『聖剣』を抜いた厨二系雑談配信者 ~配信中に「彼女です」と爆弾を落とした幼馴染のせいでヤンデレ信者達が襲い来る~ 真実を知った信者Aがたくさん献金してくれるけどもう遅い

addict

プロローグ1

高二の五月、黄昏時に人気のない校舎裏で二人の男女が向きあっていた。


「好きです!付き合ってください!」


彼女から放たれた言葉に僕は━━


━━━


僕は山井旭やまいあさひ。勉強はダメ、スポーツはダメ。身長も低く、顔も全然良くない。まさしく底辺をいく学校生活を送っていた僕にも一つだけできることがあった。配信者だ。


唯一の長所であるといってもいいかもしれない声の良さを活かして、中学一年生の頃からコツコツ配信し続け、今では百万人の登録者数を抱えるにいたった。


「おはよう!山井くん!」

「おはよう、宮下さん」

「相変わらずいい声だね~」

「いやぁ、あははは」


僕に元気よく声をかけてくれたのは僕と同じクラスのアイドル宮下あかねだ。綺麗な長い茶髪をサイドアップにしていて、人懐っこいため、僕のような根暗から先生に至るまで誰からも評価が良い。


そんな彼女は僕によく話しかけてくれた。最初のうちはなんで僕に話しかけてくれているのかと思ったけど、


「それより昨日の≪冥府の日輪ラストサン≫様の配信見た?カッコよかったね!」

「そ、そうだね」

「はぁ…あんなにスマートに下々の悩みを解決する≪冥府の日輪ラストサン≫様しゅきぃ」

「あ、ありがとう」

「も~なんで、山井君が照れてるの?あ、そっか山井君が≪冥府の日輪ラストサン≫様だもんね~」

「うん…」


僕が≪冥府の日輪ラストサン≫であることは宮下さんには話していた。恥ずかしいことをしているから、あまり言いふらさないようにしていたんだけど、宮下さんがが熱烈なファンだったと知ってぽろっとこぼしてしまった。


「昨日なんて、また一万円のスパチャを投げちゃった」

「貰いすぎてもどう使えばいいのか分からないよ」


僕は困りながら返事を返すが首を振られてしまった。


「これでも足りないくらいだよ!私の愛をもっと知ってもらわないと!」


ちょっと行き過ぎた信者な感じがするけど、こんな風に大々的に褒められると嬉しい。宮下さんの熱いトークは続いていくが僕は熱量に押されてうんうんと頷いているだけだった。


「━━━あっ、予鈴がなっちゃった。席に戻らないと!」


朝の楽しみは終わった。宮下さんは陽キャのトップだ。僕以外にもコミュニティをたくさん持っている。それなのに僕なんかのために朝の貴重な時間を割いてくれているのは本当に嬉しいことだ。


「あっ、そうだ。今日の放課後時間ある?」

「え、ああ、あるよ」


いつもならここで席に戻ってしまう宮下さんにどもりながら、なんとか言葉を紡いだ。すると、宮下さんは甘酸っぱいオーラを発して、僕に耳を貸せと合図してきた。


「校舎裏で待ってる」

「え?」


そういって顔を離した宮下さんの顔は真っ赤だった。


「それじゃあまた後で!」


先生が来てHRが始まった。宮下さんはそれと同時に小走りで自分の席に戻り、友人と話し始めてしまった。


(これってそういうことなのか!?)


