第2話 謎の女性が言ってきたアルバイトは、楽そうで、ちょっと面倒くさそうな属性をもっていただろう。前金も、謎だし。彼、どうする?

 「んふふ」

 「何すか?」

 「私が渡すメモを、ある女性に、届けてもらいたいのよ」

 「…」

 「君に、できる?」

 「報酬は?」

 聞くと女性は、抱えていたバッグから、メモ用紙を取りだしはじめた。

 サラサラと、そこに、金額を書き込む。

 「…やります」

 その金額をチラッと見て、彼は、一言だけを返した。

 「ありがと」

 女性が、ニヤリとしたように見えた。

 彼は、こういうことは、一切、言わなかった。

 「渡す相手って、どういう人なんですか?めんどくさい人ですか?報酬の金額を、もう少し、上げてくれませんか?」

 聞かなくても、良いのさ。やばいバイトじゃないことを、願うのみ。

 「…で、君?」

 「あ、はい」

 「報酬の、金のことなんだけれどね?」

 「え…?」

 驚かされた。

 女性のほうから訂正が入るとは、思っていなかったからだ。

 驚かされたのは、また、他の点でもある。

 どうやら、その女性は、金額を訂正したいわけではなかったらしい。

 「前金として、君に、これをあげるわ」

 大人気アイドルグループのライブチケットを、もらってしまった。

 「オオ!すげえ!ネット販売 2秒で売り切れの、プラチナチケットじゃないですか!」

 言うと、女性はニッコリ。

 唇を、プルンと、セクシーにゆらしはじめた。

 「どう、君?気に入った?」

 「はい!」

 気に入るに、決まっている。

 彼の大、大、大好きアイドルユニットの、チケットだったのだから!

 決して、「ステージに近い良い座席」ではなかったが。良い席なのか悪い席なのかわからない、NEUTRAL な属性チケットだ。でも、良しとする。

 「気に入ってもらえて、良かったわあ」

 「これ、本当に、もらえるんですか?」

 「ええ。このバイトの前金としてね」

 「おお!」

 「君に、あげる」

 「おお!」

 「じゃあ、ね?このメモを、ある人のところに持っていってね?」

 指定されたとある女性に渡して戻ってきたら、先ほど伝えられた金額分の金を、全額くれるという。

 「今は、全額は渡せない。とりあえずは、これで、がまんしてね?」

 そのチケットには、前金の代わりという意味が込められていたらしい。

 「す、すぐに、渡してきます!」

 彼は言ったが、女性は、落ち着いたまま。

 「あら、君?」

 「はい」

 「すぐに、渡してくるっていうの?」

 「え、あ、はい!」

 「そんなに、急がなくても良いわよ」

 「え、どうして、今すぐじゃあ困るんですか?」

 「私は、そんなに、ひまじゃないわけよ」

 「…は?」

 不思議なことを、言われてしまった。

 「君が、あの子のところに走っていって帰ってくるのを、ここで、ずっと待っているだなんて、無理ってこと」

 「…は?」

 「明日にして」

 頭にきたが、文句は言わなかった。この女性の気が変わって、割りの良いこのアルバイトができなくなることだけは、避けなければならなかったわけだし。

「じゃあ、君?」

 「はい」

 「…できるよね?」

 「…できますよ!」

 きたぞ。

 属性ゲームは、本格的に、はじまっていたんだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る