第4話 誕生日前日 Ⅱ
「は、遥。電源」
授業が終わると瑠奈は、遥に自分のスマホを向けた。
遥が、必死で両手を合わせ謝っているしぐさを見せる。怖くて瑠奈の近くへ行けないようだ。
それにしても遥が、着信音をハッピーバースデイの曲にして、瑠奈にスマホを返す時電源を切り忘れたとしても、誰からも連絡がなければ音は、鳴らない。
授業中スマホを触れるはずもない。もし、そんなことをしたら周りの人間が悟っただろうし、そうなれば遥は停学処分になりかねない。
他の生徒から隠れて電源を切るふりをして通信の中身を見る。
義兄の杜若から着信があったようだ。
慌てて瑠奈が着断したので、ダインに
「学校へ連絡済。至急連絡せよ」
とある。思わず立ち上がる。
どうしたら良いか考えた。わからない。
とにかく職員室へ行こうと思ったのと、先ほど職員室へ帰った藤ノ宮が教室のドアを開けるのが同時だった
「御剣さん。帰り支度をして一緒に来なさい」
また、教室中の好意的ではない視線が集まる。けれどさっきのように恥ずかしいと感じる余裕はなかった。
「先生。兄から至急の連絡があったようなんです」
「そのようですね。学校にも連絡がありました。
私の部屋からお義兄さまへ電話なさい」
そう言って、藤ノ宮は、高等部の職員室の前を通り抜け速足で進み、道で隔てられた大学に最も近い理事長室のドアの前に立った。
「え、先生。ここって」
「良いのです」
素早いノックをして理事長室へ入る。中には瑠奈も何回かは、見かけたことがある理事長の鳥生と鳥生の息子で弓道部のコーチをしている紫衛がいた。
「紫さま」
理事長がいうと、藤ノ宮は、鳥生に軽くうなずいて、
「恐れていたことが、違う形で起きたようです。
詳しくはまだわからないので、瑠奈に今から電話をかけさせます」
というと、瑠奈をソファに腰かけさせ、杜若へ電話をするよう促した。
いつも苗字で自分を呼ぶ藤ノ宮が名前を呼んだことに違和感を感じる暇もなく、瑠奈は慌てて電話をかけた。
杜若も瑠奈の電話を待っていたのか、すぐにつながる。
「瑠奈か?」
「うん。おにいちゃん、どうしたの?」
「父さんが襲われて入院して今、病院にいるんだ」
「え、おとうさん大丈夫なの?」
瑠奈の声が震える
「ああ、脳震盪を起こしていて、しばらく動けないが、命に別状はない」
「そうなんだ。命に別状がなくて良かった」
「ただ、母さんが」
「え、おかあさん。おかあさんが?」
わけのわからない不安に瑠奈の目から涙がこぼれる。
「母さんが、行方不明なんだ」
「なんで?なんでおかあさんが行方不明なの?」
「わからないんだ」
「私、とうさんの病院に行く。どこか教えて」
「だめだ。どこの誰が、父さんと母さんを襲ったかわからない。警察が完全に病院で父さんの警護体制を整えてくれるまで来ちゃだめだ」
「じゃ。家で待ってるね」
「もっとだめだ。二人は、家で襲われたんだ。また来るかもしれない」
「じゃ、どうしたら」
と、瑠奈が叫びにもならない声で問いかけたとき、藤ノ宮が瑠奈の携帯を取り上げ
「杜若さんですか?藤ノ宮です。
瑠奈は、私がお預かりします。環さんとも連絡を取り合って、安全な場所を確保できたら、ご連絡します。その時は、私のボディガードの鳥生という男性を瑠奈につけますので、安心してください。」
と言った。瑠奈は、置かれている状況と藤ノ宮が言っていることが理解できず、ただただ混乱した。
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