第47話 満月の日の影響
それから次の満月の日である今日が来るまで蛙沼を調べ尽くしたが、他にゴブリンの巣穴は見当たらなかった。
だから転移門の暴走を止めることができれば、このゴブリンの異常繁殖という事態も完全に収束するはずである。
(周辺のゴブリンも粗方狩り尽くしたし、これなら元の色蛙が生息する状態に戻るのもそう遠い日のことじゃないだろ)
何故なら最初の方でゴブリンを殲滅した周辺では既に多数の色蛙が発見できたからだ。
ゴブリンという害獣がいなくなったことで、避難していた色蛙達も住処に戻ってきたらしい。
ちなみにそいつらを倒し過ぎると『跳躍』などの今の俺には必要ない真言を手に入れてしまうので、俺は色蛙に関しては真言が手に入らないように調整しながら倒して魔石などを採取していた。
そしてその経験によって、他の冒険者がゴブリンに困らされる理由についても実感させられたというもの。
(弱い魔物でも大量に倒せば、どんどん真言が体の中に刻まれていくのが分かる。これじゃあ単体ならともかく下手に集団を相手にしたら、すぐに要らない真言が手に入っちまうだろうな)
ただでさえゴブリンは繁殖力が強く数が多い魔物なのだ。
それが異常繁殖で更に増えたとなれば、倒すのが躊躇われるのも納得するしかない。
と、そんなことを考えながらかつてゴブリンの巣穴があった近くを捜索している時だった。
「お、この感じは……」
真力が特定の場所に集まり始める感じとでも言えばいいだろうか。
転移門が開きかけているを俺は感覚で察知したのである。
しかも何故か前よりもその門の存在を遠くからでも分かるようになっているようだ。
(何度も転移門を利用してそれに対する感覚が鋭くなったのか? いや、それとも二つの門のゲートマスターになったからか?)
なんにせよ場所が分かり易くなったのは良い事だ。
これで満月の日にのみ暴走して開く転移門を見つけやすくなるのだから。
そうして暴走している転移門の近くまでやってきた俺だったが、そこで思わぬ光景を目にすることとなる。
(あれは色蛙だよな?)
暴走する転移門の近くに、一体の色蛙が存在いていたのだ。
色は薄い黄色なので『静電気』の真言を持つ色蛙のはず。
この真言を持っているから触るとピリピリして痛いのだが、逆に言えばそれだけであった。
「一体だけなら狩っておくか」
今のところ暴走した門でも魔物が現実世界に転移する現象は確認されていないが、あんな近くにいたらもしかしたらということもあり得なくもない。
それに『火粉』の魔石よりは安いが『静電気』の魔石も売れなくもないし。
まあ必ずそれらが出るとは限らないので『吸着』や『跳躍』の魔石が出ることもあるが、それは運次第なので仕方のないこと。
そう思ってサクッと仕留めようとした時だった。
運の悪いことに本格的に転移門の暴走が始まったのは。
転移門の暴走は満月の日に起こる。
これは間違いない。
だが丸一日、常に暴走しているという訳ではないらしい。
完全に門が開いて何かを転移させるのはその日の内の一定の帰還のみとなっているようなので、先ほどまではどうやらその前段階だったようだ。
(ヤバイな。このまま魔物が転移したら……はあ!?)
色蛙が現実世界に転移するか、あるいは暴走した門によってまた誰かがこちらの世界に転移させられるか。
これまでの経験からそれらの可能性が起こることを懸念していたのだが、その考えは当たらなかった。
何故ならそこで起こったのは、暴走を開始した転移門の近くにた色蛙にどこからともなく発生した真力が流れ込んでいくというものだったからだ。
そしてその真力を取り込んだ色蛙の身体は見る見るうちに巨大になっていく。
しかもその変化は巨大になるだけではないのか、額に一本の角が生える始末。
その姿は明らかに通常の巨大蛙のものではない。
「こいつは、亜種なのか?」
信じられないという思いが強い。
だがその巨体から発せられる圧力とでもいうのか。
敵から発せられる気配はかつて戦った
そこで思い出したのは、ハリネ村周辺のゴブリンに亜種が多かったことだ。
俺が必死になって倒した
「……まさか暴走した転移門は近くの魔物を亜種化させる力を持ってるってのか!?」
目の前の光景と合わせて導き出される結論はそれだった。
でもそれなら以前の時にゴブリンの亜種が異様に多かったことも説明がつく。
(てっきり異常繁殖だけが原因かと思っていたのだが、まさか別の要因もあったなんて)
そんな事に俺が頭を働かせている間に、牛くらいの大きさまで巨大化を果たした色蛙だった奴は、徐にこちらに向けて頭を向けてくる。
正確には、巨大化すると同時に生えた角の先端を。
そして何故か角全体からバチバチという嫌な音が聞こえてきた。
「まっず!?」
慌てて俺は近くにあった木々の影に隠れるようにして、その先端が向けられている軌道上から外れた。
その次の瞬間だった。
ドン! という轟音が響き渡って、先ほどまで俺が居た地点に大きな穴が開いていたのは。
(電撃だよな、今の)
一瞬のことだったが確かに目に映ったのだ。落雷が落ちた時のように一筋の稲妻がその場所に奔ったのを。
そしてその電撃が着弾したと思われる場所から焼け焦げた嫌な臭いがすることからも間違いないだろう。
そこで俺が思い出したのは、かつてウルケルに言われた言葉だ。
(どんなに安全マージンを取っていても亜種など上のランクの魔物が現れることはあり得る、か。くそ、まさにその通りじゃねえか)
思わぬ強敵の登場にどうするか、俺は選択を迫られるのだった。
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