異世界忠臣蔵 ~赤穂浪士の吉良さんに転生した件、討ち入りされて殺されたく無いので全力で回避します ~

るしあん @猫部

第1話 夢か現《うつつ》か幻か ①




 ハァ ハァ 今、わたしは必死に隠れる場所を探している。


 時は、元禄げんろく十五年(一七〇二年)十二月十四日。町には昨日、降り積もった雪が残っていた。


 確か、昨日の夜は趣味のWeb小説を読んでダラダラ過ごした後に『赤穂浪士』を見ていたら、そのまま寝落ちしてしまい気がついたら老人の姿の自分に気がついた。


 それと同時に、老人の記憶が頭にダウンロードされたように流れてきたんだ。


 吉良きら上野介こうずのすけ義央よしひさ


 言わずと知れた『赤穂浪士』の悪役である。


 夢だと思いほおつねると痛かった !


 夢じゃ無い、現実だ !


 よりにもよって、悪役の吉良なの !

 現実のわたし、死んじゃったの?


 それよりも今は逃げなくては、赤穂浪士に殺されてしまう。

 赤穂浪士の知識は、ほとんど無いわたしでも、討ち入りの日付けだけは覚えていた。


 クソゥ、どうせなら討ち入り当日では無く、もっと前に転生させなさいよね !


 その時、何処からか声が聞こえてきた。


 ── その願い、叶えてやるのじゃ !

 ただ、今からだと間に合わぬので、とりあえずは生き延びるように頑張るのじゃな !

 なぁ~に、一回死ぬのも二回死ぬのも同じじゃから大丈夫じゃろう。

 二回目の転生は、もう少しだけ改善するから頑張って ! ──


 えっ、貴女は誰 ? もしかしてなの?


 ── 妾は、。 とある底辺作者が創作した、なのじゃ !

 妾が主人公の予定だった物語なのに、お兄ちゃん軍神アレスを主人公にされてイライラしていたので悪戯いたずらしたら、やり過ぎちゃった、テヘッ ──



 ……底辺作者が創作したヒロインなの!

 それが本当なら、どうして本当に神様に成っているのよ !


 ドーン !


 いかん、大づちで門を打ち破った音だわ !

 台所の炭部屋が目に入り隠れてしまった、そう隠れてしまったんだ。


 バタン !


 戸を破られた。

 家来の武士が守ろうとしているが、多勢に無勢だ。


「殿を絶対に御守りするのだ !」


「「 おう ! 」」


 もう、こんな良い部下を犠牲にしても助からないのなら、わたしは脇差わきざしを乗り込んできた赤穂浪士に差し出し、


「わたしが、吉良きら上野介こうずのすけ義央よしひさよ !

 お前たちの敵はわたしなんだから、部下さんには手を出さないでよね ! 」


「殿、成りませぬ ! 殿の命は我らより重いのですぞ !」


 部下が涙を流しながら俺を守ろうとしてくれる。

 吉良きら上野介こうずのすけ義央よしひさ名君めいくん仁君じんくんだと云うのは本当だったんだわ。


 しかし……


 グサッ !


 わたしの身体に槍が刺さり、あまりの痛みに倒れてしまう。

 次々と刺さる槍、やがて刀を抜きクビを落としに来た武士の姿が目に映った。


 グサッ、ドサリ……ゴロゴロ と転がるわたしの頭。

 クビが落とされたのに、まだ意識があるだと……


「竹林唯七ただしち、憎き敵、 吉良きら上野介こうずのすけ義央よしひさを正々堂々と打ち取ったりぃー!」


 正々堂々 ? 卑怯者のクセに何が正々堂々よ !


「おい、口封じの為に吉良の家来も皆殺しにするぞ !

 吉良は、見苦しく逃げ回り命乞いをした、武士の風上にも置けない悪党だったことにするからな ! 」


 そういい放ち、わたしの部下さんたちを多数で斬りつける赤穂浪士たち。


 ごめんなさい、部下さん達。 わたしが不甲斐ないばかりに……

 意識が遠退いていく……


 なるほど、歴史は勝者が都合の良いように残していくと云うのは本当だったんのね。


 この後、卑怯者の赤穂浪士が武士の鏡とたたえられて、わたし こと 吉良が悪役に成るワケ !


 世の中は、な……んと……理不尽……な…の…………よ



 わたしの一回目の転生は、こうして幕を閉じた。

 そして、二回目の転生が始まる……

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