放課後のことで一日中頭がいっぱいだった。


━━━


「好きです!付き合ってください!」


放課後の校舎裏、告白された僕の返事はもちろん、


「こちらこそお願いします!」


OKだった。告白された側なのに、腰を四十五度に曲げてまるで僕が告白したみたいになっていた。配信を頑張ってきて良かった。あの頃の僕に言ってあげたい。配信を頑張れば滅茶苦茶可愛い彼女ができるぞ、と


「ぷ、ぷぷ」


すると、宮下さんから漏れ出たような笑い声が聞こえてきた。前を見ると、腹と口を抑え笑いを堪えている宮下さんの姿があった。


「ああ!もうダメ!可笑しすぎる」


ついに声を上げて笑い始めてしまった。僕はあまりの豹変ぶりに訝しんだ。


「え、と、宮下さん?」

「ああ~ごめん、ごめん。やっぱ今のなしで」


何を、と聞く前に、どこに隠れていたのか僕のクラスのカーストトップの人たちが笑いながら現れた。


「あかね酷~い」

「山井のやつ、全く事態を呑み込めてないみたいだぞ」

「ごめんね山井~、でもいい夢みれたっしょ?」

「いいもん撮れたわ。ありがとな、山井」


笑い声が校舎裏に響いた。僕は嵌められたらしい。それは下品な笑い声をあげる彼らを見たらわかる。だけど、僕はそれを信じることができなくて、縋りついた。


「あ~ごめんね、山井君。一か月で私を好きにさせて告るかどうかみんなで賭けをしてたんだけど結局告白してくれなかったから私からしちゃった。これで賭けは私の負けかぁ。私、自信がなくなっちゃうなぁ。意気地のない男はモテないよ?」

「ご、ごめん」

「まぁいいや。これからは山井君に関わることはないからさよならだね」


宮下さんの瞳に僕のことはもう映っていなかった。僕の背後にいる仲間の元に向かおうと僕の脇を通ろうとした。しかし、それでも僕は諦めきれなくて虎の子を言った。


「僕は≪冥府の日輪ラストサン≫だよ?」


すると、ピタリと止まった。良かった。宮下さんは≪冥府の日輪ラストサン≫である僕のことが好きだったんだ。そう思ったら、この状況も逆転できるのではと淡い期待を持った。けれど、宮下さんは恐ろしいほど無表情で僕を見てきた。


「まだそんな嘘をつくの?」


地獄の底から鳴らしたような恐ろしい声に僕は驚いた。僕は二の句を告げなかった。すると、宮下さんは心底軽蔑したような目で僕を見てきた。


「私は≪冥府の日輪ラストサン≫様を尊敬しているの。いえ、純粋に愛していると言ってもいい」

「だったら!」

「だからこそ≪冥府の日輪ラストサン≫様の偽物を語る山井君を毎日毎日、許せなかったんだよねぇ。人の好きなものを馬鹿にするなって親から教わらなかったの?」

「だから、僕が≪冥府の日輪ラストサン≫なんだってば!ほら!」


僕は自分のチャンネルを見せるが、宮下さんのゴミを見るような瞳は変わらなかった。むしろその瞳はより生理的な嫌悪を滲ませていた。


「呆れた…テキトーにでっちあげたアカウントまで作って…ここまで酷い人間だとは思わなかったよ」

「くっ!じゃあここで配信するから「死ね」え?」


僕のスマホを取って床に叩きつけられた。


「私の≪冥府の日輪ラストサン≫様を馬鹿にしないでくれるかな?あの人は気高く、崇高な志を負った素晴らしいお方なの。貴方みたいな底辺を這いずり回るゴミ人間じゃないの。声が少し似ているからって調子に乗らないで」

「ぁ…あ」


僕は膝から崩れ落ちた。毎日毎日、僕に向けてくれた笑顔は虚構で、僕を好きだと言ってくれたのも僕ではなく≪冥府の日輪ラストサン≫だった。断じて陰キャの僕ではなかった。


