第24話 処刑人 ②

【左近side】


「下手に『処刑人』を探すより高利貸しをしている大店を見張っていた方が効率が良いのよ 」


 弥太郎さんは感心したように聞いているけど、半兵衛さんの受け売りなのよね。 わざわざ言わなくても良いわね。


「それで、次に狙われているのは……」


利簿払衣屋りぼはらいや露音屋ろおんやを半兵衛さんに見張ってもらっているわ 」


 ゴクリと息をのむ弥太郎さん。


「それよりも、松平伊豆守信綱まつだいら いずのかみ のぶつなさま にお願いした件は、どうなったのかしら ? 」


 弥太郎さんに頼んで、伊豆守さまに提案書を出したのよね。


「『法定金利』と云うヤツですね。

 今は高利貸しが勝手に付けている金利を幕府で決めると云うことで、反発など起きないでしょうか ? 」


 弥太郎さんも心配性ね。


「大丈夫でしょう。 高利貸しも幕府の許可制にしてもらうから、幕府に従わないならとして法に拠って処罰されるだけだから 」


 江戸っ子と違って駿河っ子は、穏やかな性格をしているし、おっとりしていて、協調性もしっかりしている人が多くいるらしいわ。

 江戸っ子は『宵越しの金は持たない』なんて云うおおざっぱな性格だけど、駿河っ子は大丈夫よね。



 ◇◇◇◇◇


 ──露音屋 ──


 夜も深けてきた頃、店の外から ドンドンと戸を叩く音に気がついた番頭の幾造いくぞうは恐る恐る聞いてみた。


「どちら様でしょうか ? 」


「かかる夜分に恐れいるが、当家にて食客(用心棒)


 をつのっていると聞き、参ったしだいでござる !」


《来るのが遅いんだよ ! 旦那さまが亡くなり、今は息子の喜助きすけさんが継いでいると云うのに……

 まあ、喜助さん……若旦那の用心棒には丁度良いのかも知れないから、会うだけ会ってみるか。》そう思いながらも顔に出さないようにしているのは番頭を勤めるだけはあるのだろう。


「少々お待ちを ……」


 ガタガタと使用人用の出入り口を開けると……


 ドスッ !


 当て身をくらい気絶する番頭。

 外から中に入った男は覆面をしていた。

 頭と口元を長い布で隠し、顔で見えるのは目元だけだ。


 物音を聞き付けた二人の用心棒が駆けつけた。


「あっ !」「おっ !」


「来おったぞ !」「ヘッ、命知らずめ !」


 しかしぞくに驚いた様子は見受けられない。


「貴様らに用は無い、退けば命は取らぬ ! 」


 賊の言葉に、頭に血を昇らせた二人の用心棒は、一斉に襲いかかるも……刃を交えることなく斬り伏されてしまう。


 あらかじめ、手引きした使用人が居るのか、賊は一直線に喜助が寝ている部屋に向かった。


 ガラッ !


「処刑人推参 ! 露音屋、覚悟しろ ! 」


「フッフッフ……。 覚悟するのは、そっちだよ !」


 喜助はふところから幕府ご禁制の拳銃を取り出し、


「バカなヤツめ。 きじも鳴かずば撃たれまいに」


 処刑人が素早く横に移動するも……


 ドキューン !


 練習していたのか、喜助の撃った弾は処刑人に命中した。


「グワッ、ウグッ グッ グッ ……」


「そろそろ止めをさしてやろう。

 勝った者が正義なんだよ !」


 ガラッ !

 別のふすまが開いた。


「やめろ ! 」


 飛び込んで来たのは、柳生十兵衛三厳。

 十兵衛は、すかさず拳銃を持っている喜助の手首を刀のみねで叩き折った。


 ガラン !


 落ちた拳銃を長谷川正成が回収した。

 処刑人の頭巾を取り、ホッとする正成。

 どうやら、火盗改方同心の北大路主水きたおうじ もんどを疑っていたようだ。


 処刑人は、重傷ではあるものの命には別状は無いようだ。

 一方、露音屋喜助は青い顔をしながら、


「このことは、奉行所に言ってやるからな !

 奉行所のお役人さまとは入魂の間柄だから、ただでは済むと思うなよ ! 」


 騒ぎを聞き付けた近所の住民が奉行所に連絡したのか、駆けつけてきた東町奉行所の役人に事情を離す正成に不思議そうな顔をする喜助。


「残念だったな。 俺たちは吉良家の者だ。

 だから、おまえさんの知り合いは手も足も出せないだろうよ 」


 やがて、露音屋喜助も捕縛されて連れていかれた。

 ご禁制の拳銃の入手経路を知る為には拷問が待っているだろう。

 一方、処刑人にも拷問が待っている。

 単独犯なのか、仲間が居るのか、吐かせられる。



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