×××××××喰い、はじめました。
たってぃ/増森海晶
彼女の舌は正常です、多分
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週末の食べ歩きに命を懸けており、おいしいものを食べるための情熱は尋常ではない。
仕事、美貌、健康、金、付き合い、多岐にわたる努力のすべてはおいしいものを食べるため。
日本人形のような大人しい外見に似合わず、中身はすべてを食い尽くすイナゴを飼っている。
そんな彼女が珍しく社員食堂に現われて、田端の人なりを知る人間たちは驚いた。
季節は夏。食堂に取り付けられた液晶テレビが心霊特集を放送し、ご飯を口に運びながら、社員たちは思い思いにホラー談議に花を咲かせていた。
――ハニワ太郎を覚えている人。
――口裂け女の正体。
――ひきこさんを知っているか。
――宇宙人の方が怖い。
――宇宙人と幽霊、どっちが信じられる?
――だったら宇宙人はなんで人類と接触しない?
――そんなことより、人間が怖い。
などと、非現実的なことにアンテナを働かせていたゆえか、普段食堂を使わない人間の存在に気付くことが出来たのだろう。
普段の田端は、自分の机から離れず自作の弁当で肥えた舌を
「どうしたの、葉子。弁当忘れちゃった?」
声をかけた同僚の
「…………あ、うん」
声をかけられた田端の声には覇気がない。表情も精彩が欠けて、どこか疲れた空気を全身から漂わせている。
一目で相当参っている様子に、三浦は彼女になにか恐ろしいことが起きたのではないかと気が気ではない。
どんな悩みを抱えてしまったのだろうか、病気にかかってしまったのだろうか。自分にどんなアドバイスができるだろうか。
が、三浦の心配をよそに、彼女はキツネうどんを啜りながら、消え入りそうな声で言った。
「どれも、おいしいと感じないの」
「へ?」
しょぼしょぼとキツネうどんをすする彼女は話し出した。
最近、食べ歩いて気づいてしまったのだ。
おいしいお店の料理のパターンや傾向が同じだということに。
知ってしまうと、どれもこれもが同じテンプレートで使いまわされた量産された味に思えてきて、おいしいと思えなくなってしまった。
ホットケーキを食べ歩いていたら、A店とB店が同じ原料を使っていることに気づき、基本的な作り方が同一だということに。
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