『ダンジョン番組』に出て地雷系美少女配信者と共演するために、ひとまず配信を始めたら、これまた美女やギャル配信者とコラボすることになりモテ期が到来した弱者男性の話。

星の国のマジシャン

異世界から帰ってきたら会社をクビに…。

「は〜いこちら、洞窟にきております〜。ダンジョン専門家のハヤシ先生、こちらでは、どんな魔物が出てきますか?」


「はい。こちらでは主にスライムが出ると言われています。スライムとはいえ相応の対策をしないとやられてしまう為、挑戦される方は気をつけてください」


 俺はため息をつきながら、テレビの電源を切った。テレビを1日中つけっぱなしにしていたせいで、音がなくった1人暮らしの部屋は、心なしか無駄にだだっぴろく感じられた。なんだか寂しい。会社をクビになったせいで、人と関わることもなくなった。それが原因で、社畜時代はあんなに嫌いだった『人との繋がり』というものが、今では恋しくなってきた。寂しくなると、寒くなる。今は11月。段々と寒くなってくる時期だ。俺は布団を頭から被った。メガネがズレる。まずい、外すのを忘れていた。

 寂しいことには寂しいのだけど、今はどうしてもテレビを見る気にはなれなかった。それは最近、テレビ番組がもっぱら『ダンジョン』関連番組で埋め尽くされているからである。そしてそれは全部、『配信者』というやつらが悪い。

 実をいうと、俺の社畜生活に終止符を打ったイベント、つまり会社をクビになった原因は、「異世界転生」だった。俺はそこでレベルアップを重ね、最終的には冒険者として最高ランクまでのぼりつめた。さらには可愛いヒロインと恋に落ち、転生先の世界における問題をすべて解決した。それなのに。それなのにである。すべてのイベントをクリアすると、俺は無慈悲にもいきなり現実世界に引き戻された。もちろん、会社に俺の居場所なんてあるはずがなかった。おまけにヒロインとはあんなに簡単に付き合えたのに、現実の女性は弱者男性の俺に見向きもしない。自分が可愛いヒロインと付き合うことができたのは、コミュニケーション能力が上達したわけではないことを思い知らされた。異世界での俺は、レールの上をせっせと走っていただけだったのだ。

 仕方ないのでテレビやネットに入り浸る毎日が続いた。そこで初めて知ったのが、俺が転生したのと大体同じくらいの時期に、他にも転生した人間がたくさんいたということだ。そしてその中の1人が配信者だった。その配信者は自身の体験談を事細かに配信で語り、その様子がインターネットを通じて拡散された。「異世界転生」話はバズるという事実に味をしめた配信者は、「ダンジョン配信」なるものを始めた。これはダンジョンの中で自らが魔物と戦っている様子を生配信する、というもので、スリルと爽快さが視聴者の心を鷲掴みにした。そうなってくるとさまざまな配信者が同じ手を使ってくる。バズるからだ。当然のことだろう。あまりにブームが凄まじくて、今では至るところに公立やら私立のダンジョンが存在する。そんな『ダンジョン配信』ブームの中で、最初は配信者たちの行為を小馬鹿にしていたテレビ関係者も居ても立っても居られなくなり、前衛的な番組作りをすることで有名なスシテレビが『ダンジョン』特番を地上波初放送した。すると視聴率はなんと脅威の42.6%。もちろん、その『ダンジョン』番組はレギュラー化した。しかしながら、テレビに出ているようなタレント達はこれらにまつわる知識が全然ない。言ってしまえば素人。専門家を名乗る者も今では出てきているが、公的な研究機関としてはまだまだ黎明期であるため、知識がなく、当たり障りのないことしか喋らない。それが、俺みたいな百戦錬磨の冒険者からしたら耐えられないほどつまらないし、気に入らない。



「やっぱりテレビつけよ」


 1人暮らしも長いせいで、ひとりごとが増えてきた俺は、いつものごとくひとりごとを喋りながら、再びテレビをつける。先ほどの番組は、もう後半になっていた。


「なんだ、おわりか」


 チャンネルを変える為、テレビのリモコンに手を伸ばす。しかし、手が止まった。先ほど洞窟を探検していた芸人が、印象的なことを言い出したからだ。


「はい! ここで番組から重大なお知らせです!」


「なんですか! タツさん!」


「テルさん、あなたがいいなさい!」



「嫌やって、お前がいえや〜」


 くだらないやり取りで引き伸ばそうとする若手のお笑いコンビ。新進気鋭のコンビらしい。レンジャーズ? 俺はあまり詳しくないが。



「はーい、では、お知らせはCMの後で!」



 タツさんが言うと、テルさんがわざとらしくズッコけたと同じくらいのタイミングで、本当にCMに入った。俺は思わずテレビに突っ込んだ。まずい、テレビが友達になっているようじゃあ終わりだ。俺の人生が、である。


「はい! お知らせはですね! なんと! この番組で、『ダンジョン』冒険者オーディションを行いたいと、思いまーす! ふるって応募ください! ただし、応募条件があります!」



「なんでしょう、タツさん?」


「実はですね、こちらのオーディション、応募条件があります! 登録者10万人の『ダンジョン配信者』が条件です! ではまた来週〜!」



 番組は終わった。なんだ、重大なお知らせって言うからどんなお知らせかと思えば。ダンジョン配信で10万人なんて、今どきハードルを低く設定しすぎなんじゃないか。まあとにかく、恐らく応募は非常に多くなるに違いない。何故ならば最近のダンジョン配信者の傾向として、テレビでダンジョンに行くことに強い憧れを持つ者がほとんどだからだ。憧れというより嫉妬、悔しさといった方が適切かもしれない。それもそうだ。テレビのあのすっかすかのダンジョン番組を見ていて、百戦錬磨のダンジョン配信者なら「自分ならもっと魅力的にできる」と、思わないはずがない。俺だって思うくらいだ。ただ、ひとつ言えることがある。俺には関係ないということだ。

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