だから僕は悪虐王になった〜最弱魔法劣等生の叛逆〜
根津白山
第1話 妹は転生を選んだ
非常に仲の良い兄妹。
そう言われることが照れ臭いながらも誇りだったあの頃——。
6歳のある日、父親から「妹か弟が欲しいか?」と、聞かれ即座に、
「妹!」
と答えた。
父親は意味深げになるほど、なるほどと何度も頷く。
その数ヶ月後、父親は再婚。
それは産みの母が亡くなってから5年後のこと——。
新しいお母さんは女の子を連れていた。
3歳の女の子。
自分が望んだからできた妹——。
実際は再婚相手の連子がたまたま女の子なだけだったが。
そんな意識を持っていたため、非常に可愛がった。
5歳ごろになると、「お兄ちゃん」と言って、どこに行くにもついてきて、なんでも真似をしてきた妹。
僕が床屋に行ったら、兄の真似をしたく、家で勝手に自分の髪の毛を切ってしまい母親に怒られる妹。
そんな愛くるしい妹が僕の中の自慢だった。
小学生になると、次第に頭角を表し始め、バイオリンやピアノなどの文化的活動だけでなく、勉学においても優秀さを表した。
自慢の妹。
父や、母、僕にとって大切な妹だった。
しかし、幸せはそう長くは続かない。
妹は13歳の時に遺伝病を発症。
少しずつ体を蝕まれていった妹は次第に、寝たきりになった。
大丈夫だよ。元気になるからといつも周りに気を使う妹。
元気になったら、もう一度お兄ちゃんのピアノと一緒にバイオリンでセッションしたいなって笑顔を見せた。
しかし、病状は進行。
16歳の高校生だった自分には何もできなかった。
現代医療ですら太刀打ちできない疾患。
僕は無力だった。
自分の命なんていらない。だから妹を救ってくれ。
何度も神に訴えかけた——。
しかし、最後まで、僕の望みは神には届かなかったらしい。
妹は、
「パパ、ママ、お兄ちゃん——、今まで——、ありがとう」
人工呼吸器をつけたまま、苦しそうに最後の言葉を残して旅立った。
妹のために何もできなかった。
その後悔の念により、その日から僕は無気力になった。
父親と母親は医者で人の死に目に何度も立ち会ったからか、それか家族を養わないとという使命感からか、それとも患者が待っているからか、気は落としていたが一週間後からは手術があるからと仕事場に向かった。
しかし、僕は、たちなおれなかった。
次第に、高校すら休みがちになり、一日中ベッドで寝ている生活を続けた。
2ヶ月後——。
少しは運動をしなさいと言われ、外を歩いていた時、転んだ。
右足を前に出そうとした時、前脛骨筋をうまく働かせられなかったのか、つま先を上げられずに地面に引っかかって転んだ。
その日から、事あるごとに転び、そして、物をよく落とすようになった。
父と母は、すぐさま知り合いの医師に掛け合い病状を確認してもらった。
遺伝病だった。しかも、妹と同じ。
第2エクソンに欠失が見られる難病。
それから病状の進行スピードは、妹の時に比べ速かった。
2週間ほどで寝たきりになり、その一週間後には人工呼吸器をつけることになった。
そして、その一週間後、息を引き取った。
父さんと母さんの最後の顔が忘れられない。
本人たちは、こんなことになってごめんねと言っていたが、こちらとしては、ここまで育ててもらったからそんなに悲しまないでと言いたかったが声が出ない——申し訳なかった。
死んでからわかったが、魂は存在した。
魂は、泣いて僕の体を掴む両親を見ながら、天に登っていき、少しずつ現世の記憶が削られて漂白されていった。
すると、大樹が忽然と目の前に現れ、白い何かが、僕に話しかけてきた。
「大樹に同化し、しばしの休息を経るか、それともすぐさま、また修行に行くか、君の妹と同様に」
妹?
妹もここに来たのか?
どこに修行に行ったのか?
矢継ぎ早の質問に、その白い何かは答えなかった。
「どうする、休息を取るか、転生して修行するか」
妹は、転生を選んだのだと察した。
妹は非常に努力家だった。
それか、もう一度僕ら家族の元に生まれるために転生を選んだのか——。
「もし転生を選べば、もう一度妹に会えますか?」
「………、あなた次第です」
何とも歯切れの悪い回答。
だけど、妹は転生を選んだ。
一縷の望みをかけてか、前に進むためか。
しかし、兄は妹の半歩以上前にいて、妹の手本になるもの。
そして守り人になる存在でなければ——。
もしもう一度チャンスがあるならば、妹をこの手で守り抜きたい。
ならば、僕も先に進まないと。
それに、よく見るファンタジーでは、転生は記憶が引き継がれるもの。
それならば——、転生しても妹を探すことはできる。
「転生を」
「わかかりました、それでは良い旅を」
白い何かに見送られつつ、僕の魂は、見たことのない世界に住む女性の腹中に定着。
その瞬間、これまでの記憶が失われた。
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