無能のテスト対策2



うっふ~ん♡


「「「「「…」」」」」


熊高先生のPCを起動すると、A○が再生された。僕たちはもちろん、≪知恵の鉄女ミネルヴァ≫までゴミを見る目で熊高先生のPCを観ていた。ただ、一番酷い顔をしているのは…


「気持ち悪…どんな顔してPCを返却すればいいんだよ…」


佳純先生だった。『白濁に乱れる美人教師』という物で、女優さんの顔が心なしか佳純先生に似ていた。これから教師生活が気まずくなること待ったなし。熊高先生が報われる可能性はほとんどなくなってしまったのかもしれない。


「男って最低ね…本当に気色悪いわ。神聖な学び舎で一体何をしているのかしら…」


シェーラ先輩は風紀委員長として、憂いていた。この意見に反対する人間はいなかった。


「そこに関しては、≪知恵の鉄女ミネルヴァ≫に同意かなぁ。男ってTPOを弁えないから、本当に迷惑。学校で下心を持って近づかれるのって気分が良くないんだよね~」

「≪境界を超える者あんたたち≫は子供だからその程度で済んでいいいでしょ?大人になれば身体目当ての男たちがあの手この手を使って、近づこうとしてくるんだから…」

「もううんざりしているのに、まだ上があるのね…いつまであの性欲にまみれた視線を向けられればいいのかしら…」

「少なくとも、おばあちゃんになるまででしょ…嫌になるわね」


四人とも容姿が良いからこの手の悩みが尽きないんだろう。だけど、ワンチャンにかけるのが男子という生き物だ。許してあげて欲しい。


それよりも僕のことだ。盛り上がっているところに水を差すのは悪いが、このままだとガールズトークで終わってしまう。


「あの、そろそろ僕が勉強できない原因を…」

「ごめんなさい。うっかりしてたわ」

「いや、気にしないで」


詩が現実に戻ってくると、PCと向き合う。フォルダを開く一歩手前で僕たちの方を真剣に見てきた。


「ここに旭が勉強できない原因のすべてが映されているわ」


詩の言葉に全員が頷いた。正直、犯罪だって言いたいところだけど、天才たちが分析した情報を基に僕が一人で勉強できるようになれる可能性を考えれば、未来への投資として割り切ろう。


「さぁ行くわよ」


詩が合図をすると、動画が再生された。


『ふぅ、今日も疲れたなぁ…』

「は?」


映し出されたのは僕が浴室で着替えているシーンだった。


「あっ、間違えたわ。これは私の趣味撮よ」

「趣味撮ってなんだよ!これは完全にあうt「≪冥府の日輪ラストサン≫様の着替えシーン!?」あっ、おい!」


鼻息荒く僕の前に割り込んできた≪知恵の鉄女ミネルヴァ≫が食い気味にPCと向き合っていた。


「邪魔だよ≪知恵の鉄女ミネルヴァ≫!私にもお兄様のポロリシーンを見させてよ!」

「そうだよ!≪知恵の鉄女ミネルヴァ≫ばかりズルいよ!」


僕は椅子から転げ落ちた。本体をないがしろにする信者達に僕の瞳は虚無になった。


そうこうしているうちに画面の中の僕は全裸になっていた。


「なんてだらしない身体なの…!でも、喉仏がエロ過ぎる!」

「鼻歌がうますぎぃ!脳がしゃかしゃかされちゃう~」

「鎖骨エロス…」

「旭の『聖剣』が映らなかったのは一生の不覚ね…」


僕の『聖剣』は角度が悪く映らなかった。風呂場には監視カメラを仕掛けてなかったので、『聖剣』は映らずに済んだ。


(それにしても…)


