈』が防御面で有用なのに対して、次に狙っている『
ただし『強腕』の腕という名称から分かる通り、その補正が掛かるのは腕回りのみだけなので腕の力は増しても、蹴りの威力や脚力などはそのままのようだが。
(本音を言えば、『強力』とかの全身の力を強化する真言の方がバランス的には良いんだが、この辺りでそれを手に入れられる迷宮はないから仕方がないな)
それでも腕の力が強くなれば殴打や武器を振るう力が増すので魔物との戦いには有効な真言ではある。
効果が腕に限定されていることで『強力』よりも強化幅は大きいようだし。
なお『強腕』の足版である『強脚』もあるそうで、大半の冒険者がこれらの真言の中から最低でも一つ、あるいは複数を持っていることが多いそうだ。
『頑丈』や『頑強』などで防御面を強化して、『強腕』や『強力』によって攻撃面を強化する。
そうすることで真力の上乗せと合わせて少ない真言でもかなりの頑丈さと力を両立できるようになるのだとか。
なお、その異世界で魔物と戦う者の最適解の一つとされる真言の構成だが、俺には再現できないと言っていい。
厳密には不可能ではないが、かなり厳しいのには間違いないのである。
なにせ既に十という基本的な真言の枠が限界近く埋まってしまっているので、新たにそういう真言を加える余地が少ないのだ。
(十一個目からは弱い魔物だとかなりの数を倒さなきゃいけないみたいだしな)
それだけの労力が必要になるなら、もっと良い真言を手に入れた方が効率的にも良い。
例えば第二階梯の『強腕』の上位互換である第三階梯真言の『剛腕』とかもあるので。
「しかし迷宮のような効率的に真言が手に入れられる施設が存在しているのなら、こちらの世界の人は誰でも好きな真言を手に入れ放題なのではないですか?」
「いえ、そうでもないみたいですよ。どうも迷宮では魔物を生み出せる数に限界があるんです。それに加えて一度倒した魔物が復活するのにもある程度の時間が掛かるみたいですから」
強い魔物ほど数が少ない上に一度倒してから復活するまでの時間が掛かる。
中には一体しか出現しないのに復活に一年もの時間を要する奴もいるくらいだとか。
迷宮によって出現する魔物は異なる。
貴重で強力な真言を落とす魔物がいる迷宮ほど人気であり、そういった大半の迷宮は貴族によって管理という名目で半ば独占されているのが現状である。
それになにより全ての魔物が都合よく一番目に強力な真言を手に入れられる訳ではないのだ。
三つ目に強力な真言が手に入る魔物でも、その前までがゴミ真言なら避けられることになるが自然の流れというもの。
(そういう意味ではゴブリンなんてゴミカスだからな)
一つも良い真言がない上に落とす魔石も最下級のものとなれば誰が好んで倒そうとするだろうか。
実際に鬼の迷宮でもゴブリンのフロアに行く物好きは皆無とのこと。
だって真言が手に入らないようなペースでゴブリンを狩っても入場料すら賄えないレベルの魔石しか手に入らないので。
「次の狙いである『強腕』の真言を持っている強腕猿はアイアンランクの魔物で、真言の補正でアイアンランクにしてはかなり強力な物理攻撃を仕掛けてきます。なので甲冑亀の時と同じようにまずは俺が戦って敵を弱らせる必要がありますね」
たぶん今の真言や真力状況では、自衛官の四人がかりでも勝てない相手だろうし。
「民間人にお守りをされる自衛官か。分かってはいたが、なんとも情けない話だな」
「それも最初の内だけですよ。これから余計な真言を手に入れなければ皆さんの方が強くなるのも時間の問題でしょうから」
そんなことを話しながら俺達は強腕猿がいるフロアへと向かっていった。
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