第一章 俺達に奪えない物

第一話 突然の告白

 ――【仲間】って何だ。同じ目的を持って同じ事を成し遂げることが【仲間】ってことなのだろうか。だとしたら、健二は【仲間】じゃない。もう俺達とは違うんだ。なのに何故こんなに寂しいんだ」

 中城 明(なかじょう あきら)は【仲間】について考えていた。先程、健二が突如重大発表をした時からずっとだ。


 九月二十日、都営美術館から絵画を奪ったこの日の夜、明が運転するグレーの逃走用ハッチバックが四百五二号線を駆け抜ける中、助手席に座る滝川 健二(たきがわ けんじ)が言った。

「僕、この仕事を最後にするよ。子供が出来たんだ」

「はぁー」

 明は今年一番の大声を出した。バックミラーを見れば、深山 正太(ふかやま しょうた)と坂井 港(さかい みなと)は眉を八の字にして驚きの表情を浮かべている。

「どういうことだよ」

 明は健二を問い質した。

「あのさ。前にチャット友達でいい感じになっている女の子がいるっていったじゃん。半年前からその子と付き合ってたんだよね。そしたら、妊娠が分かって……」

 必死に答える健二の額は大粒の汗で濡れていた。

「健二、付き合っていたことなんて、ワイには初耳やぞ」

 正太の野太い声が後ろから響いた。それは正に明が言おうとしていたことだった。

「そうやで。水臭いな、健ちゃん。健ちゃんに初めて彼女が出来たんやったら、うちらで祝いでもしたのにさ」

 港が後ろから手を伸ばして、健二の肩を揉んでいる。

「そ、それが嫌だったんだよ。港君。僕にとったら初めての彼女じゃん。上手くいくかもまだ分からないもの。君たちにパーティなんか開かれたのに、振られたなんてことになったら、僕は恥ずかしくて嫌なんだ」

 健二はずれ落ちた丸縁のメガネを元の位置に戻しながら言った。

「健二。それで子供が出来たからって、俺達との仕事は辞めるのかよ。元はと言えば健二が言ったことじゃないか」

 その時、明は昔の事を思い出して健二に怒ってしまった。


 ――大学の同じゼミで知り合った四人は就職活動で希望の企業から内定をもらうことが出来なかった。第五志望の企業で働く事になった明は卒業式の日に健二たち四人を自分の家に集めて飲み会を開いた。近くのコンビニで買った大量のビール缶を空にしながら、四人は大学時代の思い出を話し合った。他愛ない話題をうだうだと気の合う仲間達で話合うその時間は、明にとっては就職活動で傷んだ心が癒えていく時間だった。その飲み会の終盤に

「僕たちで天下を取ってみようよ。例えば、僕のハッキング技術で」

 と引っ込み事案の健二が言ったのだ。誰と話す時もオドオドした印象があるパソコンオタクの健二が珍しく強気の発言をした。明にはそれが面白くて、他の二人にも

「いい提案じゃないか」

 と言った。

「はは、健ちゃんと明が言うなら」

「そうだな。お前達と一緒ならば、面白いかもな」

 二人ともそう言って、この提案に乗った。そこからだ、四人で度々集まっては犯行を繰り返していたのは。


 ――「とりあえず、この話は『ディケンズ』に帰ってからにしようよ」

 港がそう言うため、明は話をそこまでにした。アクセルを強く踏み、真昼のように照らす明かりの中をハイスピードで走り抜け、いつもの溜まり場へと急ぐことにした。


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