飼い猫は健気で、でもヤンデレで

御厨カイト

飼い猫は健気で、でもヤンデレで


はぁ……今週も何とか乗り切った……

ほぼほぼ残業の毎日だったけど何とかなって良かった……

もう今日はサッサと家に帰って飼い猫の小豆をモフモフして寝よう。


……でも最近買えるのが遅いからか機嫌が悪いんだよな。

昨日だって餌をあげるのが遅れたからか滅茶苦茶ニャーニャー鳴いてたし……

……缶詰買って帰ってやるか。



そんな感じで帰り道に会ったスーパーで猫缶を2,3個買って家へと向かう。




カンッカンッとアパートの階段を上り、やっとドアの前に。





ガチャッ





「ただいま……」






返してくれる人は誰もいないけど、一応言う。

「ふぅ」と息をつき、靴を脱ごうとしたその時、




「おかえりにゃさい、ご主人!」




「!?」





突如、部屋の奥から黒髪の美女が姿を現した。

突然の知らない人の登場に俺は思わず言葉が出る。




「……えっ、誰?」




「誰ってひどいにゃ~、いつも可愛がってくれるじゃにゃいですか。小豆ですよ、小豆!」





パタンッ





あれっ?俺部屋間違えて……うん、無いね。

何、俺疲れすぎて幻覚でも見てんのかな。

……もう1回入ってみるか。





ガチャッ






「もー、ひどいですにゃご主人!なんで扉を閉めちゃうんですか!」




……うーん、現実っぽいな、コレ。

頬つねっても痛いから夢じゃないし。


いや、どういうこと?


……ってか小豆はどこに行ったんだよ。




俺は靴を脱いで、目の前にいる黒髪の美女の横を通って小豆の事を探す。



「小豆~、小豆~、どこに行ったの~」


「ここにいますにゃ!ご主人!」


「……小豆~、小豆~、どこ~?」


「だからここにいますって、ご主人!」



俺の横をウロチョロしながら、強く主張する。



「……えっ、ホントに小豆なの?」


「そうですにゃ!……というかこの綺麗にゃ黒髪にチェック柄の首輪、そしてこの猫耳と尻尾がにゃによりの証拠じゃにゃいですか!」




……言われたら確かに小豆の特徴と合致してるし、付いている猫耳も尻尾も作り物ではなさそうだし。

うーん……いや、でもそんなことあり得るのか?



