第七章 母親

「初めまして、城崎です」

 城崎さんは俺と話している時は、基本的に仏頂面だ。笑ったり泣いたりする表情も最近よく見るような気がするが、それ以外の会話は表情が読み取りづらい無表情で喋る。俺も他人から同じような事を言われるので、無表情になってしまうのは仕方が無い。何故ならわざとやっている訳ではなく、自然にそうなるからだ。しかし彼女の場合はどうだろう。

「えと……初めまして! 楠瀬凛です」

 凛は席に座ったまま驚きを隠しつつ笑顔で自己紹介を返す。普段から無表情の俺は白崎さんのように初対面の相手に対してこんなに愛想良くニコニコできない。その笑顔に胡散臭さを覚えながら、この不可解な状況について考えていた。

「櫂人、城崎さんも一緒に来る予定だったん? 先に言っといてよー」

 凛が少し気を遣いながら立ち尽くす俺に笑いかけた。しかしそれは違う。断じて違う。俺は凛からのメッセージに二つ返事で連絡し、城崎さんと別れた後すぐに準備して先日と同じ居酒屋に訪れた。凛は先に店に入って一番端の人目につかないカウンター席を確保してくれていたので、俺は店内に入って凛を見つけるなり声を掛けようとした瞬間、何故か俺の後ろに居たのだ。彼女、城崎くいなが。

「粟津くんのこと、さっき偶然見かけたんです。一緒に来る予定じゃなかったんですけど……もし良かったらって。ね? 粟津くん」

 何だろう、この無理矢理な感じは。やっぱり婚約者っていう話も彼女がこじつけた嘘なんじゃ無いだろうか。

「何でやねん、俺は……」

 途中まで言いかけた俺は凛の心配そうな視線に気付く。こういう場合はどう答えるのが正解なんだ。人の目もあるし今彼女を邪険に扱ったら凛はどう思うだろう……。考えがまとまらず俺は無意識に城崎さんの嘘に乗った。

「……せやな」

「うん? そうなん?」

「なんか、腹減っとるみたいやし」

 自分ながら苦しい言い訳だ。見かねたように城崎さんは俺達の話に割って入った。

「実は私、お財布忘れちゃって。家に取りに戻るにしてもタクシーや電車にも乗れないし……粟津くんと偶然会えて助かったわ!」

 元気いっぱいに喋る彼女はどう見ても俺の知る城崎さんでは無かった。

「私もお邪魔しても良いですか? 突然ごめんなさい」

 凛が席を促す前に城崎さんは凛の横へ座る。なんなんだこの女は。

「全然! むしろ居酒屋で良いんですか? 城崎さんのお口に合うかどうか……」

 確かにここは庶民が多く利用する大衆居酒屋だ。この金持ち娘の口に合うかどうかは懸念される。

「あら。私のこと知ってるんですね」

 凛は一瞬はっとしたが、すぐにこう付け加えた。

「すみません、実は私が櫂人にしつこく聞いたんです。その……前に会った時、櫂人のポケットに大金が入っていたので」

 確かに凛と前回会った時、俺はポケットに二十万円を入れていた。しかし事実はそれだけで、城崎さんのことは俺から話した。凛は咄嗟に俺を庇う嘘をついていた。

「ご存知なら話が早いです。粟津くんのお兄さんを探しているんですが、何かアドバイスがあれば是非……」

 そう言ってすぐに彼女は振動している自分のスマホを取り出し、画面を耳元に当てて喋り始めた。

「えぇ……うん、そう。分かった、じゃあ」

 電話がかかってきたらしい。短い通話を切ると、彼女は「迎えが来るそうだから。それじゃあ」とだけ言い残し、足早に居酒屋を出て行った。溜息を少しついてさっきまで彼女が座っていた椅子を真っ直ぐに戻し腰かけた。

