≪知恵の鉄女≫VS≪堕ちた雌豚≫それから漁夫った≪冥府の花嫁≫

保存し忘れたショックで立ち直るのに時間がかかりました。

遅くなりましたが、どうぞ

━━━


「私の≪冥府の日輪ラストサン≫様が迷惑しているんでそういうことするのをやめてもらえませんか?」


ピクっ


宮下さんが軽蔑した目で見下しながら、シェーラ先輩に口出ししてきた。僕が迷惑しているのは宮下さんもなので、盛大にブーメランが刺さっていることに気が付いて欲しい。


シェーラ先輩はさっきまでの土下座なんてなかったかのようにぬるっと立ち上がってAKARIを見た。


「…AKARIごときが≪知恵の鉄女ミネルヴァ≫たる私に意見するなんて面白いじゃない。≪境界を超える者クロスオーバー≫にもなれない上に、≪冥府の日輪我が君≫に狼藉を働いた害虫。さっさと消えてもらえない?」

「っ!貴方が≪知恵の鉄女ミネルヴァ≫だったんだぁ。でもごめんなさい。私は既に≪冥府の日輪ラストサン≫様と繋がって子供もいるんだ」

「いないいない!だから、そのお腹を撫でる仕草をやめろ!」


クラスでまたざわめきが広がった。特に元宮下さんグループの人間たちからの視線が鋭い。


「残念な頭をしてるわね。妄想と現実を分けた方がいいわよ?今、孕んでいるのは私だもの」

「あんたもだよ!」


クラスでさらなるざわめきが広がった。


「山井が二人の女の子を孕ませた…?」

「それなのに責任を取らないの?サイテー…」

「だから、あかねはアレだけ山井にこだわってるのか…!許せねえ!」


(ああ、もう!僕のゴミ評価がさらに暴落してるじゃないか!)


何も悪いことをしていないのに神の名を冠する変態たちが僕を貶める。


「≪冥府の日輪我が君≫、どうかされましたか?」


心配そうにシェーラ先輩が僕の顔を覗き込んでくるが、お前のせいだよと叫びたい。でも我慢する。そんなことをしたら余計に目立つ。それよりもまず、


「…まず、僕のことを『我が君』って言うのはやめてくれないですか?せめて公の場では普通でお願いします」

「分かったわ。ゴミクズ」

「普通って言ったよね!?ってかさっきゴミ扱いしたことを末代までの恥とか言ってたじゃん!」

「うるさいわね!軽蔑対象の貴方と崇拝の≪冥府の日輪我が君≫がごっちゃになって整理ができないの!責任取ってゴミムシの子供を孕ませてくださいませ!」

「もう嫌…」


両極端すぎるシェーラ先輩に僕はもう抵抗する気をどんどんそがれてしまった。


(僕の周りには普通の美少女はいないのだろうか…)


僕が黄昏ていると、面白くなさそうにしている宮下さんが僕の袖を引っ張ってきた。普通の美少女なら萌えシチュだろうけど、相手が最悪だったので、何も感じなかった。


「ねぇねぇ私も構って欲しいなぁ」

「…」

「ゴミクズ、そろそろ私を孕ませる気になった?」

「あの、せめて山井か旭でお願いします…」

「ねぇねぇ~」

「穢れた名前を呼ばせるなんて…。そんなことしたら妊娠しちゃうじゃない。このド変態」

「あんたの倫理観どうなってるんだよ」

「ジョークよ。両方とも穢れてるから、『あっくん』って呼ばせてもらうわ」

「っ」

「何照れてるの?さぞ女の子と関わりがなかったんでしょうね…可哀そうなやつ」

「≪冥府の日輪≫を傷つけるのは≪境界を超える者クロスオーバー≫の中で共通認識なのかな…」


常識と倫理観もズレていて、ゼロか百かのどちらかしかない≪知恵の鉄女ミネルヴァ≫はやっぱり≪境界を超える者クロスオーバー≫の中で一番の問題児だ。


(リアルだと通報できないから余計に辛いなぁ…)


