第59話 結末、そして世直し旅 ①

【十兵衛side】


「舟倉だ、船を沈めよ ! 」

 忍者の頭らしき者が命令すると、


 小さな樽を抱えた忍者たちが一斉に此方の船に乗り込んで来た。


 コイツら死ぬ気か !

 樽に導火線が付いていて、すでに導火線には火が付いている。

 あの樽が爆薬だとすると、1つでも爆発したら一溜りも無いだろう。


「なんとしても食い止めるぞ、正成 !」


「おおっ ! 」


 忍者たちの足を止める為に小刀を足に投げ動きを鈍らせて斬り捨てていく。

 樽ごと出来るだけ海に落ちていくように斬ってはいるが……


 樽の一つが海に落ちずに甲板を転がり始めた。

 しかし、転がる樽に飛び込んで抑えた新兵衛が素手で導火線に手を宛てて火を消した。


「銚子様…… 」


 鬼気迫る表情の新兵衛に水夫たちが茫然自失に立ち尽くしていた。


「残りは……何処だ !? 」

 正成が言ったのに反応するように樽を二つも抱えた忍者が、


「我等の勝ちだ、十兵衛 ! 」


 そのまま、舟倉に飛び込んだ忍者……

 もう、駄目だ…………と思った瞬間に舟倉から弾き飛ばされた忍者と爆薬が入っていた樽は忍者の頭が居る船に落ちて行った。


 どさっ !

「がはぁ ! 」


 ゴッ ! 樽は忍者の頭の所まで転がり……


 ドッゴォォォォォォォーーーーン !


 爆発、忍者が居た黒い船は、真っ二つに成り沈んでいった。

 爆発の影響で大きくれる船に捕まりながら、舟倉に続く入口を見ていると、御坊宝蔵院胤舜が出てきた。


「やっと船酔いが治まったかと思ったら何の騒ぎだ、十兵衛。

 おちおち寝ておれんぞ ! 」


「胤舜殿……」


 やれやれ、最後に御坊宝蔵院胤舜に持っていかれたな。


「おっ……おい見ろ、夜明けだ ! 」

「おおー、朝だぁ ! 」


 長かった夜が明けて、ようやく人心地つけるかとホッとしているところへ



「ま~だ、目的地に着かないのかよぉ~。

 もう、吐くモノが無いのに、いまだに気持ち悪いんだよぉ~ 」


 主水は変わらずに船酔いをしていた……




 ◇◆◇◆◇◆


柳生但馬守宗矩やぎゅうたじまのかみ むねのりside】



 何故、儂が……

 十兵衛に海路での護衛を命じた後、上様綱吉に命じられ、旅芸人?の姿に変装させられ旅をしている。

 左近曰く、ちりめん問屋のご隠居の役を儂が演じるらしい。

 そして、左近は女装して儂の孫娘の役だという。

 左近付きの忍者たちも役割があるらしく、光矢忍者の才蔵、総司、竜魔、霧風は、助三郎、角之進、八兵衛、弥七と名乗らされていた。

 気のせいでは無いだろう、四人の精鋭の忍者がウンザリした表情をしているのは。


「左近の奴、妙に女人の姿が板についているな。

 奴にこんな趣味が有ったとは知らなかったぞ !」


 上様……徳松様が呆れたような顔をしているが、大概だろうに。

 左近……サヨ 偽名として一緒に旅をしている時点で同罪だ。


「お爺様、早く早く~ 来ないと置いてっちゃうぞ ♪」


「おっ ……だと」

「とっ…… 」


 上様綱吉と思わず顔を見合せてしまう。

 アヤツ左近、今回の旅の重要性が判っておるのか ?


 赤穂藩で良からぬ噂の真相をこの目で確かめる旅だと云うのに緊張感が無いではないか。

 さらに頭の痛いことに……


「チヨちゃん、行こう ♪ 」

「うん、左……サヨちゃん ♪」


 上様の異母姉の千代姫まで合流してしまった。

 どうやら、城下町での上様や左近の行状を聞きつけ羨ましく思っていたらしく、先代の将軍 義光(家光)様から厳重に警護することもお願いされてしまった。

 遠巻きに伊賀忍者や光矢忍者が警護しているとは云え頭の痛い話しである。

 どうやら、義光様は左近を身内に取り入れる為に千代姫との婚姻を考えているようだ。


 本来なら、吉良家の跡取りとして上杉から妻を迎えるはずだった左近。

 幕府の(見習い)大目付に成る為に家督を弟の義叔よしすえが継ぐことに内定している。

 本来なら義叔は分家をおこす予定だったのだ。

 しかし、左近が上様の義兄弟に成ることで、孤高に成り勝ちな将軍職である上様綱吉を支えてくれるだろう。


「あ~、お茶屋さんがあるぅー !

 チヨちゃん、徳ちゃん、行こう !」


 左近が上様と千代姫を連れ出し駆けていく。

 その後をあわてて追う助三郎、角之進、八兵衛、弥七才蔵、総司、竜魔、霧風


 儂は笑いながら演技で笑いながら歩いていくちりめん問屋のご隠居を演じていた。


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