無能のテスト対策
「数学は微積だからこの公式を覚えて応用すれば━━」
「日本史の範囲は鎌倉から室町…となれば、こことここをお兄ちゃんに叩き込めば━━」
「理科は物理の範囲はここを取って、化学は━━」
「今回、問題を作るのがなんで私じゃないんだろう…まぁ嘆いても仕方ないか…現代文はここを抑えておけば大丈夫。問題は古文と漢文━━━」
僕が情けない姿を晒した次の日、本気のテスト対策をしてくれることになった。空き教室で全力で頑張ってくれている四人には頭が上がらない。
僕は教室の隅で漢字でも覚えておけと言われてしまったので、それをやっている。本気になった四人にとって僕は邪魔な存在なのだろうと思って悲しくなった。
「数学は基礎だけ取れれば少なくとも赤点は取らないはず。これでどう?」
「≪
「理科もそうだと思うわ。もちろん思考的な問題もあるけど、あっくんじゃ絶対に解けないから捨てたわ」
「国語も暗記部分を取った上で読解をやるべきだと思うの。それでなんとか赤点は回避できるはずかなぁ」
とりあえず四科目の対策はどうにかなりそうだ。となると、残るは英語なんだけど、
「英語はカンニングしましょう」
「「「賛成」」」
「ちょっと待て!倫理的に考えてカンニングはダメだよ!」
いきなりアウトな行為が決定された。いくらなんでも看過できないことを言われたので、ツッコミを入れるが、僕の信者たちはいたって真面目な顔をしていた。
(え?なんで僕がおかしいみたいな顔をしてるの?)
「現実を見て。旭は大馬鹿なのよ?」
「知ってるけど、そこまで直球で言わなくても…」
「今から正攻法で英語をできるようにするのは無理筋なのよ。うちの学校の英語は難しいし、何よりもここまで馬鹿だと他の四科目だけで時間が過ぎてしまうわ」
うんうんと頷く他の≪
だけど、言われた通りなので、僕は黙って見ているしかできなかった。僕が黙ったのを確認すると、会議が進んだ。
「悔しいけど、英語は≪
「ここに関しては私も何もできないわ。あっくんと年齢が違うことが恨めしい…!」
≪
「試験監督として目を瞑るくらいならできるけど、≪
「英語の時間だけ保健室に行くわ。旭にも英語の時間だけ、体調不良で抜け出してもらえれば答えを伝えることができる。幸いなことに、保健室の先生は耄碌したおじいちゃんよ」
「なるほど…それならこの計画は実行できるね」
「けれど、これだけではカンニング対策された時に手詰まりになる。作問者の買収はできなさそう?」
「う~ん難しいかな。私の容姿に嫉妬してる滑舌最悪おばさんが英語の試験問題を作ってるからね~」
「だったら、カンペは?私たちがあらゆるパターンを想定して、作り上げたカンペなら赤点くらいなら回避できるんじゃない?」
「それはダメだと思いますよ。お兄ちゃんは反吐が出るほど不器用なので、カンペがバレて退学になる可能性が高いです」
(カンニング方法だけでここまで熱くなる会議ってなんなん?)
カンニングが徐々に現実味を帯びてくる。僕のためにやってくれているとはいえ、天才たちが本気でカンニングをしようとすると、鳥肌ものだ。
(これ、相当見返りを要求されるんじゃ…?)
僕がそのことを考えていると、詩と目が合った。ニヤァっと笑ったその顔を見ると、結構ハードなことを要求されることになりそうだ。
「まぁ、こんなところね。カンニングに関しては実現性と秘匿性の観点から推敲を重ねていきましょう」
「「「了解」」」
死神に魂を売った形だけど進級できなかったら終わりだ。背に腹は代えられない。
英語以外の四科目は天才たちのおかげでやることが随分明確になった。
山学院高校は進学校だけあって、やるべき範囲が広すぎるのだが、今回はやるべきところもだいぶ減った。これなら随分余裕を持って終わらせることができる。
(この量なら、三日、いや、本気でやれば一週間前に終わらせられる。そうすれば英語に時間を割ける。カンニングに頼らなくてもできるっていうことを≪
「お兄ちゃん、私もテスト勉強しなきゃいけないけど、困ったことがあったらどんどん聞いてね?欲情しながら待ってるから!」
「私もですよ。≪
「うん。何があっても頼らないよ」
≪
「≪
「うん、≪
「ぐへへ!恩を売って、既成事実を作るのを断れないような状況を作っちゃお~(うん、任せて!)」
「やっぱなしで」
本音が駄々洩れの≪
詩と目が合うと、≪
「頑張って。
「あ、うん。ありがとう」
詩は軽く微笑んで僕を送り出してくれるだけだった。意外だったけど、素直に嬉しかった。
━━━
家に着くと、僕は≪
付箋やアドバイスがたくさん書いてあってどんな問題が来ても負ける気がしなかった。
「さて、やるか!」
僕は積み上げた問題を崩しにかかった。
━━━
━━
━
テスト三日前。
最後の確認テストをすることになり、空き教室で模擬試験をやることになった。僕は自信満々に机に向かった。
「うん!いい顔してるね!」
「お兄ちゃんは本当にこのテスト期間は部屋にずっと閉じこもってたもん!」
「ああ‥なんて自身に満ちた顔なんでしょう!濡れちゃいますぅ」
「…」
(これなら成績優秀者になって張り出されちゃうかもなぁ)
それだけ僕は勉強した。なんなら英語だって勉強したくらいだ!初めて勉強が楽しいって感じた瞬間だし、絶対にできるようになったという確信がある。
ただ、さっきから詩が静かだ。それだけが少し不気味だけど、気にしても仕方ない。
(さあ、度肝を抜かれろ!我が≪
━━━
━━
━
過去問の結果。
国語:12点
数学:6点
社会:4点
理科:8点
英語:0点
「「「「…」」」」
「やっぱり…」
僕も含めて詩以外は絶句していた。詩は想定していたのか頭に手をやって呆れていた。すると、≪
「ど、どうして!?私たちがあげたテスト対策はやったのよね!?」
「は、はい!絶対にやりました!」
「ならどうしてよ!やりきれば最低でも赤点は回避できるように作ったのに…!」
「ぼ、僕にも分かりません!」
≪
「そこまでにしてください、シェーラ先輩」
「≪
詩がシェーラ先輩を引き剥した。
「…その感じだと≪
「ええ、≪
そういって取り出したのはUSBだった。
「≪
「PCを貸すのはいいけど、中身はなんなの?」
「≪
「すぐにPCを取ってくる!」
「ちょっと待て!?」
佳純先生は教室を出て、職員室に走っていった。いや、そんなことはどうでもいい。
「僕の部屋に監視カメラを仕掛けたの!?」
「ええ。鑑賞、じゃなくて、テスト対策のためよ」
「前半に本音が駄々洩れなんだよ!早く外「もしかして≪
≪
「サービスシーンは後で『≪
「そ、そうね。取り乱したわ。ハニトラが過ぎるわよ、全く」
「私も、危なかったぁ。理性が吹き飛ぶところだったよ」
「マジで訴えるよ!?」
「
佳純先生が肩で息をしながら戻ってきた。そして、すべてのセッティングが終わった。
(何が悲しくて自分を映した監視カメラを見なきゃいけないんだよ…)
僕はこの二週間を振り返ってみたけど、しっかり勉強していた。だから、問題なんてあるはずがない。
「ここに旭の二週間のすべてが映っているわ」
詩がPCを起動すると、とんでもないものが映っていた。
━━━
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