2部:第2話 楽しい楽しい夏休みの始まりだ~★ ……オイ待てよ、そんな、いきなり……最大の戦いを強いられるなんて――!

「……ねえ、すみれちゃん……どうして? ねえ……教えてよ……」


「……………………」


「すみれちゃんっ……ねえっ……答えてよッ!

 アタシ達は……なんでッ――――!」


「……………………」


 いつものエロ研究部文芸同好会の室内で、先日のように――いや、それ以上に切羽詰まった、ルナの本気の声色。


 その理由を、ルナが叫ぶ――!



「なんでアタシ達、夏休みが始まったばっかなのに――

 夏休みの宿題をしているのよおぉォ―――ッ!!」


「夏休みだからですよ?」


「いやだって、まだまだ始まったばっかだし、猶予ゆ~よメッチャあるじゃ~ん!?」


「早めに手を付け始めたほうが、楽だからですよ……?」



 すみれさんの御言葉、超がつくほど真っ当なんですよ……。


 が、往生際の悪さに定評のあるルナは、更に反論する。その間に手を動かせば宿題も進むと思うんだけどな、なんかな。


「でも、だって、夏休みが始まる前から、勉強会に期末テストにって、お勉強べんきょ~ばっかでっ……こんなんじゃ、こんなんじゃ……飽きられちゃうよ!?」


「誰に飽きられるんですか……というか宿題は飽きるとかでも無いんですよ」


「なら、ならせめて……ついにエロ研究部お待ちかね、保健体育のお勉強を――!」


「夏休みの宿題で保健体育は、ついぞ聞いたことないですねぇ……」


「わ゛ーーーーん!!」


 ちなみにルナが愚痴りつつ1進む間に、すみれは淡々と10進めている。


 更にちなみに、カヲリも実は最初からいたのだが。


「――――――――――――」


 机に突っ伏し、チーン、と音がしそうな沈黙っぷり。オイオイこのチーンはいやらしい意味じゃねーぞ、勘違いすんなよな♡


 それと花子は置いてきた。この宿題たたかいには付いてこれそうにない……(用事があるだけ)


 さて、宿題を進める手は止めぬすみれに、ルナが憔悴しつつ尋ねる。


「う、うう……話ながらも、ぜんぜんスピード落ちてぬえぇ……すみれちゃん、いつも夏休みの宿題とか、どれくらいで終わってんのぉ……?」


「ん~……? そうですねぇ、量と気分にもよりますが……早い時は、8月に入る前に終わってたこともありますねぇ~……」


「早ッ!? 早すぎっしょすみれちゃん、文学美少女すぎない!?」


「文学、関係あります……? でもまあ去年といい、高校入ってからは問題も難しいですから、もう少しくらいはかかりますよ……ちなみに、ルナさんは?」


「! フフッ……それは、もちろん――」


 問われ、ルナは堂々と、答えを返す――!


「基本、常にギリギリで――夏休み終わり二、三日前は徹夜がお決まりよ――!

 ちなみに去年はカヲリちゃんと、精魂せ~こん尽きるまで寝ずにヤッちゃいました♡

 オッ、今のエロ研究部っぽいじゃんネ★(宿題の話だぞ)」


「………………」


 胸を張って堂々と言うことではない、そんなルナに――すみれは顔を上げ、静かな口調で問う。


「………夏休み最終日とかに、宿題をやっていたんですか?」


「へ? あ、う、うん、そーだけど……す、すみれちゃん?」


「……そうですか。………………」


「え、何で立ち上がって、ゆっくりコッチに……ま、まさか……お怒り、お叱り、ご用心!? ヒィンッ……逆にテンション上がってきたんだけど!?(何でだよ)」


 本気か冗談か、おののくくルナに、近づいたすみれは右手を上げ――



「―――よしよし、エライですね♡」


「ぐわぁーっ……え? ぁ……あれ?」



 なぜか、ルナは頭を撫でられ――その理由を、すみれが微笑みながら呟く。


「勉強が苦手でも、最終日まで溜め込んじゃってても、ちゃんと宿題をやろうとするのは……エライです♪ 頑張ったんですねっ」


「え、そ、そりゃ、宿題だし、ちゃんとやんないと先生にも悪いしぃ……ふ、ふにゃふにゃ……ぉぅふ♡(年頃の乙女が出してイイ声じゃねーぞ)」


「うんうん、ルナさんのそういうところ、好きですよ♡ ……でも最終日に溜め込んじゃうと、辛いのも分かってますよね? だから早めに、手を付けちゃいましょう。私もそこそこ進みましたし、教えてあげますから、頑張りましょうね♡」


「もひゅんッ……は、はぁい、すみれせんせぇ……♡」


「先生じゃないですよ~♡」


 これぞすみれの、〝褒めて伸ばす〟戦法――直撃を喰らっているルナは、もうトロットロの恍惚こうこつフェイス♡だ。


 やはりメガネっ娘……メガネっ娘はエロ研究部文芸同好会にて最強――!


 さて、机に突っ伏してもはや生ける屍とかしていたカヲリが、小刻みに震えつつ挙手して言う。


「ち、ちなみにウチ去年……数学、間に合わなくて、途中くらいでシレッと提出しちゃったんだけども……や、優しく教えて――」


「なるほど、そうですか……ではそこは、厳しく鞭打っちゃいましょうか♡」


「ほぎゃーーーんっ!? すみれが、すみれがエロ研究部らしく責めてくるゥ!」


「文芸同好会ですよ~」


 何やら年頃の乙女にあるまじき悲鳴を連発するルナとカヲリに、すみれは優しく厳しく勉強を教えてあげるのだった――……



 ……………………。



 ちなみに、部屋の外側、扉の前には――顧問教師たるれいが立っており。


「………フッ、場合によっては私が、直接指導する必要があるかと思ったが……美嶋みしまのおかげで、その必要はないようだな。この竹刀を振るう必要もないのを、肩透かしと残念がるべきか、生徒の成長と喜ぶべきか……なんてな♪」


 透き通るような微笑を浮かべながら、黎が細く長い手で握っていた竹刀を、ゆっくり振りかぶり――



「フフッ、まあ軽~く素振りを――

 ――――――フンッッッ」



 黎が、軽~く素振り(本人談)で竹刀を振り抜くと――


ゴウッッッ!!〟


 とイカチィ音と共に突風が走り、廊下の窓と扉がガッタガタ揺れてんスよ。勘弁してくださいよ二十代前半乙女。


 この異音、どうやら室内のルナ達も驚いたようで。


『!? な、なんなの今の音と揺れ、地震かなんか!? いや部屋の中は揺れてないけど……!?』


『オイやべーぞ、部屋の外には出るなよ……何かとんでもねぇ気を感じっぞ……!』


『か、カヲリさんはそういうの感じれちゃうタイプの人なんですか? いやなんか説得力あるな……で、でも何だったんでしょうね……?』



「おーっといっけねっ★ 退散退散、スタコラサッサ~★」



 昭和感の迸る二十代前半の逃亡は、まあともかく、その、何というか。


 ……………………。


 ルナとカヲリは、命拾いしたな!!(ウン!)

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