「ねぇ……櫂人、あの人嘘ついてるで」

「え?」

 俺と二人きりになった凛は、喋り口調がいつもの関西弁に戻っていた。

「偶然なんて有り得る? しかもこのタイミングで迎えに来るって……スマホがあるならもっと早く迎えを呼べばええと思わへん?」

「ん、せやな。俺もそう思っとった」

「櫂人も嘘ついたやろ!」

「え、何の」

「さっき城崎さんの嘘に乗っかってたやんか!」

「あーー……いや、あれは……」

 凛が心配そうな顔をしていたから、とは照れくさくて言いづらい。

「後でちゃんと凛には言おう思とったで。あいつが何か企んでるみたいやったから……その、乗っかっただけで」

「ふーん」

 膨れっ面の凛は疑わしそうに俺を見ると「まぁとりあえず注文しようか」と言ったのでホッと胸を撫で下ろした。

 俺達は店員に注文をすると、すぐにお互いのビールと料理が運ばれて来たので乾杯を終えたタイミングで話の続きを始めた。俺はパーティーの話や速水さんの話、城崎さんと……ホテルで一晩過ごした話以外の最近起こった出来事を全て話した。凛は最後まで真剣にうんうんと頷いていたが、さすがに速水さんの話には途中で口を挟んだ。

「それ警察沙汰やで? 本当に届けなくてええん?」

 人に話すとより実感が湧いてくる。速見さんと城崎さんの話をしていた時もそうだったが、稀に人間は自分におかしな出来事が訪れても、それをおかしいと他人に指摘されるまで気づけない時がある。

「まぁ……また何かあったら届けるわ」

 その後も凛は不安そうに、それから身体は大丈夫? どこもおかしくない? と体調を心配してくれていた。また心配させてしまった、と後悔したが自分を気にかけてくれている事が俺は何より嬉しかった。話を終えると凛は少し黙り込んで考えた後、一つ目の疑問を俺にぶつけた。

「その速水って人、なんで櫂人の事を真っ先に疑ったんやろう?」

「なんか俺が唯一の身内やからとか何とか言っとったな」

「え? 変やん。何で身内が攫ったと思うん? 身内なんやったら普通、危害を加えるんじゃくて……逆に助けへん?」

 はっとした。

 それと同時に胸の奥が少しだけ熱くなる。

「そうやな……」

 身内とは、家族とは本来助け合うもの。危害を加えるものじゃない。それが普通なのに、その違和感に気づけなかった自分は普通では無いという烙印を押された気持ちになった。そして速水さんからもその言葉が出たという事は、彼もまた俺と同じように普通じゃなかったのかもしれない。いや、もしくは兄から何かしらの話を聞いていたのかもしれない。どこまで知っている? 彼は……

 そして次の瞬間、俺の脳裏に閃光が走った。

 たった一瞬で、多くの色褪せた記憶が蘇る。




「いいって言うまで絶対ここから出んといてや」

 お母さんがいいって言うまで、ぼくはこの部屋から出なかった。だっていい子はみんな親の言う事を聞くものなんだから。もし言う事を聞かなかったらお母さんはぼくに教えてくれる。言う事を聞く子はいい子で、聞かない子は悪い子だって、教えてくれる。

 前に一度だけ、ほんの少しだけ寂しくなって部屋からこっそり抜け出したんだ。お母さんの部屋に行くと、前に良く来てた人とは別の男の人と一緒にいた。その人はぼくを見ると怒りながら部屋を出て行って、その後お母さんはぼくを叱った。お母さんが言うには、その人はお仕事の人で、ぼくがお仕事の邪魔をしたせいでお金を稼げなかったんだって。だからぼくは、お母さんがいいって言うまで部屋から出ない。いい子だから、お仕事の邪魔はしない。

「僕が本当のお父さんだよ」

 ある日を境にお仕事とは関係無さそうな男の人が出入りするようになった。その人がぼくの家に通うようになってから同い年くらいの男の子も一緒に連れてくるようになった。

 その子と遊んだのは少しの間だったが、一緒に小さな物置き部屋でたくさんの本を読んだ。彼が持って来てくれる本の中身は、見たことの無い世界で溢れていた。前は少しだけ寂しかったけど、ぼくはもう寂しく無かった。でもそのあとすぐ、ぼくは引っ越すことになった。だからもう会えない。もう会えないよ、君の……




