第54話 勅使饗応役 ①


 赤穂藩は、かねてから名誉である勅使ちょくし饗応役の大役を幕府に願い続けていたが、



「ええーっい、またしても幕府からは饗応役を任せてもらえなかったというのか ! 」


 浅野内匠頭は憤慨ふんがいしていたが、城代家老の大石内蔵助は、内心 ホッとしていた。


 京からの勅使天皇の使者を接待するには、莫大な銭がかかるのだ。


 赤穂の塩による収益は大きいが、藩内の整備にも銭がかかるので、実際には藩の経済はカツカツだったのである。


 そして、饗応役の指南役である高家肝煎の吉良家におくる高価な進物を贈るにも銭が、かかると云うのに……


「吉良に高価な進物を贈るだと !

 ワシに恥をかかせた吉良などの世話になど、ならんわ !

 誰か、他の高家の者に教われば良いのだ。

 それに、饗応役を任せてもらえないのも、吉良が邪魔しているに決まっているわ !

 おのれ、吉良め ! 足利の血を引くからとおごりおって ! 」


 完全に八つ当たりであるが、賢い内蔵助は黙っていた。

 内匠頭は、幕府からの警告もあり藩内での女人狩りを厳しく禁止されている。


 女好きな内匠頭に取っては許容出来なかったが、こんなことで幕府に睨まれて藩を取り潰しをされたのでは、先代を含めた御先祖様に申し訳が立たないだろう。


「それよりも、新しい女は手に入らぬのか !?

 村里や城下町が目立つなら他藩の街道筋で女を調達すればよかろうが !」


 あまりにも頭の悪いことを言う浅野内匠頭に大石内蔵助は、更に頭を悩ませることになる。


「殿。 いっそのこと、南蛮から女を買えばよろしいかと」


 最近、殿にすり寄ってきた成り上がり者である意地川塁衛門いじがわ るいえもんがとんでもないことを吹き込んだ。


 いったい、何処にそんな銭があるんだと、大石内蔵助は思うが、下手に指摘すると浅野内匠頭が癇癪かんしゃくを起こすので黙っていた。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 👼教えて、ユリリン女神さま !(会話劇です)


 左近「ねえ ねえ、ユリリン。 饗応役きょうおうやくって、何かしら ?」


 徳松「左近……仮にも高家旗本だろう、吉良家は 」


 左近「知らないものは知らないんだから仕方ないじゃない !

『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』

 と言うでしょ !」


 ユリリン「まあ まあ、左近ちゃんもいきなり異世界転生したから仕方ないのじゃ !

 饗応役とは、江戸時代に天皇・上皇・女院より派遣されて江戸に下向してきた使者(それぞれ勅使・院使・女院使)を接待するために江戸幕府が設けた役職なのじゃ。主に外様大名が任命されたとしているのじゃ 」


 左近「ふ~ん、いつ頃行われた行事なのかしら ?」


 ユリリン「毎年正月には幕府の将軍は、高家という旗本たちを派遣して京都の天皇と上皇に対して年賀を奏上するのじゃ。

 これに対して天皇と上皇は、答礼として2月下旬から3月半ばにかけて勅使と院使を江戸へ派遣するのじゃ。

 これが江戸時代の毎年の恒例行事であったのじゃ」


 徳松「 スマナイ、女神さま。 実は私もどんな行事か、詳しくは知らないので教えて欲しい 」


 ユリリン「江戸へ下向した勅使と院使は江戸にいる間は幕府の伝奏屋敷に滞在するのじゃが、ここで御馳走をふるまったり、高価な進物を献上したり、勅使院使の行く先の内装を良くしたり、お話し相手になったりなどの諸々の応待をするのが饗応役なのじゃ。


 勅使と院使の饗応には莫大な予算がかかることから、幕府は余計な蓄財をさせない意味で外様大名ばかりを任命したのじゃ。

 武骨な大名が一人で務めて天皇や上皇の使者に対して無礼があったりしてもいけないので、饗応役の大名には朝廷への礼儀作法に通じた高家肝煎指南役口添え役につくのが決まりであったのじゃ。


 ちなみに、饗応役の大名はこの高家に対しても指南料として高価な進物を贈らねばならなかったのじゃ」


 左近「待って ! では、わたしが賄賂わいろを貰っていた説は……」


 ユリリン「赤穂浪士を正義に見立てる為のでっち上げなのじゃ !」


 左近・徳松「「…………………………」」


 ユリリン「歴史書に残されているモノなんて、そんなモノなのじゃ !

 なにしろ、勝者の都合の良いように改ざんされるのじゃからな 」

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