遺願
波と海を見たな
生前葬①
ある日、一通の葉書が家に届いた。俺宛に郵便が届くのも珍しかったが、なんと同窓会の案内状だ。
「嘘だろ、何で俺の居場所がわかったんだ?」
懐かしいとか、あの頃に戻りたいとか、誰が来るとか来ないとか。同窓会と聞いて大抵の人間が抱くであろう感情を、俺は全く持ち合わせていなかった。
中学を卒業後、生まれ育った村を出た俺は高校も行かずに日雇いのアルバイトで食いつなぎ、出稼ぎで全国を転々としてきた。
付き合いのある友人はおらず、今も健康保険に入ってないし、住民票だって随分昔に変えたきりほったらかしだ。住所不定だろうとその気になれば住む場所も仕事も案外見つけられるものだ。
世間的に俺は死んだ人間と変わらない。
なのに。
相変わらず気味が悪い村だ。
不可能にみえることでも平然とやってのける。
改めて葉書を見ると、日時と場所のほかは参加・不参加に丸を付けるだけの簡素なもので、文章も定型文で全て印字されたものだった。
差出人は幹事の
「さて、どうするか…」
正直なところあまり気乗りはしなかった。確かに家庭の事情で村に数年間は住んでいたが、それだけだ。村に特段仲の良かった友人がいたわけでもなく、むしろ馴染めなかったと言った方がいいかもしれない。別に生まれ故郷という訳でもないから、村を出てからこれまで一度も立ち寄っていなかった。
開催日は2日後になっていた。
随分急だなと思ったが、葉書に押された消印は擦れて潰れていて、いつ届いたものか判然としない。俺が気付かなかっただけで、ずっとポストに入っていたのかもしれない。
偶然にも、明日から仕事で本州に行く事になっていた。
深夜から朝にかけての仕事だ。
どういう訳か開催時間が午後2時なのもあって、調べると社員寮からバスを乗り継げば何とか往復出来そうなスケジュールだった。
これは本当に偶然なのか、それとも…。
しばらく机の上に置かれた葉書と睨めっこを続けていたが、俺は覚悟を決めて重い腰を上げた。
「行ってみるか」
こんな機会はきっともう二度と訪れない。あれだけ年月が経ったのだ。あの村も、住人達も、それなりに変わっているに違いない。
もう今から返送しても間に合わないな。
会社から支給された携帯電話は持っていたが、葉書には連絡先までは載っていなかった。
駄目で元々だ。
当日参加が無理だったとしても、仕事のついでに寄ったと言ってすぐ帰ればいい。
俺は参加の文字を鉛筆で粗く囲むと、使い古したリュックサックの横ポケットに突っ込んで明日に備えて早めの眠りについたのだった。
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