「ねぇってば!」

「うるさいなぁ、雌豚」

「え?」


教室の空気が完全に凍った。


「女の子に豚って…」

「腹黒かよ…最悪だな…」

「あかね!大丈夫か?山井!謝れよ!」


さっきからウロチョロしていてウザかったので、心の中で思っていた言葉をそのまま伝えてしまった。だけど、女の子に『豚』なんてとんでもないことをしてしまった。これじゃあ僕を貶めた宮下さんと同じだ。すぐに謝ろうとするが、手をガシッと掴まれた。


「やっと私に二つ名をくれたんだね!」


泣きながら言われてしまった。喜んでいるんだけど、意味が分からない。そして、


「≪冥府の日輪ラストサン≫様を貶めて豚に堕ちた私…これに連なる存在となると」


ぶつぶつと呟きながら、勝手に二つ名を考え始めた宮下さんを止めることができなかった。そして、


「≪堕ちた雌豚ルシファー≫でお願いします!」

「そんな酷い≪境界を超える者クロスオーバー≫がいてたまるか!」

「嬉しいなぁ。やっと≪境界を超える者クロスオーバー≫に仲間入りかぁ。これからよろしくお願いいたします」

「認めてないから!後、土下座をやめろ!」

「靴も舐めた方がいい?」

「違ぇよ!土下座をやめろっていってんだよ!」


(何が悲しくて一日に二人から土下座をされなきゃいけないんだよ!)


僕が宮下さんの頭を上げさせようとすると、大人しくしていた≪知恵の鉄女変態≫が土下座を始めた。


「何してんの…?」

「何って≪堕ちた雌豚ルシファー≫に負けるわけにはいかないじゃない?それに土下座ックスなるプレイがあるらしいからここでやりましょう」

「≪知恵の鉄女変態≫はさっさと自分の教室に帰ってください。どうぞ、私こと≪堕ちた雌豚ルシファー≫をゴミのように扱ってください」

「聞き捨てならないわね。ゴミのように凌辱されるのは私よ」

「私です!」


僕は目の前で仲良く土下座しながら口論をし続ける二人を見て茫然とした。周りを見渡すと完全に犯罪者を見る目だった。元宮下さんグループの人達はさながら姫を奪われた元配下たちの様相を呈していた。


(僕が被害者なのに、なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだろう…)


「は~い、授業がはじま…って何してんの!?」

「!」


救いの女神が現れた。


(このビックウェーブに乗るしかない!)


僕は一目散に駆け寄った。


「佳純先生!助けて!」

「!ら、≪冥府の日輪ラストサン≫しゃまが私を頼って…!コラ、二人とも!すぐにこっちに来なさい!」


一瞬恍惚の表情を浮かべた佳純先生が土下座をしていた二人を起き上がらせて、職員室に連れて行った。さっきまでの喧騒が嘘のように消え去った。


佳純先生がいないなら授業は自習だろう。僕は教科書を出そうとするが、


「おい…山井。面貸せよ…」

「断るって選択肢はないから」


サッカー部の平野君と藤野君、そして、野球部の川村君。岡本さんは宮下さんと誰よりも仲が良かったこともあって僕を一番睨んでいた。陽キャの人たちがぞろぞろと集まって僕の席を囲んでいた。


一難去ってまた一難。これはボコられるだけじゃすまないような気がする。


「こんにちは」


ぎょっと陽キャの人たちが後ろを向くと、僕の幼馴染がいた。


「いつも思うんだけど、なんでそこにいるの?」

「そこに旭がいるからよ。ついでに≪暖炉の聖女ヘスティア≫も≪知恵の鉄女ミネルヴァ≫も、後は、≪堕ちた雌豚ルシファー≫だったかしら?みんないなくなるこの機会を逃すわけにはいかないもの」