「櫂人? 大丈夫?」

 凛が不思議そうに俺の顔色を伺う。

「あ、悪い」

 俺はジョッキを手に取りビールを自分の口に注いだ。

「母親の……」

 あと少しで何かが思い出せそうなのに、思い出せない。ビールを流し込んでも、この喉のつっかかりがどうしても取れない。

「母親の彼氏じゃない。俺の実の父親……やと思う。最初は一緒に住んでへんかったけど、俺が引っ越す前くらいに……そいつが家に出入りするようになって」

 突然話し始めた俺に、凛は驚いているものの黙って話を聞いてくれていた。

「その時に連れてきてた」

「お兄さんを?」

「うん」

「じゃあ、実のお父さんの子供って事やね?」

 何故急に思い出したのかは分からなかったが、俺は不思議な感情に戸惑っていた。今、俺は忘れていた記憶を思い出してスッキリした気持ちになれない。それどころか既に思い出していた気さえしていた。

「櫂人、本気で探すならやっぱり……お母さんに聞きに行かへん?」

 凛は言いづらそうではあったが、俺をまっすぐに見ながら言った。

「役所に行けば、調べれるやん? 住民票とか取れば……って」

 分かってるやんね、とでも言いたそうな顔だ。そうだ、紛れもなく俺と母は親子なんだ。切っても切れない血の繋がりがあって、俺は見ないフリをしていただけだった。俺は逃げたり目を背けることが得意だ。いや、言い直そう。俺は弱いからそれしか出来ないんだ。

 

 俺が役所に向かったのは凛と会ってから数日後のことだった。凛は一緒に行こうか? と声をかけてくれたが断った。相談に乗ってもらってはいたものの、ここまで巻き込む訳にはいかない。俺は窓口から住民票を受け取ると、同じ戸籍に入った母親の欄に目をやる。

「……はぁ」

 深いため息をついた。今更会いたくもないが、それでもこうして母親の住所を調べるまでには、兄に会ってみたかった。ここ数日で城崎さんや速水さんに会ったことで、俺は日を増すごとに兄に会いたいという気持ちが膨らんでいた。母親から聞き出せなかったらそこで諦めよう。そう決心した俺は役所を後にした。

 今日も暑さが厳しい。ジリジリと焦げ付くような気温だが、午後には雨が降るそうだ。それまでには家に帰るつもりなので傘は持ってこなかった。目的地のバス停まで辿り着くと、ちょうど道路の向こうからバスが来た。暑い中待ちたく無かったので、予め時刻表を調べておいた。時間ピッタリだった。俺は乗り慣れていないバスに乗り込み、空いている車内を見渡して一番後ろの座席に座った。


 ーーブブッ


 スマホが振動する。メッセージはきっと凛からだ。このところ、毎日やり取りしている。内容は何気ない会話や「おはよう」「おやすみ」までだ。誰かから連絡が来て嬉しいという経験をした事がない俺は浮かれていた。今日こうして会いたく無かった母親の元へ背中を押したのも、彼女の存在が大きいだろう。

「凛:今日やんね? お母さんに会う日」

 さすがに今日に限っては、くだらない世間話ではなく真剣な内容だった。

「凛:頑張ってね! 今日仕事休みやし終わったら話聞かせて!」

 俺はしばらく口角が上がっている事に気づかず、ふと窓の外を見た際にガラス越しに映った自分の顔を見て初めて気がついた。そして一応周りを確認したが、誰も俺が一人でニヤけていた事には気づいておらず、安心したので再びスマホに目線を戻し凛に返信した。

