第2話 逃走


 巨大な化け物と3秒睨み合っていた松田先輩は、ようやく身の危険を察し、部室の外へと飛び出した。


 廊下を慌てて走る。状況が飲み込めずあたりをチラチラ見回すがオカルト研究同好会以外の人が一切見当たらない。必死で校舎を駆け抜けグラウンドに出ると、そこには化け物がいた。わたしより2、3倍くらいの大きさで肉をむき出しにしたような姿をしていた。わたしは、その見た目の禍々しさに中学生の時に読んだ江戸川乱歩の異形を重ねていた。


「やべぇって、何だよあれ…」


竹内先輩は恐怖で腰を抜かしていた。隣りにいた松田先輩はつばを飲んだ。

「こ、こ、これは…やはり…」




「宇宙人だあああっ!!!」

突然の大きな声に化け物がビクッと反応した。そんな、刺激するようなこと言っちゃ…


「ヒトだ。お前らはヒトだ。」


化け物が喋りだした。嘘、その見た目で喋れるタイプのキャラクターなのなんて思ってしまっている自分がいた。


「@:8*56<○%*97に触っただろう。早く渡す。渡すと、殺すないで許す。」


カタコトの日本語で化け物は語りかけてきた。なんと言ってるか聞こえなかったが、おおよそ当てはある。あの石だ。


「その…それはこれのことだろうか!?」

松田先輩が懐にしまった石を宇宙人に見せると宇宙人はそれだと言わんばかりに顔を歪めた。笑っているように見えないでもない。


「渡したら貴方はどうなるのだろうか!?」 

松田先輩の問いかけを聞いた宇宙人は少し考え


「€©℃¥‼∆は強くなる。強くなると、食べる。お前らは食べるない。境界出ると食べる。」


 その化け物にはわたしたちが食料にしか見えていないことに気づいた。私は思わず足がすくみ動けなくなったように感じた。竹内先輩も、「早く渡そう。ここから出れば外には警察もいる。」と訴えた。松田先輩は息を深く吐き「わかった。」と答え前に出る。


「残念だが、貴方にこれは渡せないことになった!」


なっ!!!??


 そんなことを言えば相手を逆撫でしてしまう、案の定、化け物の姿はみるみる変化していった。


「いった。渡すない。食べるないのないくなった!怒る!」


 次の瞬間、松田先輩は全力疾走し始めた。


「リクト!梅谷会員を頼む!!」と松田先輩が叫ぶ。

竹内先輩は、「わ、わかった!」といい、続ける。


「な、何がなんだかわかんないけど、こっちに逃げよう。」


松田先輩の一言で竹内先輩の恐怖が見えなくなったように思えた。


「は、はい!」

わたしの足は、想定よりも、よく動いた。




これはまたとない好機と捉えるべきであろうか。私の後ろには巨大な化け物(UMA、もしくは地球外生命体と推察)がいて、私の手には未知の物体…。


 松田勇、17年間で2度目のオカルト体験。夢の中で宇宙人と交流したあの日から6年と7ヶ月、私の気分は高揚していた。早く知りたい。これは何なのか、もっと研究したい。

 早くこの謎を解き明かしたい!その瞬間後ろから大きな瓦礫の破片が飛んできた。間一髪で避けたものの、当たれば即死は免れない威力だ。避けた先の校舎に大きなヒビが入っている。


 私の気分と裏腹に状況は悪化するばかりだ。

ついに追い込まれてしまった。校門の外は明らかにこことは違う雰囲気が流れている。おそらくこの門を出てしまえば、この化け物が、私以外の人を襲ってしまうだろう。


「追い詰めた。お前、許すない。早く渡すないと、食べるといった!」


化け物の声が耳に響く。ここまでなのか、私の謎解きは…!


「…はっ…!!」


沈黙の後、私ではない人間の声が聞こえた。今朝出会った女子生徒だ。なぜここに…


「もういい。お前のせい。このヒト、食べる。」


女子は足が震え、動かない様子だった。まずい、早く助けなければ。私のせいで人が死ぬなど、オカルト研究者にあってはならないことだ。どうすればどうすればどうすれば!こっちに目を向けさせなければ!化け物の腕がゆっくりと女子生徒へ伸びていく。何か、何か、何か方法が、方法が、方法が…!!



「うおおおおおあああああああオカルトパァンチ!!!!!!!」


やけくそになって叫びながら力いっぱい化け物の横腹を殴った。体は岩のように硬く、全く手応えがなかったが、化け物の動きがピタッと止まった。

数秒の後、化け物がこちらを睨んだ。


「お前、何した。俺の頭、お前の声が響く。気持ち悪い。気持ち悪いぃ゙!!」

化け物がこちらに向けて腕をブンと振ったのが見えた。あ、これ死ぬやつではないか。


 ふと化け物の背後に男の人影が見えた。手には日本刀のようなものを握っている。


 次の瞬間。化け物の体が真っ二つに切り裂かれた。そこには坊主の男が立っていいた。


「君、怪我はないか?」


男はこっちを見てそういった。

「わ、私は平気です。あなたは…」


そういいかけたところ、坊主は目を見て問いかけた。


「君、オーパーツに触れてしまったのか。」


 この男の名はモト。後に私が、師匠と呼ぶ男だ。


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