第21話 アイドルは忙しい
「ええ、そりゃまあ」
愚問だったかもしれない。多くの首が縦へと頷いていく。ファンの集いであるオフ会に集まるほどの濃い面々だったのだから、当然といえば当然の結果だったと言えた。
「記者さんは、まだ見てないんすか?」
「ええ、残念ながらね。お恥ずかしい」
と頭を掻く。
すると、
「切り抜き動画なら今もあがってますよ。ほら、これなんすけど」
そう言い焼きとりんぼはスマホを操り、神無利かざりの配信画面を見せてくれた。
画面中央に位置している神無利かざりは少し俯き加減に目だけを忙しなく動かし、段々と言葉数が少なくなる。暗いトーンでぽつりぽつりと犯行を自白していく。
それが繰り返し何度も流れる。俺自身、何度も確認してきた物と変わりなかった。軽く手のひらを立てて、二度三度揺らす。
「どうも有難うございます。でも私が知りたいのはね、この発言の前後なんですよ」
ほぼ全ての切り抜き動画が同じ様な尺、同じ様な場面で終わりを迎えていた。誰かの編集を経た動画という事に他ならない。その発言に至るまでの話の流れ、その場の雰囲気というものは知りようがなかった。コメントを追おうとしても、肝心の画面が途切れ途切れでは使い物にならない。
「ふうん、なるほど。前後ですか。でも、ちょっとどうだろう。難しいかもっすね」
腕を組み、ううんと唸っている。
「まだどっかに残ってるのかなあ、あれ。何でかすぐに消さちゃうんですよね」
該当の配信動画は非公開とされていて、本人の許可なくあげられている違法動画もあるにはあったのだが、その悉くが数十分と保たずしてものの見事に消されていく。なので、問題となる箇所の短く編集された切り抜きを確認するだけで精一杯だった。
掛かりきりで目を光らせる、まるで監視の目があるとしか思えないほど異様な対応の早さを見せた。特例の対応は二十四時間昼夜を問わずとした徹底ぶりで、とても個人の仕業で賄える内容だとは思えなかった。
株式会社virtualityの、組織立っての対応。一企業を巻き込んでの揉み消しを計る動きであると、まことしやかに噂されている。中には度重なる配信動画の再投稿により、開示請求をされて名誉毀損で訴えられたという者も現れる始末となっていた。
事の真偽は定かでなかったが配信動画を再投稿する動きはピタリと止まり、結果として目にするのは厳しい状況と相成った。そういった事情から、実際にその場にいた彼らティアラーの記憶が頼みの綱となる。
「彼女は一体、どういった様子でしたか」
「様子ね。そうだなあ。まあ、ここんとこずっと元気はなかったのかな。疲れてるっつうか、無理してるのが伝わるって感じ」
周りの数人が同意し分かるかもと頷く。
「無理ですか。その原因は何でしょうね。何か思い当たることはありませんか?」
「配信ってやっぱ疲れるんじゃないすか。喋りっぱなしだし、配信でするネタも用意しなきゃだし。裏でも忙しそうにしてて、かざりんは頑張り屋さんだから余計にさ」
仕事疲れに依るものだから、元気がなくてもしょうがないと焼きとりんぼは言う。その声を嘲笑うかの様に、隣のテーブル席からケッと悪態をつく人物が現われた。
「どこがだよ。最近の配信なんて手抜きも良いとこだろうが。そんなに忙しいか? 成果物なんて何にもあがってこないのに。忙しいのは、他の理由なんじゃねえのか」
テーブル越しにどよめき出す。やめなよと諌める声がチラホラと飛び交い、こちらにジロリと視線を送る眼鏡の男と目が合う。
「ええと、何か理由をご存知で?」
「いや違うんです、違うんです、記者さん。あいつには構わないでやって下さい」
焼きとりんぼや周りの制止を物ともせずに眼鏡の男は言い切った。
「隠さずに本当の事を言えよ。かざりんは男漁りに忙しいだけなんだってな」
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