2部:第4話 黎ちゃんセンセの女子力アップ大作戦~♡ 制服姿で学生時代を思い出せっ★ ―――不抜(※抜けなかった)

 夏休みの只中ただなかエロ研究部文芸同好会の室内に不思議と集結せし乙女たち。

 活動参加が義務付けられている訳でもないが、にも関わらず集まってくる錚々そうそうたる顔ぶれ――もはや同好会の域にあらず、独立遊軍とでも呼ぶべきか。



 エロ研究部の発起人ほっきにんにして、料理上手の歌上手、快活なるムードメーカー。

 ―――江神えがみルナ―――


 スポーツ万能、スタイル抜群、フィジカル無双を全力で無駄遣いする健啖家いっぱい食べる子♡

 ―――呂波ろなみカヲリ―――


 ツッコミ上手の文学美少女、もはや軍師の貫禄か、手にする書物官能小説の正体とは。

 ―――美嶋みしますみれ―――


 抜きんでた財力を持ち、実はさりげに部長登録されている、名前の読みが尖った。

 ―――花子フローラ=M=ホーエンハイム―――



 結成当初のメンバーがつどい、嵐の前の静けさか、異様な雰囲気で佇む四人――いや何でこんな仰々ぎょうぎょうしいのよアンタら。普通に登場しなさいよ……。


 さて、そんな彼女たちの中から、今回の活動内容を――なぜか威風堂々と腕組みしている(やめなよ)カヲリが、ルナと話し始める。


「ついにキちまったな、この時がよォ……!(ピキッピキッ) 聖コープルの歴史に残るかもしんねぇ、重要イベントの始まりだゼ……!?」


「そぉぉねぇぇ~……! なんせ今日まで、超手こずらされてきたかんねっ……でも今回の秘計ヒケ~なら、一気に前進するはずよォォ……けほっ。……Yoヨー!」


「いえあの、カヲリさんもルナさんも、何でそんなヤンキーものみたいな喋り方を……ルナさんに至っては声質が可愛すぎて合わずむせちゃってるじゃないですか。変なところで無理するのやめましょうよ」


 いつもの如くすみれちゃんがツッコんでくれる。助かる。

 と、変な雰囲気をかもすルナとカヲリの代わりとばかりに、花子が本題を口にしてくれた。


「んで……確か今日は、顧問の鬼河原おにがわら先生の女子力を向上させるために、学生時代の制服を着て頂くんでしたわよね? まあ形から入る作戦も大事かと思いますし、異論はないですケド……」


「そのとーりよ、ハナコちゃん。話がスムーズに進んで助かるぅ~★」


「わたくしゃフローラだっつんですわルナ公。あとわたくしがスムーズに進めてるってより、あなた方が話を逸らし過ぎなんですわよ、いつものことですけれども」


 花子もなかなか真っ当なツッコミをしていく中、不意に室外から声が響く。


『―――皆の衆、そろそろ入室して良いか?』


「ウン黎ちゃん先生、普通に〝みんな〟とか言って欲しいトコだけど……おっけー、どうぞ入っちゃってくださ~い★」


『委細承知』(だから言い方をさぁ)


 妙に仰々しいのは謎だが、そんな黎が入室した――その瞬間。


「「「!? ……お、おぉ……」」ですわぁ……」


「わあ……」


 ルナ・カヲリ・花子が(ほぼ)口を揃えて感嘆の息を漏らし、すみれもしとやかな所作で息をく(ありがたい文学少女です。そんな話あります?)


 実際、姿を見せた黎は、その様相は―――



 聖コープル女子高等学園の制服に身を通し、すらりと伸びた長い手足に無駄な贅肉ぜいにくなど一切なく、スポーツする者特有のしなやかさ。

 お嬢様学園にしては〝へそ出し〟になってしまっているのは、その主張の激しいバストが制服の上半身部分を押し上げているためだろうか。


 ポニーテールの黒髪が躍動感を、切れ長の目は鋭くも強気な印象を――みずみずしい雰囲気を如実にょじつに発揮する、二十代前半女子・鬼河原おにがわら れい



 その姿を見て〝うわキツ〟と、誰が言えるだろうか。肌の張りは現役の高校生にすら負けないほどだし、その事実はエロ研究部文芸同好会の反応を見ても明らかだ。


 とはいえ本人に自覚はないらしく、少しばかり緊張気味に黎は問いかける。


如何いかがか?」


「いやウン、もうちょっと口調とか砕けて欲しいなって思うケド……すっごく似合ってる~! 学園とかで会っても絶対ズェッテェー、同級生としか思えないよ~!」


左様さようか、ルナ殿」


「あのね? ウン、なんか……いつにも増して固くないです? 服装を若くしたら、反比例して口調が古風になるとか、そんな話あります?」


 あるかな……あるかも……。


 それはそうと、外見だけなら完全に同年代としか思えない――どころかグンバツ(死語)のスタイルを惜しみなく見せつける黎に、カヲリと花子が驚きのまま会話を交わす。


「ウッヒョ~ッ……見ろよハナコ、黎先生の爆発バーストっぷりっつったらよォ……特にあの制服もはち切れんばかりのバスト、まさに爆発バースト寸前ですなぁ~? うえっへっへ」