そんな事を色々考えていたら、お腹が「グゥー」と鳴った。



「あっ、ご主人、おにゃか空いたの?ご飯にゃらもう作ってあるにゃ!」


「……もしかして小豆が作ったのか?と言うか……作れたのか?」


「そりゃ、私みたいにゃエリート猫にゃら当然それぐらい!……まぁ、本当はご主人がいつもしていたことを真似しただけにゃんだけどね……」



「えへへ」と気まずそうに笑いながらそう言う彼女。

……何だか、普段結構見栄っ張りな猫の方の小豆の面影と重なる。



「……そうか、それは楽しみだ。是非食べたいな」


「分かった!じゃあ、温めにゃおすからちょっと待っててにゃ!」




お尻の尻尾をユラユラと揺らしながら、パタパタパタと台所の方へと彼女は向かっていった。

そして、どうやら冷蔵庫に入っていたらしい鍋を取り出して準備を始める。









……一先ず、彼女が準備をしている間に小豆が居そうな場所や家から出て行ってしまった時の痕跡なども探してみたけど全く見つからない。

と言うか……大分前に獣医さんにGPSの埋め込みをして貰ったんだけど、そのGPSが今目の前にいる彼女を指しているんだよね。





ホントに……これが小豆なんだな……




鍋をかき混ぜながら、鼻歌を歌う彼女を見ながら俺はそう思うのだった。










********










「……美味しい。コレ、美味しいよ小豆!」


「ホント!?嬉しい!……ふぅ、良かったにゃ~」



尻尾をぶんぶんと振りながら、「ニシシ」と照れ隠しのような元気な笑顔を見せる彼女。



「実は結構緊張していたから安心したにゃ~」


「いや、でもこれは正直にびっくりしてる。まさか初めてなのにここまで美味しく作れるとは……」


「にゃはは、照れるにゃ~」



そんな彼女の照れ顔を見ながら他の料理にも箸を付け、舌鼓を打っていく。

あっ……めちゃくちゃ尻尾ぶんぶん振ってる。




……一頻り褒めた後、俺はやっと本題へと入って行く。



「……そう言えば、小豆はどうしてその人間の姿になったんだ?」


「えっ!?……え、えっと……じっ、実は私にも分からないんだにゃ……」



申し訳なさそうに俯きながらそう答える彼女。



「あっ、そうなの?」


「う、うん、朝起きたらいつの間にかこの姿ににゃっていたのにゃ」


「ほぇー……そうだったんだ……」


「……まぁ、その反応ににゃるのも分かるにゃ。私も鏡を見た時は意味が分からにゃかったからね」


「いや、そうだろうよ。急にいつもの猫の姿から人間の姿になっちゃったんだから」


「でも、実は人間の体ににゃれたことは嬉しいのにゃ。やっと道端で死にそうだった私を拾って育てて、ここまで可愛がってくれたご主人に恩返しができるのだから!」


「小豆……」



心の底からの喜びを表すかのような、花のような笑顔を見せる彼女に俺は心を打たれる。



「だから、だからいつまでこの人間の姿でいれるか分からにゃいけど、ご主人への恩返しとして色々身の回りのお世話をさせて欲しいのにゃ!」


「おぉ、それはこっちからしても願ったり叶ったりだよ」


「……と言うかご主人は最近そういう事を疎かにしすぎにゃ。仕事が忙しいのかもしれにゃいけどちゃんとしないといつか死んでしまうにゃよ」


「……それは、うん、善処するよ」


「はぁ……ホントですかにゃ……まぁ、そんにゃ訳ですから今日はゆっくり休んでくださいにゃ。お風呂とかももう沸かしておいたのにゃ」


「これは……優秀だな……」


「今までが劣悪だっただけですにゃ。これが当たり前ですにゃ!」




そんな事を話しながら小豆が作ってくれた料理を完食した俺は早速小豆が沸かしておいてくれていたお風呂に入る。

……てか、これ多分浴槽の掃除とかもしてくれたんだろうな。

ホント、有難い。




……それにしても、まさかこんなことが起きるなんてな。

猫が人間になるなんておとぎ話の中だけだと思っていたんだけど……



「あぁ……」と息を吐きながら、肩までゆっくりとお湯につかる。



一先ず、色々考えたりするのは明日だな。

今日はもう疲れてるし、明日は休みだから時間もたっぷりある。

取り敢えず今日はゆっくりお風呂に使って、さっさと寝ることにしよう……






********






ふぅ……あまり長い間は言っていなかったけどのぼせたのかな……

体が凄く熱い……はぁ……



体からホカホカと湯気を出しながら脱衣所から出ると、小豆は台所で先ほどの夕飯で使った食器類を洗っているようだった。


尻尾が無意識なのかユラユラと揺れている。

……今度エプロンでも買ってあげるか。似合いそうだ。



「おっ、ご主人、お風呂上がったのにゃ?」


「うん、浴槽洗ってくれたんだね。凄く気持ち良かったよ」


「えへへ、そう言って貰えて嬉しいのにゃ。これからご主人はどうするのにゃ?……あっ、もしかしてまた家でもお仕事するのにゃ……?」


「いやー、流石に今日はしないよ。と言うかちゃんと今日の分は終わらせてきたからね」


「それは良かったにゃ。もし仕事をやると言っていたら全力で止めている所だったにゃ」


「えっ、そこまで……?」


「そりゃそうにゃ!家は休む場所で仕事をする場所じゃ無いのにゃ!……っていうのをいつも抗議してるのにご主人は全く聞いてくれないのにゃ……だから人間の姿になったからには全力で止めさせてもらうのにゃ!」



……あっ、いつも家で仕事をしている時に隣でにゃーにゃ―鳴くのはそういう事だったんだ。

ただ構って欲しいのかと思ってた……



「なるほど……まぁ、今日と言うか今週は凄く忙しかったから今日ぐらいは早めに寝て休むよ」


「うん、それが良いのにゃ。これが終わったらお布団を敷くからちょっと待っててにゃ」



彼女はシンクの方に向き直し中断していた作業を再開させる。

その間に俺はまだのぼせているか、熱い体を引きずりながらカバンに入っていた仕事の書類などを片付ける。

……やっべ、最近忙しくて全く整理整頓してなかったから大分とんでもないことになっている。

これはこれで……遣り甲斐がありそうだ。





そんなこんなでカバンの中がすっきりしてきた頃、丁度小豆も食器洗いが終わったようでこちらに来て布団を敷いてくれた。



「それじゃ、今日はもう寝ようか」



そう言い、俺は電気の明るさを小さくして布団に入る。


すると、いきなり小豆がゴソゴソと俺の横に入ってきた。



「えっ、小豆!?な、なんで?」


「なんでっていつもご主人の横で一緒に寝てるじゃにゃいですか?」


「あ、いや、まぁ、そうなんだけど……狭くない?」


「にゃふふ~、逆にご主人にいつもより凄く近くに居れて嬉しいにゃ!」



そう言いながら小豆はギュッと俺に抱き着いてくる。



猫の時から美人だと思っていたが人間になってからより一層美人になった小豆の顔がすぐ近くにあるからか、俺は顔がより一層熱くなるのを感じる。


……やっぱりなんか俺の体、おかしいぞ。

さっきからずっと体も顔も凄く熱いし、何だか…………俺、忙しかったから溜まってんのかな……

だとしても、この状況は色々マズい気がしている。

今は人間の姿をしているとは言え、流石に飼い猫に……いや、ダメだろ!