 目的地でバスを降りるとそこは見慣れない風景だった。この地域に住んでいたのか……と俺は景色を見渡した。そこは東京郊外の落ち着いた雰囲気が漂う地域だった。

 こんな穏やかな自然に囲まれて生活を送っているだなんて、俺の知る母親のイメージとは大きくかけ離れていたので少し驚いた。アスファルトは焼けるような熱気を帯びていたが、日陰から吹き抜ける風は心地良く感じた。自然が多いお陰だろうか。しかしそれとは裏腹に、段々と重い足取りで道を辿っていた。

「あっつ……」

 口に出してみたものの、足が進まない理由は暑さだけではない。一歩、また一歩と目的地が近づくにつれて、俺は逃げたい衝動に駆られていた。ここに来てこの有り様はなんだ。さっきまではバスの中で意中の相手とのやり取りにのぼせ上がっていたというのに。これでは城崎さんから逃げた時と一緒だ。俺は自分を何とか奮い立たせて、とある市営住宅らしいアパートに辿り着いた。

「二○四号室……」

 俺はスマホのアプリにメモしておいた住所を、もう一度確認してインターホンに手を伸ばした。

 

 ーーピンポーン

 

「……」

 誰も出ない。留守だろうか。よく考えたらあの人は朝の弱い人だった。午前中は寝ているかもしれない。よし、出直そう。そう思い踵を返した時だった。

「ちょっとー鍵なら空いてるって……」

 ドアが開く音と聞きなれた声が同時に背後から聞こえた。

「え? 誰?」

 誰か顔見知りと勘違いしたのだろう。訪問者が思った相手では無くて困惑している様子だ。俺は振り向いて数年ぶりに母親の顔を見た。大きな変化は無かったが、記憶より少しやつれているように見えた。

「聞きたいことあんねんけど」

 心臓が震えている。正確には震えていないのだろうが、ドクドクと刻む心拍数があまりに小刻みなので、まるで震えているように感じた。

「……なんや、櫂人か」

 数年ぶりに会った息子に対して一言目がそれか。と思いつつ、俺も用件だけ伝えて早く立ち去りたかったので都合が良かった。

「俺って兄貴おる?」

「いきなり来て、何言うてるん」

 ごもっともだ。しかし母に事の成り行きを説明する気など、俺には毛頭無かった。

「俺の兄貴と知り合いやって人が居るんやけど、居場所分からんくて」

「出産は一回しか経験無いわ」

「腹違いらしいで」

「そんなん知らんわぁ」

「俺の父親ってどこに住んでんの」

 その言葉を口にした瞬間、母はキッと俺を鋭く睨みつけた。

「そんなしょーもない事聞く為に、わざわざ戻って来たんか! そんな暇あるなら仕送りの一つでもしいや! 相変わらず親不孝な息子やわ‼︎」

 叫ぶだけ叫び散らした母は部屋に入るなり勢い良くバンッとドアを閉めた。久々の親子の再会と考えれば衝撃的な反応だが、俺にとっては想定内の展開だった。

「仕送りならあるで。父親を教えてくれ。そしたらもう、けえへんから」

 俺はドア越しに母親に話しかけた。すると案の定、少し間を置いて今度は勢い良くドアが開いた。あと少し後ろに下がるのが遅れていたらぶつかっていただろう。

「えらい立派に育ったなぁ。早よ渡し」

 腕を組んで片手には吸いかけの煙草が、もう片手は俺の方へ手のひらを向けて伸びていた。

「はい」

 俺は封筒だけ入れ替えた二十万円を渡した。紛れもなく城崎さんから貰った二十万円だ。

「えー! 思ったより羽振りがええんやな! アンタ今何の仕事してるん?」

 あからさまに上機嫌になった母は、甘ったるい猫なで声で俺に擦り寄って来たのでまた更に一歩後ろに下がった。

「ええから早よ教えてくれや」

「……ちょっと待ちや」

 母は一旦部屋の中に入り、しばらく経つと見るからに年季の入ったメモの端を持って来て俺に差し出した。

「もう変わっとるかもしれへんけどな」

 俺はそのメモを受け取ると、ほな。とすぐに帰ろうとした。一刻も早く帰りたかった。二十万円もくれてやったのは手切れ金だ。親子の縁を二十万円で切ろうなんて、安いかもしれないがそれでも十分過ぎるほどだ。