さっきから神聖な学び舎で邪なことをする人間を軽蔑していた≪境界を超える者クロスオーバー≫達は鼻息荒く、画面に食いついていた。僕は心底軽蔑した。


「一応、聞いておくけど、君たちに罪悪感はあるの?」

「「「「?」」」」

「そうですか…」


微塵もないらしい。


境界を超える者クロスオーバー≫に対して告白してきた人たちに誠心誠意謝った方がいいと思った。


━━━


━━



三十分後


「なんて狡猾で危険な罠だったんだろう…私じゃなかったら終わってたね」

「全くね。ハニトラに引っかかったら一生の恥だもの」

「これ以上ないくらいに完璧に引っかかっててただろうが」


愛莉とシェーラ先輩の物言いに思わずツッコミを入れた。他二人もギリ回避できた感を出していたけど完全アウトだった。


僕は溜息をついた。


「そろそろ真剣にやってくれ。このままじゃ本気で留年しちゃうよ」

「あら、頼む側のクセに随分上から来るのね。めんどくさくなったし、やめ「すいませんでした。見捨てないでください」よろしい」


頼んでいる側だから、どうしても下手に出るしかない。


「まぁ私が問題のシーンだと思うところを編集してきたから、それを見ましょう」

「あの、頼んでる側だけど、それがあるなら最初から見してくれ」


詩がフォルダを開くと、今度こそ僕が勉強している盗撮映像だった。僕の顔と教科書が正面から撮られている。


(なんでこんな真正面に仕掛けられた監視カメラを見つけられなかったんだろう…)


自分の無能ぶりに呆れかえった。


「お兄ちゃんがちゃんと勉強してる!」

「でしょ?」

「褒めてないよ?それが普通だから」


(愛莉が厳しい…)


画面の中の僕は社会をやっていた。日本史なので、流れを掴まなきゃいけない。


「やってることに間違いはないわ。これでなぜ点数がでないの?」

「さ、さぁ」


すると、画面の中の僕が日本史の教科書の範囲を読み終わった。


『よし、これで日本史は終わりだな。こんなに早く終わらせちゃう僕って天才なんじゃないのかな』


(ほら問題ないじゃん!僕は社会をやり終わったんだ)


