第25話 進む先は
家族が何ヶ月も失踪していた俺の無事を喜んだ。
このことから分かるとおり異世界とこちらの現実世界の時間の流れは同じだ。
俺が異世界に飛ばされたのは八月某日。そして今は十二月。
それが指し示すことは大学最後の履修登録なんてやれてないということだ。
そして内定をもらっていた会社も何ヶ月も連絡がつかないどころか行方不明になっていたことも伝わっている。
事情があったとは言え一切の連絡も取れなかったのだ。当然、内定なんて取り消しされていた。
その事実を知った瞬間、サッと血の気が引いたものだ。
異世界から無事に帰れただけで儲けものという考え方もあるのかもしれないが、当初予定していた人生設計から大きく外れてしまうのを喜べるわけもない。
それも決して良い方向ではないのだし。
だが捨てる神あれば拾う神あり。
そんな諺が現実になったかのように俺に救いの手は差し伸べられた。
日本で三人しかいない
「さて、そろそろか」
世界では異世界という新たな
真言や真力といった未知のエネルギーや力の源だけでも途轍もない発見だし、それがなくとも石油などの資源が取れる可能性だってなくはない。
見る人が見れば異世界は宝の山に他ならないだろう。
だとすれば世界各国が何を考えるか。
それはどこよりも早く異世界に調査の手を差し向け自国の利益を確保すること。それは日本も例外ではない。
迅速な国と比較すると大分後手に回った感は否めないが、日本でもこの数ヶ月の国会での議論の結果、自衛隊などを派遣することが決定された。
名目は異世界に飛ばされてしまった国民の救出らしいが、それだけでないのはどう見ても明らかだろう。
だが異世界に人を送り込むのは簡単ではない。管理されていない転移門はどこにあるのかも、いつ開くのかも分からない。
そんな中で確実に安全な方法で異世界に行く方法は
日本で数少ない
日本政府が大学にどういう働きかけをしたのか具体的なことは知らないが、こちらに損はないのだから変に藪をつつくのは止めておこうと思う。
とりあえず権力万歳である。
当然だが家族には猛反対された。
異世界なんて危険なところから奇跡的に帰ってこられたのだ。もうそんな世界に関わる必要はない。
危ないことはもう止めるように何度も言われた。
その意見は確かに正しいと思う。
実際俺も家族が同じことを言い出したのなら絶対に反対しただろう。
俺は自分のことを過大評価していない。無事に戻ってこられたのは運が良かっただけで普通なら死んでいた。
そしてその死の可能性はこれからも異世界に行く以上は決して無視できるものではない。
魔物に殺されるかもしれない。または貴族などに因縁をつけられてなんてことも考えられるし、想像もしていないことが起こるかもしれない。
だがそれでも俺はこの道を選んだ。
よく考えた上で。人生を決定する一歩を踏み出すことを決めたのだ。
(欲しいものあるし、なにより金払いもいいしな)
政府はこれから異世界対策を行う部署を作り、またそういったことを行う会社や協会も設立するように動いていて俺はそういったものが出来次第、そこに所属する予定である。
なお提示された金額は単純に転移門を操作して自衛隊などを異世界に送るだけでもかなりの額だ。
少なくとも大卒の平均初任給の倍以上ある。
それ以外にも飛ばされた日本人の救出の手伝いなどをすれば更なる手当も付けてくれるとのことだし、稼ぐ面ではかなり好条件と言えるだろう。
という訳で今回は日本人の救出が俺の仕事だ。
それはつまり今もまだハリネ村に取り残されている少女三名をこの世界に連れて帰るということ。
彼女達も早く家族に会いたいだろうし、俺としても人助けして金が稼げるのならその方がいい。
「よし、真力も貯まったようだし行けるな」
門の開閉の他にも転移できる人数などは貯めこんだ真力の量によって変化する。
ただしその門の
だから今回は俺だけで行って全員が戻れる真力が貯まり次第戻ってくる予定だ。
(転移門、開門)
念じれば開く。異世界への扉が。
俺だけが管理しているそれが。
その門が開くのを感じながら俺は一歩、その先へと足を踏み出した。
鳴海 司
真力 10
真言 7
第零階梯『小鬼感知』
第一階梯『鈍感』『悪食』『交配』
第二階梯『負荷』『火炎』
第三階梯『増強(真言)』
―――――――――――――
これにて第1章は終了です。
第2章以降ではゲートマスターとして異世界と現実世界を行き来するようになった主人公の活躍や苦労を描く予定ですのでお楽しみに!
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