生前葬②
同窓会当日、俺は何もない山道をひたすら路線バスに揺られていた。青森県のとある山奥にあるその村は、都市部からバスを1本乗り継いで終点まで行き、そこから更に30分程歩いてようやく辿り着く。バスの便も1日2本しかなく、交通の不便さも村に行かなくなった理由の一つだった。
窓の外は何処までも変わることのない山景色だけが延々と続く。ただ、深く登って行くにつれて辺りを取り巻く霧だけが段々と濃くなっていく。
仕事終わりに1時間ほど仮眠を取っただけの俺は、山道が作りだす規則正しい揺れのリズムに誘われてそのまま眠りに落ちていった。
「おい、おい、あんた」
誰かに揺すられて目を覚ますと、そこはもう終点だった。
「あ…すみません、降ります」
垂れてきた涎を拭って慌てて降りようとした俺を、運転手が慌てた様子で呼び止める。
「あんた…まさか死ぬんじゃないよな」
「え?まさか」
愛想笑いをする俺と対照的に、男の顔は真剣そのものだった。
「だってよ、こんな深い霧の日に、なーんもない山奥のバス停に、涙流しながら来てるんだからよ」
「涙…?」
何気なく頬に触れると確かに少し濡れていた。
「はは、大丈夫です。ちょっと懐かしい奴らに会いにいくだけなんで」
そう話す俺の目からも涙の残滓がこぼれ落ちる。
「ならいいけどよ。今日は霧が濃いから気をつけてな」
俺は運転手に礼を言うとすぐに村へと歩き始めた。
確かに今日は特別霧が濃く、道路の両隣には鬱蒼とした雑木林が続いているが、それでも村までは迷うほどでもない。
舗装された道路を道なりに登っていけば、頂上付近でT字路に行き着く。そこから左に折れて未舗装の細い砂利道をひたすら真っ直ぐ進めば村に辿り着くのだ。もちろん、当時と変わっていなければの話だが。
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