第53話 左近の おもりは大変なんだよ!


 ──とある街道にある関所 ──



 ここでは、武器や人の出入りの他に米や特産物が、他の藩に流出することを厳しく監視される場所のはずだったのだが……


「お役人様。 通行料が高過ぎて、これじゃ やってけねえでがす 」


「んだ んだ。わしらはみんな竹藤屋から借金があるだで利息を払ったら銭が残らねえだ!」


 この二人。 生活が苦しい農民が闇商いをしていたのだが、見逃してもらう代わりに割り増しの通行料を払っていたのだ。


「それは、こちらの知ったことではないわ。

 本来なら越境しての他藩での商いは厳しく禁じられておる。

 それを、お目こぼしして、くださっているのは 横目付よこめつけ 殿津でんつ様のお優しさ。

 それを思えば、今の通行料でも充分安かろう 」


 冷たく言い放つ関所の小役人に文句を言っても埒があかないとあきらめた二人は、すごすごと関所を後にした。



 ── 殿津屋敷 ──


「まったく、濡れ手であわとは まさにこのこと。

 上手いこと考えたものよの、竹藤屋 !?」


「いえいえ。 それもこれも殿津様のご尽力あったればこそ !

 わたくしの働きなど微々たるものでございます 」


「そう謙遜するな

 その方の知恵があったればこそじゃ。

 ここらの民は皆、いつも困窮こんきゅうしておる。

 そこへ、竹藤屋のお前が親切なフリをして金を貸し、その返済で困った者に越境させて闇商いを強要する……

 儂は闇商いを見逃す代わりに通行料を取る 。

 …………竹藤屋、お主も悪よのぉ▪▪▪ ▪▪▪▪▪▪


「いえいえ、殿津様こそ…………」


「グワッハッ ハッ ハッ ハッ !」

「ホッ ホッ ホッ ホッ ホッ ! 」


 何処かの時代劇のような光景が有ったのであるが……


 ♬♫♪♩♬♫♪♩♬♫♪♩


 どこからか笛の音が聞こえてきた。



「地上に悪が満つるとき、 愛する心あらば熱き魂悪を断つわ。 人は、それを『真実』というのよ !」


「 くせ者め、何処にいる ! 」


 殿津も竹藤屋も周りを探すが誰も居ない。



「闇ある所、光あり………悪ある所、正義あり

 偉大なる今川幕府からの使者 」


 天井裏から人影が降りてきた。


「今川幕府 大目付 見習い 吉良きら上野介こうずのすけ義央よしひさよ !」


「今川幕府 第五代将軍 今川綱吉である ! 」


 天井裏に残った弥太郎柳沢吉保は涙目だった。


 徳松は上着を脱いで、下に着ていた着物の家紋を見せる為に後ろを向いた。


 バーーン(効果音 ?)


「なっ ! あっ あの家紋は『丸の内に二つ引両』

 今川将軍家の家紋だ !

 竹藤屋 ! 上様の御前である、控えおろう ! 」


 ゾクッゾクッ と得もしれぬ快感を感じていた徳松。

 それに感づかないで、ヒーローゴッコに酔いしれる左近。



 そして、それに付き合わされている、光矢忍者たちは疲れきっていた。

 殿津屋敷にいた護衛の者たちを戦闘不能にする為に霞扇かすみおうぎの術 (扇子の中に粉末の薬を仕込み、扇子を使って風を送り敵に薬を吸わせる)を使い睡眠薬で眠らせたのだ。


 そのお陰で殿津が呼んでも役人たちは夢の世界の住民に成っていたので、あえなく殿津と竹藤屋は御用と成った。


 主役?の二人の活躍の裏には、影と成る黒子役の光矢衆の苦労があったのである。

 それを知らない駿河の民たちは、徳松と左近を絶賛していた。


 ── 世の中は理不尽だらけなのだと云う見本だったのである ──


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