はは、そうだよな。僕みたいな陰キャが陽キャの頂点と話すなんて夢のまた夢だったんだ。そう思うと涙が溢れてきた。


「帰ろ。マジで嫌な一か月だったわ。賭けにも負けたし本当に最悪」

「実際に告白は成功したんだから、実質賭けはあかねの勝ちでしょ?男子共、奢ってあげなって」

「うわ!そういうの良くないわぁ!」


僕の元から去っていく陽キャ軍団。しかし、何を思ったのか一人が足を止めて僕の方を見てきた。


「だったら、山井に奢らせるべきだろ。あかねをあんなにキレさせた張本人なんだし」

「それいいね!ついでに一か月間は楽しんだんから、その料金として払わせようぜ」

「うわ…本当に汚いねあんたら」

「うるせえ!男子高校生の財布事情を舐めるな!」


陽キャの男子たちが僕の元に歩いてくる。


「ひっ!」


バリバリのスポーツマンの男子たちに僕みたいな運動音痴が勝てるはずがない。僕は迫りくる獣に恐怖を覚えた。


「おら、あかねに悪いと思うなら金を出せよ」

「…はい」


自分が情けない。こんな無力な自分を本当に軽蔑する。僕はポケットから財布を出した。すると乱暴に財布ごと奪われた。


「おっ!たくさん諭吉さんを持ってるじゃん!」

「おお~山井太っ腹ぁ!」


一枚一枚抜かれていく諭吉を見る。そして、十分な金を奪った彼らは財布をさっきのスマホ同様地面に叩きつけて、宮下さん達の元に戻っていった。


埃まみれになったスマホと財布を見て、僕は悔しくなった。勉強もスポーツもできないけど、こんな酷い目に遭うようなことはしてこなかったはずだ。


ただ自分を好きになってくれた女の子に真実を伝えただけだ。


それがどうだ?


僕を堕とすために近付いた?


本物の僕を底辺をいく陰キャだからというだけで偽物扱いした?


陽キャのトップの機嫌を損ねたから金を奪われた?


そう思うと怒りが込み上げてきた。目の前を僕の金を持って悠々と歩くあいつらに復讐したい。拳を強く握り、歯ぎしりをする。


『力が欲しいか?』

「っ!」


僕の頭に彼の声が鳴り響いた。それは僕が狭い部屋の中でなりきっていた彼の声だった。


『力が欲しいか?』


そんなもの欲しいに決まっている。だから、僕に勇気をくれ!


『いいだろう!我が名は≪冥府の日輪ラストサン≫!貴様に復讐の力を与えてやる!』


━━━


「はははははははははは!」


あかねはその不快な笑い声を聞いて後ろを振り向いた。あかねだけじゃない。陽キャ軍団は全員振り向いた。どこかあのお方に似ている声音にあかねのイライラは溜まっていった。


「…あいつ頭おかしくなったんじゃねぇの?」

「なんだなんだ。面白いことでもしてくれんのか?」

「もう興味ない。早く行こうよ」

「ね。早くしないと席がなくなっちゃう」


何が起こるのかと楽しそうに観戦を始めた男子、そして、なんの興味もなさそうにすぐに前を向いた女子たちで反応が分かれた。


しかし、山井旭、いや、≪冥府の日輪ラストサン≫の真の力を見たことを陽キャ軍団は一生後悔することになった。


「なっ!?何してんだお前!?」


陽キャの一人が悲鳴を上げる。ソレを見た陽キャ男子たちは悲鳴を上げた。


「鞘より抜かれし『聖剣』は闇夜に輝く一筋の希望となって我が覇道を指し示す」


その声はあのお方と似た声だった。そして、そのセリフも彼が言いそうなものだっだ。もう一回文句をいってやろうと振り向いたその瞬間、男子たちと同様固まった。


「なっ!そんなもの出さないでよ!」


女子たちは顔を手で隠して、男子たちはさっさとしまえと野次を飛ばしてきた。旭、いや、≪冥府の日輪ラストサン≫は『聖剣』をベルトを外して取り出した。


動揺する陽キャ軍団をよそに≪冥府の日輪ラストサン≫は瞑目し、そして、カッと目を見開いた。


「暗雲を吹き飛ばせ!エクスカリバー―ーーーーーー!!!!!!!!!」

「「「「きゃああああああ」」」」


その日、孤を描いた聖なる光が悪の陽キャに降り注いだ。


━━━


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