第45話 蛙沼調査開始
準備を終えた俺は本格的に蛙沼の調査に乗り出した。
装備は基本的にはゴブリン用の棍棒であり、それ以外の強敵用に鉄の短剣二本と銅の短剣が一本となっている。
(本当は防具も買いたかったけど、高くて今は手が出ないからな)
だから防具はリュディガーに譲ってもらった革の胸当てのままとなっている。
これでもゴブリンくらいの攻撃なら防ぐことは十分に可能なので、それほど強い魔物が出てこない蛙沼なら十分だろう。
なにより沼地を移動するので全身鎧のような重い装備は体力の消耗が激しくならざるを得ないし。
そうして冒険者ギルドが用意してくれた蛙沼の地図を見ながら調査を開始する。
「聞いていて通りゴブリンが多いな」
『小鬼感知』の真言は使えば使うほどにその感知範囲が広がっており、それによって未だにこちらに気付いていない多くのゴブリンの存在を俺は捉えられている。
どうやら真言はそうやって使うほどにゲームでいうスキルの熟練度が上がるが如く、効果や範囲などが上方修正されるものが多いようなのだ。
実際『火炎』などの真言も慣れれば炎を早く出せるようになることからもそれは明らかである。
そして『小鬼感知』は使うのに真言を必要とせず、常に使用し続けることが可能。
それもあってかなりの速度で成長しているのだった。
(まあこれが成長したところで使える相手はゴブリンだけなんだけど)
そんな世間からはゴミ扱いされている真言でも、今の俺にとっては有用なのだ。
だったらそれを利用しない手はないということで、しっかりと敵の背後を取るように動いて奇襲による殲滅を開始する。
幸いなことに真言が十になったこともあり、前よりも楽にゴブリンの相手が出来るようになっている。
これで相手の位置も丸分かりなのだ。少なくとも通常のゴブリンに負ける要素はどこにもなかった。
そうやってしばらくの間、一人で黙々とゴブリンの掃除をしながら転移門がないか沼地を虱潰しに探していく。
「おっと、色蛙か」
沼地に隠れていた色蛙が飛び出て襲い掛かってくることも時折あったが、色蛙と世間で呼ばれる
またこちらを困らせるような特殊な能力もないので、真力だけなら十となってアイアンからブロンズランク辺りの力を有している俺の敵ではなかった。
小型犬から中型件くらいはありそうなその身体で沼地から飛び掛かってくるのを回避して、着地した隙を逃さずその頭部目掛けて棍棒を振り下ろす。
『跳躍』の真言で高く跳べようと、地面に降りた瞬間は『吸着』なども意味をなさずに無防備なので。
だから真力が十の力で振り下ろされたその一撃で色蛙は倒すことができるのだった。
「お、こいつは『火粉』の魔石持ちか。当たりだな」
倒した色蛙はリュディガーなどに教わった通りに解体する。
その際に取り出した魔石を見て俺は笑いを隠せなかった。
ゴブリンから採れる魔石は使えない真言が込められているので二束三文にしかならないが、こいつの魔石はそうではない。
特に『火粉』の真言が込められた魔石は辺境伯領で品不足なこともあって、それなりの値段で買い取ってもらえるのだ。
それ以外の『跳躍』や『吸着』も特定の分野で使い道があるとかでゴブリンの魔石よりも高く買い取ってもらえるし。
それもあって現状ではこちらの世界での金銭の獲得方法が限られている俺からすると大変有難い魔物であった。
(てか色蛙の魔石が有用っていうよりかは、ゴブリンの魔石がゴミ過ぎるだけか)
だからこそゴブリンは冒険者から金にもならないゴミとして嫌われているのだ。
本音を言えば食べられる肉なども大量に持って帰って売りたいところだったが、肉は嵩張る上に数が増えればその重量もバカにならないので最低限しか持てないのは残念でならない。
それに比べて魔石なら石ころサイズでどれも軽いので余程大量にならない限りは持ち歩きに困ることはない。
用意しておいた袋に入れて腰に下げておけばいいので。
そんな出来事や休憩を挟みながらも順調に蛙沼の調査は進んでいく。
なお、仕留めた大量のゴブリンの死体をそのまま放置すると疫病などの原因になるかもしれないので、一ヶ所に集めた後に『火炎』の真言の練習も兼ねて燃やして処分しているので心配はない。
そして本格的な調査を開始してから三日目のことだった。
「……この数はようやく見つけられたか?」
遂にゴブリン達の巣穴らしき場所を突き止めた。
三十体ほどのゴブリンが沼地近くの洞穴らしき中に存在しているのが『小鬼感知』で分かるのである。
恐らくそこで繁殖して、外の沼地に出て来ているのだろう。
ただ一網打尽にするだけなら割と簡単だ。
『小鬼感知』で亜種がいないことは確認できているので、敵が寝静まった時間帯などに『火炎』と『増強』による攻撃を外から洞穴の中へとぶち込めばいい。
それで全部は無理でもかなりの数が減らせるだろう。
(だけど前みたいにもしかしたら生き残りがいるかもしれないよな)
二つ目の転移門のゲートマスターとなった時、俺は運の良い事に転移門の暴走に巻き込まれた人を二人ほど助けている。
残念ながら一人は間に合わなかったが、それでも犠牲を減らせたことは喜ぶべきことだろう。
だからこそ転移門の暴走に巻き込まれた一般人の存在がいないと確証が取れるまで火球をぶち込むような乱暴な手段を取る訳にもいかない。
「仕方ない。まずは見張りを仕留めて、地道に数を減らすしかないか」
生き残りがいれば助けられるかは時間との勝負となる。ならば早めに行動するとしよう。
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