「そうですか…」


理屈が通じないのはいつも通りだ。詩は陽キャの壁をかき分け、僕の隣の席に着いた。


「さっ、勉強するわよ。旭が馬鹿すぎるせいで一緒の席に並ぶことは一生ないと思っていたけど、夢が叶って良かったわ」

「僕が馬鹿なのはいいんだけど、もう授業は始まってるよ?『模範生』の詩さんが授業をサボってこんなところにいてもいいの?」


皮肉を言うと、詩はにこっと笑った。


「旭と違って信用があるの。う○こしてくるって言ったら、早退もすすめられたわ」

「授業を抜け出すのにプライド捨てすぎじゃない?」


詩はいつも通りだった。だけど、突然の来訪に苛立っているのが僕のクラスの陽キャ軍団だ。


「音無さん!ちょっとそこどいて!そいつと話すことがあるの!」

「そうだ!あかねを変態に変えた山井には色々やらねぇと気が済まねえ!」


岡本さんと平野君が詩に喰ってかかるが、


「宮下さんが変わったも何も貴方たちが旭をイジメたのが原因じゃない」

「っ」


陽キャの人たちは唸った。


「それとこれとは関係が…!」

「関係あるわよ。私のダーリンをイジメておいて自分たちの姫が馬鹿旭にアヘ顔快楽堕ちさせられたら、文句を付けるってどういう神経をしてるのかしら?」

「「っ」」

「ダーリンじゃないし、そこまでしてないから。というか何もしてないから」


シリアスな場面で嘘を付かないで欲しい。僕は本当に何もしていない。悪いのは全部≪境界を超える者クロスオーバー≫だ。


「というかあなた達って本当に馬鹿ね…」

「なんだと!?」

「あぶな、グぎゅっ!?」


平野君が詩にとってかかろうとする。僕はそれを止めようと前に立とうとするが、机のパイプの部分に脛をぶつけて床に顔面ダイブしてしまった。陽キャの人たちもどうすればいいのかわからなくなっていたようだ。


「私を守ろうとして世界で一番情けない姿をしている≪冥府の日輪ラストサン≫様素敵ぃ」

「~~~っ!」


耳元でささやかれた。情けなさ過ぎて穴があったらいれたい。


「それじゃあ下ネタよ。正確には『入りたい』ね。全く…≪知恵の鉄女ミネルヴァ≫に毒されすぎよ」

「もう殺してくれ…」


虚無でいようと決めた。


詩は陽キャの人たちと向き合った。


「まぁいいわ。なんで馬鹿と言ったかだけど、そんなの簡単よ。旭には世界で一番最強の武器、『聖剣』があるじゃない」

「「あっ」」


それを言われた陽キャ軍団の人たちは一瞬で顔を青くして僕を見た。


(出さないよ?黒歴史だし)


しかし、詩からの援護射撃は止まらない。


「しかも、今は正妻たる私がいるの。『聖剣』の性能だって以前とは比べ物にならないわ」

「ど、どういう意味よ!」


岡本さんの言葉にドヤ顔になった詩が告げた。


「決まってるでしょ?私に欲情した旭の『聖剣』からは黄金の光の中に白い「もう黙れ!」」


僕は詩の口を抑え付けた。抵抗してくる…ことがなかった。


「く、くそったれ…」


陽キャ軍団の人たちは僕の『聖剣』をちらっと見て、席に戻ってしまった。他のクラスメイト達を見ると全員から目を逸らされた。


(危機は去ったけど、失ったものが多すぎる…)


僕は詩から離れた。すると、詩の鼻息が荒くなっていた。


「はぁはぁ…≪冥府の日輪ラストサン≫様に拘束されちゃったわぁ」


恍惚の表情を浮かべる≪冥府の花嫁ペルセポネ≫に対して、もうどうなってもいいやと諦めた。


━━━


━━



その夜


『≪知恵の鉄女ミネルヴァ≫のせいでまた職員会議じゃけええええええ!≪境界を超える者クロスオーバー≫のゴミ共はさっさとくたばれや!後、≪堕ちた雌豚ルシファー≫ってなんですか!気持ち悪!キチガイのせいで≪冥府の日輪ラストサン≫様との至福の時間が消えとるんじゃああああああああああ!」

『≪冥府の日輪ラストサン≫様ぁ、どうして私にこのような仕打ちをなさるのですか…?佳純辛い』


佳純先生はだいぶ荒れていた。幼児退行もしていたので、何か労ってあげなきゃいけない。


『僕にできる範囲で何かしますよ?』

『童貞をください』

『さっさと寝ろ』


━━━

≪堕ちた雌豚≫でルシファーは流石に罪深いかな…

レビューとブックマークをお待ちしております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る