あなたに微笑む一杯を
みもり
第1話 喫茶 leisurely
大学3年の夏、付き合っていた彼女にフラれた
何を考えているのかわからない
それが理由だそうだ。俺ってそんな風に思われてたんだ。案外、人間関係上手くやってたと
思ってたんだけどな。
まあ、その考えが彼女を苦しめたのか?
彼女がいない夏休みを迎える。
映画を見たり、水族館に行ったり、今年の夏も色々計画立てていたが、それもなくなってしまった。
「暑い・・」
クーラーのない部屋、ガタガタガタと音が鳴る扇風機そろそろ寿命か?
お前も俺の前からいなくなるのか?大学生活は贅沢は出来ない。まあ、学生はそんなもんだろうよ。
冷蔵庫の中を除くと案の定
「何もない・・」
時刻はちょうど午後2時
買い物するついでに少し気晴らしに
ブラブラしてみるか・・
白Tシャツにグレーのテーパートパンツ、底がすり減ったサンダルを履いて外に出る。
やべぇ・・暑すぎだろ?照りつける日差しに
体力が奪われそうだ。
スマホ片手にウロウロ
今日も節約飯か・・。親の仕送りとバイト代が入るとはいえ、ギリギリだからな。
「バイト、もう一つ増やしてみるか」
いつもの道を通っていると、どこからか
いい香りが漂ってきた。この香りはコーヒーだな。
普段は気づかなかったが、少し入った所に
細い路地裏があった。
そこから
路地裏を抜けると、そこには小さな
建物があった。
「こんな所に家があったんだ」
その建物はぽつんと建っていて
住んでるのかよくわからない。近づいていくと、ある看板が見えた。
喫茶 leisurely
喫茶店?だから、コーヒーの香りが
したんだ。外は暑い。
「コーヒー一杯だけならいいか」
俺はその扉を開けた。
——カランコロン——
「いらっしゃいませ」
カウンター越しにこちらを見る人物
ここのマスターだろうな。
「お好きな席へどうぞ」
「あ、はい・・」
とりあえず、壁側の席に座る。内装は
ランプの灯りで照らされていてとても
優しい雰囲気で、昔ながらの喫茶店って感じでカウンター席とテーブル席含めて15人入るくらいだ。本当に小さなお店のようだがとても落ち着いていて店内の音楽はJAZZが流れていた。
コーヒーはサイフォン式だから結構本格的だ。マスターの趣味だろうか?カウンターの横には蓄音機とレコードが置いてある。
マスターがこちらにやって来て
メニューとおしぼりお水をテーブルに置く。
「決まったら声をかけてね」
俺は小さく頷き、マスターは少し微笑んで戻っていく。メニューには定番のコーヒーとおすすめのコーヒーなど書いてある。
先ほどの香りが気になりマスターに尋ねてみる。
「あの、すみません」
「はい、お決まりですか?」
「あ、この場所に喫茶店があったんですね」
マスターはきょとんとしている。そりゃ、そうだよな。注文かと思ったらこんな話をされたら不思議がるよな。
「すみません突然話しかけてしまって」
「いや、大丈夫だよ」
マスターは微笑む。彼の声はとても穏やかで
話かけやすい。この喫茶店のようにのんびりと
している。年齢は30歳後半から40歳前半くらいだろうか、スラリとした体型で切れ長の目をしているイケメン
「この店は少し道はずれのところにあるから分かりにくいかもしれないね」
「俺も知らなくて、この路地裏からとても
いい香りがしたんで、そしたらこのお店が
あったんですよ」
「そうなんだね」
マスターは驚いてたけど
「もしかして、自家焙煎ですか?」
「ははは、よくわかったね。ああ、そうだよ。
あの奥で毎日作業しているんだよ」
「だからか、とてもいい香りだったんで
あ、そのおすすめのコーヒー一杯下さい」
「かしこまりました」
ゆっくりと流れていく時間。ここの空間だけ
別のように思える。しばらくすると、ゴボゴボと音が聞こえる。サイフォンならではの光景だ。マスターがコーヒーを抽出している
そこから漂う香りはリラックス出来る。
そう言えば、流行りのcafeに比べて客が少ない。いや、今は俺とマスターだけ。お昼が過ぎてるとはいえ客がいない。それでもこの空間はとても居心地が良い。
「お待たせしました」
マスターがコーヒーを運んでくる。
「ここの店のオリジナルブランドだよ。夏でもスッキリで香りもあるんだ」
これが先ほど話をしていた自家焙煎のコーヒーだろう。外から香ったものと同じだ。
「どうぞ、ごゆっくり」
「ありがとうございます」
淹れたてコーヒーの香りが店中に広がる。
香りを堪能して一口飲んでみる。
「美味しい・・」
そう言うと、マスターが微笑む。苦味があまりなく、少し酸味があり、夏でも飲めるスッキリしたコーヒーだ。
何だか、ホッとする。
「コーヒーに詳しいんだね」
「え?ああ・・まあ、コーヒー好きなんで」
「そうなんだね、まあ、ゆっくりしていって」
マスターもとても良い人だし、リラックス出来る場所が見つかったな。ちょうど、扇風機だけでは部屋は暑いし、夏休みの間は通う事に
決めた。
——カランコロン——
扉のドアベルが鳴る。その音もこのお店の音楽のようだ。
「いらっしゃい、いつものでいいよね?」
「お願いします」
常連なんだろうな。マスターに迎えられ窓側の席に座る女性。座ると同時に本を読みだす。
わぁ・・。
その姿に息を呑む。絹糸のように艶のある黒髪、滑らかで透明感がある肌。
鼻筋が通っていて、潤いのある唇。
美しいという言葉が似合う。
あまりの美しさに見惚れていると
その女性がこちらを見る。
「・・・。」
もっと美しい・・。
彼女の目の色は
虹色の目をしている。
「アースアイだ」
俺は呟いた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます