第9話 お嬢様キャラのことゾル〇ィック家って言うな

 その日の放課後、エロ研究部文芸同好会全員フルメンバーはいつもの部屋ではなく、屋外へと繰り出していた。


 それは何となしに、ルナが次のようなことを述べたためである。


『そいえば花子ハナコちゃんの家ってどんなん? 学園でも有名ユーメーなお嬢様だし、やっぱすっごい豪邸ゴーテーだったりするの?』


『ハナコじゃねーっつのですの。まあでも、気になるんなら来ます? 歓迎して差し上げましてよ!』


『イクイク~! あっ今の言い方、我ながらエロ研ぽい~♡』


 つーわけで(いきなり砕けた感じになるじゃん……)今、花子に先導されて、少し後ろをルナ・カヲリ・すみれが付いていっている。


 家の場所は学園からそう遠くないらしく、歩きながら花子が口にしたのは。


「あ、そろそろ入りますわよ」


「おお~! さてさて花子ハナコちゃんは、どんな、ん………えっ」


 瞬間、ルナを始めとし、カヲリも絶句していた。


 丁寧に舗装された道の、横脇にあったのは――ところどころが錆び付いた、プレハブ小屋。天井も二階分以上の高さはありそうで巨大だが、どう見ても豪邸には見えず、むしろ〝廃墟〟とでも言ったほうがくる。


 そんな古びたプレハブ小屋を見て、ルナとカヲリが青ざめながら対話する。


「ちょ、ウソ、こんな……まさか花子ハナコちゃん、アタシ達が思ってたよーなお嬢様とかじゃなく……こ、これが真実ホント? ……いや考えてみれば、良くアル話じゃないっ……たとえば誰か親族が事業に失敗して、多大な借金が残り……けれど家名かめ~を貶めないために、必死でお嬢様を演じて過ごす、とか……ドラマとか少女漫画とかレディコミとかで!」


「や、ヤベーよ、考えてもみろ……ウチらそんな花子ハナコに、部室に設置するテレビもらったり……冷蔵庫とかだって花子がくれたやつだぞ!? ウチらのために、金のない花子は無理して……その費用を稼ぐために、うら若いその肢体ボディをオトコ共にさらして、っていう……」


「ウグッ! ……や、やだ、ダメ……そ、そんなの罪悪感で耐えらんない……あ、アタシら花子ハナコちゃんのために、一体ナニしてあげられるって――」


「――いやアナタ方、なんか勘違いしてませんこと? そんでデケーですわね声が、筒抜けなんですわ全部」


 先導していた花子が軽く振り返り、歩みは止めないまま言う。


「これ、ただの物置ですわよ。うちのお父様が趣味のもの色々と集めてんですの。わたくしはあんまり詳しくないですケド……なんかアニメとか漫画のグッズ? とか、特に置き場所に困るサイズのもあって……すごいたくさん置いてますのよ」


「「………………」」


 花子の明かした真実ホントに――ルナとカヲリも安心したのか、ワッ、と盛り上がって花子に駆け寄る。


「も~も~も~~~~~っ!! 言ってよそんなん心配したじゃーんっ!? アタシら色々と想像して軽く吐きそになってっかんねーっ!?」


「いやまあこんなデケー小屋を丸々物置にって、それはそれでスゲーけども! 焦るっつの! 入るとか何とか言うからよー!」


「か、勝手に間違えたのソチラでしょー!? 入りますわよってのは、うちの敷地内にって意味ですわよ! もー、勘違いしないでくださいまし!」


(花子さんの家……有名な財閥で何かあったらニュースになるでしょうし、私は何となく分かってましたが、指摘する暇も無かったなぁ……)


 一人、完全に落ち着き払っているすみれはともかく、花子が今度こそと指さす。


「あ、アレですわよ、アレ。うちの正門ですの」


「おっ、今度こそか~♪ さてさて、一体どんな………………はっ?」


 ルナが、再び絶句してしまう、それは――それは。


 それは門というには、あまりにも大きすぎた――大きく、分厚く、いかにも重そうで、そして見上げて上端が見えないほどに高かった。


 なんかもう門というより、ウォール花子ハナコかな? と言いたくなるを前に、ルナが思わず叫んだ言葉は。


「たっ……試しの門じゃねーかですのよこんなん!?」


「なんですの急にエセお嬢様ぶって……そんでようわからんこと言われましたけれど、普通の門ですわよ別に」


「こんな普通あるかあっ! ていうか、えっ……コレまさか開くの!? こんなん開くたびに地鳴りとかしそーなんですけど……いや、まさか……素手で押して!?」


「できるわけないですわよ。コレ片方2トンあるんですわよ、素手とか無茶言うなですの」


「ま、ますます試しの門じゃねーか! ええいカヲリちゃんの口調が移っちゃうほどの衝撃インパクツ! てか、じゃー普段どーやって家に入ってんの!?」


「ああ、それは……」


 花子が巨大な門の横脇を指さすと――そこには一般サイズの出入り口が。


「いちいちこんなデッカイ門とか開けてられませんし、特別な時でもない限り、いつもあそこから入ってますの」


「も、もういよいよゾル〇ィック家じゃん! 大丈夫!? あそこから入った客人は飼ってる魔獣に食われちゃうとかナイ!?」


「魔獣とか現実にいませんわよ、もう……まあ確かに、両親が勢いで作っちゃって後悔したらしい正門ですけれど……我が親ながら、ヤンチャが過ぎますわよねぇ」


「ヤンチャで作ってイイの、こんなん……ま、まあとにかく、あそこから入るのね……なんかもう既に、オナカイッパイ気味なんだケド……」


 珍しく……いや黎先生の時なども結構ツッコミに回ることのあるルナだが、既に息切れしつつ、花子に促されて一般サイズの出入り口をくぐる。


 けれど、そこで――そこでルナ達を、出迎えたのは――!!