「……ねぇ、ご主人。この間久しぶりにお母さんから電話が来たって言っていたよね?」


「えっ、うん、そうだけど……いきなりどうしたの」


「その時に『早く孫が見たい』って言われたって言っていたよね?」


「あぁ……確かにそんな話をしたような……」


「それじゃあさ、急だけど……しないかにゃ?」


「えっ……?」



その時、急に小豆はガバッと布団をめくり俺の上に馬乗りになる。

そして、いそいそと服を脱ぎ始めた。



「えっ!?な、何してるの?」


「何って……交尾の準備にゃ?」


「はっ!?こ、交尾!?ちょ、ちょ、ちょっと待って!どういう事?」


「どういう事も何もご主人と私で1つににゃっちゃおっていうただそれだけですにゃ」


「いやいやいや、全然意味が理解できないんだけど!?」


「……もー、だからご主人の子供を作るために私と子作りしましょうっていう事にゃ!レディーにここまで言わせるなんて察しが悪いご主人だにゃ」


「……こ、子作り?あ、小豆と?……そ、そんな事する訳ないだろ!」



余りの衝撃発言に脳への理解がやっと追いついた俺は声を荒げて反対する。



「ふぅ……ご主人の事だからそう言うと思ったにゃ。……そう言うと思ったからこそ、先手を打たせてもらったにゃ」


「先手?」


「……いくら猫と言えども人間と何年も一緒に過ごして来たら結構人間界の知識が増えてくるんだにゃ。例えば……コレが一体どんな作用をしているのか、とかにゃ?」



小豆はポケットに入れていた何かを俺に見せる。



「……こ、これは、前に先輩から悪ふざけで押し付けられた媚薬ドリンク……っと、という事はまさか!?


「にゃふふ~、その想像通りにゃ。さっきご主人に食べてもらったあの料理にはこのドリンクを入れておいたのにゃ。これならご主人の意思関係なく出来るからね」



さっきからの体の火照りはそういう事だったか……

くっそ、まさか媚薬が盛られていたとは……はぁ……



「……な、何で、何でこんな事をしたんだ!」


「何でって……ご主人の事が好きだからに決まってるにゃ!私の事を助けてくれたご主人の事が好きで好きでたまらにゃいからにゃ!ずっとこの想いを伝えたかった、でもいつも猫の姿じゃ伝えられにゃい……。そんな時にご主人と同じ人間の姿ににゃることが出来た、想いを伝えられるようににゃった!それなのに、今までやりたかった事を要求しちゃいけないのかにゃ?また私に我慢しろと言うのかにゃ?」



目をうるうると潤ませながら、思いをぶつけてくる彼女。



「ぬぅ……そ、そうは言っても物事には順序というものが……」


「どうせその順序というのを大切にしたとしても、ご主人は私の事を大切に想ってくれているから私と交尾してくれにゃいにゃ!」



図星だった俺は思わず黙り込んでしまう。

それでも、彼女の勢いは止まらない。



「それなら、どうせ私の愛に答えてくれにゃいのにゃこうやって無理やりするしか手はにゃいのにゃ!」


「あっ、ちょっ、やめろ!」



小豆は勢い良く残りの服を脱ぎ、その綺麗な裸体が露になる。

そして、そのままの勢いで俺の服にも手を掛けてくる。


いけない事だと思っているのに、分かっているのに自分の呼吸が荒くなっていくのを感じる



「い、いくら俺をた、焚き付けても俺は小豆とそういう事をする気は一切無いぞ!」


「……口はそう言っててもホントは我慢出来にゃいのでしょう?」



小豆はズボンの上から俺の下をスリスリとさすりながら、そう言う。



「……グッ……やめろって!」



もう既に俺の性欲の象徴は媚薬の影響か固くなっているようだった。



「もー、まったく……下は正直なのに上は素直じゃにゃいんだから。……まぁ、いくら言ってもやる事は変わらにゃいのだけどね」




暗がりの中で頬を染めた小豆がニヤリと微笑んでいるのを感じる。

そして俺の耳元に近づいて一言、











「体に正直になって私と1つににゃっちゃお、ご主人?」




















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