自画自賛してるところを撮られていたのは恥ずかしいが、僕の勉強のどこに問題があるのかと四人の方を見ると、ポカーンとしながら僕を見ていた。


「え?」


シェーラ先輩、佳純先生、愛莉は信じられない物を見る目で見てくる。詩は頭を抑えてる。


僕はというとなぜこんな視線に晒されなければならないのかと不思議に思った。


「ね、ねぇお兄ちゃん?日本史はやったんだよね?」

「うん。今、やってるところを見せたでしょ?」

「暗記はしたの?」

「?理解できたんだから、大丈夫でしょ?」

「何その自信!?ちなみに室町幕府の初代将軍は?」

「足利天皇でしょ?」

「誰だよ!?」


愛莉がヤバいものを見る目で見てきた。しかし、戦慄を覚えているのは愛莉だけじゃなかった。


「物理と化学はどうしたの!?」

「一問も解けなかったけど、答えを見たら納得しました」

「それだけ!?解き直しは!?」

「?理解できたのにする必要あります?」

「嘘でしょ…水を元素記号で表すと?」

「Hです。こんな時でも僕に下ネタを言わせようとするなんて本当に変態ですね」

「ここに関してはそんな意図はないわ!それにHは水素よ!水はH2Oよ!」

「水素も水も同じ漢字が含まれてるんだから同じでしょ?」

「違うわ!」


シェーラ先輩がゴミを見る目で僕を見てきた。むしろちゃんと勉強していた僕を褒めて欲しいのに、なぜこんな目で見られないといけないのか。


「あの、国語は?」

「現代文は勉強しなくても絶対大丈夫です」

「なんで!?」

「日本人だからですよ。日本語を読めなければ日本人失格です」


現代文は日本語なんだ。勉強する必要なんてない。漢字だけは眺めておいたから問題ない。それに僕はラノベをたくさん読んでいるんだから、国語力は高い。


「だけど、古文と漢文だけは勉強しないと不味いと思いました」

「そ、そうだよね。流石に…」

「日本語に『なり』を付ければ古文になるんです。これは僕以外に気が付いた人はいないでしょうね」

「あっっっさ!?」

「後、漢文は訳を読んだら古文だったんですよ。古文も現代文も完璧な僕にとっては一読すれば、分かりましたよ」

「…」


佳純先生が天を仰いだ。天才過ぎる僕に感動しているのかもしれない。


「…聞くまでもないけど、数学は?」

「理解したよ?」

「微分はどうやるの?」

「Xを減らせばいいんでしょ?」

「…積分は?」

「そこだけ答えを見ても分からなくて動画を見たんだ。詩だって知ってるでしょ?ヨビ〇〇さん」

「ま、まぁね」

「最後に『C』を付け忘れるのはダメだね。アレは教育系ユーチューバー失格だと思った」

「ちなみに積分定数を付けるのはどんな時?」

「せきぶんていすう…?」

「もういいわ」


詩がこめかみを揉んでいる。詩があそこまで悩むってことは積分で『C』を付けるっていうのは相当難しいことなのかもしれない。


「そういえば英語もやったって言ってたわね?」

「うん」


シェーラ先輩が聞いてきた。結構ちゃんとやったのに、0点でショックを受けた。


「今回の英語は難しくするって滑舌最悪ババアが言ってたよ。教科書の範囲の英語は読めたの?」

「日本語訳があるのに読めないわけがないじゃないですか?」

「初めて≪冥府の日輪ラストサン≫様を殴りたくなったよ」

「気持ちはわかるよ≪暖炉の聖女ヘスティア≫」


(愛莉と佳純先生が仲良くしてるのは珍しいけど、なんで二人とも僕を悲しそうに見てくるんだろう?)


「『You are idiot』(あなたは馬鹿です)の訳は?」

「僕を見くびるなよ?『あなたは馬鹿です』」

「なぜかしら…ドヤ顔旭に馬鹿って言われると超絶腹が立つわね。殴っていい?」

「嫌に決まってるじゃん」


なんて理不尽な女だ。


「今回の英語の内容は『災害』、つまり『disaster』がテーマになってるんだよ」

「…本当に分かってるわね」

「だろ?」

「ええ」


「「…」」


「え?それだけ?他にないの!?」


愛莉がツッコミを入れてくる。


「とりあえず『disaster』だって分かっていれば後は本番でいける」

「行けないよ!さっきからその自信はどこから湧いてくるのさ!?後なんで『disaster』だけ覚えてるの!?他の単語は!?」

「カッコいい発音してるから覚えちゃったんだよね~。他は理解したから行ける」

「出たよ『理解』!ってか覚えた理由が超絶お馬鹿!」

「ちなみに過去問でスペルミスして0点だったのよね」

「訂正。救いようがない馬鹿だよ」

「失礼な。うっかりミスは誰でもするんだよ?」

「今だけお兄ちゃんを本気でぶん殴りたいよ!」


四人は凄く疲れていた。一応詩の監視カメラの映像を全部見た。その上で、僕は自分を客観的に見たけど、どこにも問題はなかった。


「なんで成績が伸びなかったんだろう?」

「「「「てめぇのせいだよ!?」」」」

「『てめぇ』!?」


初めて≪境界を超える者クロスオーバー≫に暴言を吐かれた。いや、傷つけられたことは数知れずだけどここまで直接的に馬鹿にされたのは始めてだった。


「これは早急に手を打たないと不味いね…」

「ええ。≪死者の案内人ネフティス≫の言う通りね。となると、合宿ね」

「合宿?そんなの必要ないでしょ?」

「「「「黙ってろ馬鹿」」」」

「はい…」


あまりの迫力に一瞬で引いた。


「うちの別荘は今、清掃中なのよね…」

「私の家もダメかも。教師の家系だから、そういうのにうるさくて」


シェーラ先輩と佳純先生の家はダメらしい。


「なら僕の家は?」

「「「私たちが欲に負ける」」」

「あ、はい」


愛莉もうんうんと頷いている。となると、


「うちしかないわね…」


テスト前の三日間、僕は詩の家で合宿することになった。


━━━

旭と同じように勉強している人いたら気を付けてくださいね?

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