「あっ……ちょっと! たまには顔見せに来いや!」

 背後で母の声が聞こえる。まさか、思ってもいない言葉だった。ただ俺に集りたいだけだろう。突然大金を寄越してきたんだから仕方が無い。アイツには俺の顔が金に見えているんだ。

 そう理解しているにも関わらず、心の何処かで期待してしまった俺は浅はかだろうか。幼い頃から酷く母に当たられ、良い思い出など殆ど無いのに。それでも……

「どちらさん?」

 不意に声を掛けられた。声の主は見慣れない中年の男だった。

「ウチの息子やねん」

 慌てて廊下に出てきた母が俺を紹介する。

「めっちゃお金持ちやねんで! 今やってほら、親孝行……」

「失礼します」

 俺はひらひらと封筒をひけらかす母親の言葉を遮って、早足でアパートの階段を降りた。しばらく急いで歩いていたが、振り返ると追ってくる様子は無かったので速度を緩めた。

「はぁ……」

 ここ数年で一番体力を消費した日だ。大して運動をしたわけでも無いのに身体はすっかり疲れ果てていた。喉もカラカラだ。体内には一滴の水分も残されていないような気がしていた。しかしそんな訳も無く大量の汗が噴き出ていて、今も背中にタラリと流れ落ちるのが分かる。手汗のせいで母から受け取ったメモが少し濡れてしまっていた。しかし書かれている携帯番号は読み取ることが出来た。このまま続けて電話をかけてしまいたかったが、もうそんな体力は残されていない。バス停に戻った俺は近くに自動販売機を見つけ、ミネラルウォーターを買うと一気にそれを飲み込んだ。バス停にはベンチがあったので、腰掛けて更に飲み干した。

 少し体力が回復したので、おもむろにスマホをポケットから手に取ると、凛にメッセージを送った。するとすぐに電話をかけてきた。

「もしもし? 大丈夫やった? 今どこなん?」

「うん。大丈夫。今バス停」

「もう帰るん?」

「帰るで」

「そっか……お疲れ様」

 すぐに結果を聞かずに気遣ってくれる彼女はなんて素晴らしく出来た人間なんだろう。俺は自分に向けられた優しさに嬉しく思いつつ、仕事場や友人に対しても凛はきっとこうなのだろう、と思い巡らせて勝手に少し落ち込んだりもした。そういえば今まで考えていなかったが、恋人はいるのだろうか。凛は可愛い。そして性格も良い。周りの男が放っておくだろうか? 通話中にも関わらず、俺はそんなことを考えながら焦り始めていた。

「櫂人? 聞いてる?」

 しまった。すっかり聞いていなかった。

「悪い、何か……あれや。電波が悪いわ」

「ほんま? 掛け直そうか?」

「いや、ええ。今日仕事?」

「休みやで。さっきメッセージしたやん!」

 そういえばそうだった。焦っていたのであまり考えず会話をしてしまっていた。だからこそこんな言葉が出た。

「ほなウチけえへん?」

 口に出してから我に帰った。家に呼ぶなんて、あってはならないのではないかと。そこから更に気が動転して覚えていないが、凛から行くと返事を貰うと直ぐに電話を切り、急いで部屋の掃除をしようと試みた。とても人が呼べるような惨状では無いからだ。

 バスが来るまでの待ち時間がとても長く感じたので、俺は座っていたバス停のベンチから立ったり座ったりと意味の無い行為を繰り返していた。後から数人バス停に集まって来たので、大人しく立ち上がるのを止めて座り直すと、今度は貧乏ゆすりを始めた。周りの人からすれば苛立っているように見えたかもしれない。しかし俺は周りの目を気にして居られるほど冷静では無いのも確かだった。

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