「わたくしはフローラ。つかカヲリさんの雰囲気もなんなんですの。スケベおやじみてーになってますわよ。乙女としてお控えあそばせ?」


「でもエロ研究部っぽいだろ?」


「エロ研究部っぽいですけれども」


〝っぽさ〟をわざわざ出す必要あるかな、と疑問に思わなくもないが――何やら様子がおかしい気がする黎に、すみれがおずおずと語りかけた。


「あの、黎先生、もしかして調子とか悪かったりします? 普段から、えーと……厳格ではありますけど、今日はいつにも増して固い雰囲気というか……」


「ウムゥ。……ううむ、実はのう……この学園の卒業以来、久方ぶりに袖を通したら、制服がパッツンパッツンで苦しゅうてな。特に胸がキツうてのう……」


「な、なるほど、高校卒業後も成長期が終わってなかったんですねぇ……って、ちなみに最後に袖を通したのって、何年前なんですか?」


「ろ。……………い、今現在、二十代前半と言い切れるくらいですな。ガハハ!」


(おっと、どうやら触れてはならぬ話題タブーの模様……女性の年齢については繊細な問題ですからね、深く掘り下げるのはやめておきましょう~……)


 気を遣える女子・すみれの英断――だが同じく気が遣えるはずなのに、ブッ込む時はブッ込む〝倒れる時は前のめり〟系女子ルナが果敢に挑む(やめとけやめとけ!)


「ええ~っナニナニ~? 黎ちゃん先生の高校時代のハナシ? めっちゃ気になる~卒業とかどんなカンジだった? 何年前のハナシか教えてよ~★」


「! い、いやいや、大した話ではないから……ちょ、や、やめぬか江神氏~! 拙者、困りますぞ~~~! ってちょっ本当にヤバ―――あっ」


「え――――」


 真実、挙動不審だった黎が、何やら焦った声を発した直後―――彼女の胸元から、〝ズドンッ〟という音と共に、何かが勢いよく射出され。


「―――ウグウッ!? こ、こほっ……な、何かが、眉間に……ぐふっ!」


 それは、――黎の胸を締め付けていたボタンが弾け、弾丸の如くに飛翔したのだ――!


 その恐るべき事態に、カヲリが青ざめつつすみれに促す。


「ボ……ボタンだ! ヤベーぞ、少し下がれ、すみれ! 危険だッ!!」


「……いや〝胸のボタンが飛んじゃった★〟なんてお色気ギャグみたいな話が、こんな蒙武VS汗明みたいな話になります!? 〝ズドンッ〟って効果音も完全におかしいですし! どんな威力なんですか一体!?」


「ヤベーよマジで、この一戦で天下に示しちまうかもしんねーよ、黎先生の乳力(なんスかソレ、ちちぢから?)が最強だってよ……って、ボタンもう二つくらい飛んだ気がすんだけど、一体どこに……?」


「よ、よく見えましたね、カヲリさんも動体視力すごいな……えっと、どこと言われても――ん?」


 ふと、すみれが目を向けたのは、花子――の両目にジャストミートしたボタンで。


「前が見えねぇですわ」


「ハナッフローラさん大丈夫ですかー!? 目はマズイですよ目は!」


「な、なんとかギリで目ェ閉じれましたから、大事ないですわ……でも困惑のせいかハナッとか幻聴が聞こえましたけれども……」


「ああ、それは困惑のせいですね……まあ念のため、良く見ておきましょうね。ハンカチを濡らしますから、これで冷やしましょう~」


「うう、ありがとですわ、すみれさん……ウヘヘ、役得ですわねぇ……♪」


「ウ、ウウ、すみれちゃ~ん……アタシも、アタシもチヤホヤして~……」


 ボタンの弾丸(そうとしか言えねぇ……)を喰らったルナと花子を、すみれが慌ただしく介抱する中。


 制服の胸元のボタンを弾き飛ばした黎が、解放されたかのように呵々大笑する。


「いやあスマンスマン、胸筋もなかなか鍛えられていたのかな? だがまあ胸元がスッキリして、かなり楽になったよガハハ(やめてくださいよ)」


「お、おぉ……なんていうか、絶好調スね、黎先生……」


「おお呂波、抑え込まれていた反動かな、何やら駆けだしたいほど元気がみなぎっているぞ。今なら百人斬りも余裕かもな、ぐわっはっは(やめろっつの)」


(やっぱヤベーわ黎先生、絶対に逆らわんとこ)


 学園一のフィジカル無双カヲリですら恐れさせる、黎ちゃん先生の女子力ゼロの呵々大笑が、元気一杯に響く。


 つまり、黎ちゃんセンセの女子力アップ大作戦、失敗である――だって胸元あけっぴろげなのに色気の欠片もないんですもん、嘘みてぇな話っスよコレ……(戦慄)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る