「―――にゃ~ん♡」


「ね、猫ちゃんだァーーーっ! いや魔獣じゃなかったけど……そんで広いね庭が! おうちが遠い! 猫ちゃん安心して放し飼いできる庭って、どんだけ!? ……はっ。こ、この猫ちゃん三毛猫……ってコトは……な、名前は……!?」


「ああ、ポチコですの」


「ネーミングセンスが逆にゾル〇ィック感ある――!? いや若干チェン〇ーマン混ざってる気もするけど……!」


「またようわからんこと仰って……普通ですわよ、普通」


 完全に逸脱した花子なりの普通に困惑するルナだが、猫ちゃんを見たすみれは。


「あ……ねこ~♡」


「ふあっ……す、すみれちゃんカワイイ……猫好きなのめっちゃ似合うぅ♡」


「ね、猫好きが似合うってあります? ……って、すごい人懐っこい子ですねぇ……首のまわりがフカフカで……触り心地が幸せです……♡」


 しっかりとした体格の――ノルウェージャンフォレストキャットだろうか。

 淡い三毛キャリコの毛並みはふわふわと柔らかく、埋もれるほどに触れれば、すみれの小さな手はすっぽりと収まってしまうほどのボリューム感だ。


 しかし――そんな御猫様ポチコの登場に、普段から粗暴で、言動もぶっきらぼうなカヲリが、一体どんな反応を示したかといえば――!


「……にゃ、にゃんこぉ~……♡」


「「………………」」


 とろっとろの蕩け顔で可愛さの権化にゃんこ様を見つめるカヲリに、ルナとすみれが思わずツッコむ言葉は。


「カヲリちゃんは、逆にその……三国一さんごくいち、猫好きが似合う女よねぇ……ギャップも相まって、でぇベテランって称えたくなるわ……」


「私が言うのも、本当に何なんですが……思わず〝おまえがNo.1ナンバーワンだ……〟とか言いたくなっちゃいますねぇ……」


「…………ハッ!? い、いやちがくて! つ、つーか……ウチだぜ!? セイコージョ爆発女ボンバーイエーイと呼ばれてるかもしんねーウチが、ンなあめ~ツラするワケが――!」


「んニャ……ナァ~ォ♡」


「はぁ~いニャンニャ~ン♡ ……ハッ!? い、いや違くて――!」


 挽回不可能です。


 さて、もう完全に概念・猫にゃんにゃん♡に夢中な面々の耳に――不意に、上品な声が割り込んできた。


「あら……うちのポチコと遊んでくださっているの?」


「「「―――――ッ!?」」」


 気配が、なかった――いやまあ普通の女子高生達だし、別に普段から気配とか気にしていないから当然だが、言ってみたかったんですスイマセン。


 さて、突如として現れた人物……当然、花子の家族か関係者だろうが、果たしてその出で立ちを目の当たりにしたルナ達は、幾度目かの驚愕に囚われることとなる。


 その姿は、一言で表せば〝貴婦人〟――家の敷地内だろうに豪奢なドレスを纏い、多数の花の装飾が付属した帽子をかぶり、日傘を差している。


 そんでね(急に気安いじゃん……♡)、両目をすっぽり隠せるくらいの、サングラス型ゴーグルつけてんの。


 そんな異形の貴婦人を見て――ルナが思わず叫んだのは。


「――もう完全にゾル〇ィックの母じゃん! キ〇ョウさんじゃんー!?」


「あらあら? 何だかお元気ね……花子フローラの御学友さんかしら? いつも娘がお世話になっております、オホホホ……」


「んもー、お母様ったら、またガッツリ日焼け対策してますわね~」


 それがお金持ち流の日焼け対策なのだろうか、あんな異様な正門を作る人々の感覚は、ちょっと分かりかねますねホント。


 ただ、ルナは次々と襲い来るお嬢様キャラの衝撃ハナコ家・インパクトに、わなわなと震え。


「っ……こんなん……こんなんっ……!」


 くわっ、と目を見開きながら、大いに叫ぶ――!


「次は何が来るかっ……いっそ楽しみで仕方ないんですケド~~~!?」


 何やかんやずっと楽しんでいるし、この後も存分に堪能してから帰った。




 ―――――そしてルナ達が帰った後の夜、花子は豪邸の応接間で。


「……ふう、やれやれ……悔いが、残りますわね……」


 何やら思いつめた表情で、深刻そうに呟く内容は……。


「―――妹とか、いえ何なら弟でもいれば、和風の着物でも着せてお母様と登場させられましたのにっ……一人っ子なのが悔やまれますわっ……! まあでもコイントスが趣味な執事には、またツッコまれてましたわねっ……うふふ」


「――フーちゃん娘の愛称、フーちゃん♪ 次はエン〇ェル伝説っぽい感じとかどうかしら♪ 思い切るならアダム〇ファミリーぽいのも良さそうね~♪」


「いいですわねお母様! ホラーっぽい演出も楽しそうですわっ……ああでもホー〇アローンも捨てがたいですわね~!」


「にゃ~ん?」


※花子ちゃんの御宅オタクのホーエンハイム家の皆さんは、生粋のオタクのようです。


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