どんな豪運だよ

「「ただいま〜」」

 

 ラーメンを食べ終えて、紫永と一緒に家に帰ってきた俺達は、誰もいない家に向かってそう言った。


「美味しかったね、お兄ちゃん」

「あぁ、そうだな。また食べに行こうな」

「うんっ」


 そして、そんなやり取りをしながら、俺たちはリビングに入った。


「お兄ちゃん、私はお風呂に入ってくるけど、寝ちゃダメだよ?」

「……なんで?」


 正直、行く前は帰ってきてからもう1回風呂に入ろうと思ってたんだが、いざ帰ってきてみるとお腹もいっぱいになって、眠たいんだよ。

 どうせ俺は紫永と違って学校とかないし、予定も無いから、明日起きた時に風呂に入ろうと思って、今日はもう寝ようと思ってたんだけど。


「なんでって、出かける前に行ったでしょ! 甘味さんから返事が来てないか確認するって」

「あー、そういえば、そんなことも言ってたな。まぁ、どうせまだ返事なんて来てないんだし、今日はもう寝るよ」


 紫永にそう言って、俺はその場に布団を敷き始めた。

 

「ち、ちょっと待ってよ、お兄ちゃん。だったら今から確認するから、ちょっと待って」


 すると、紫永は慌てながらそう言って、スマホを弄りだした。

 絶対来てないと思うし、大丈夫だと思うんだけどな。……全く、紫永は大袈裟なんだから。


 そう思いながら、俺は着替える服を準備した。このまま寝るのは普通に汚いと思うしな。……そう思うのならもう1回くらい風呂に入れよって話なのかもしれないが。


 よし、紫永が風呂に行ったら、これに着替えよう。

 そして、着替えの服を用意した俺はそう思いながら、心配性な紫永を待つ為に椅子に座った。


「あっ! ほら、お兄ちゃん、甘味さんから返信来てたよ!」


 すると、紫永は突然そんな冗談を言い始めた。

 いくら俺でも、そんなバレバレの嘘に騙されるわけないだろう。


「はいはい、来てなかったんだろ? だったら、紫永は早く風呂に入ってこいよ」

「あっ! また嘘だと思ってるでしょ! この前も言ったでしょ、私はお兄ちゃんに対して嘘なんてつかないって!」


 ……確かに。……いや、でも、そうだとしたらマジで返信が来てるってことになるぞ!? う、嘘だろ……どんな豪運なんだよ、俺。……たまたま俺のメッセージが目に留まったってこと、だもんな。

 やばい、一気に目が覚めてきたな。


「な、なんて書いてある?」

「……お兄ちゃんは私の言うことなんて信じないんじゃなかったの?」


 俺がそう聞くと、紫永はこの前同様拗ねたような演技をして、そう言ってきた。


「そ、そんな訳ないだろ。俺は常に紫永を信じてるさ」

「……ふーん。まぁ、いいけど。……はい、私のスマホ貸してあげるから、お風呂のお湯を温めてからじっくり見て返信を考えなよ」

「はい。本当にありがとうございます」


 スマホを渡してくれた紫永に深々と頭を下げながら、俺は風呂場に向かって『焔』でお風呂の水を温めた。

 そして、紫永に改めて礼を言ってから、俺はリビングに戻って、まだ寝ない……甘味ちゃんに返信をするまで寝れなくなったから、服を着替えて椅子に座った。

 

【コメントを見てなかったのは配信を見ていて分かりましたし、全然大丈夫ですよ。それと、サインももちろん大丈夫です。ただ、それ以外にもお礼はしたいので、一度会って話しませんか? コラボとかもしたいです。……弱い私とコラボなんてしてもなんの意味も無いかもしれませんが】


 そして、甘味ちゃんからの返信を見ると、そんな感じのメッセージが書いてあった。

 正直に言おう。サインを貰えるのは嬉しいが、今、俺の中で二つの感情が戦っている。

 甘味ちゃんに会って色々話してみたいという気持ちと、会ったところで緊張してどうせ何も話せないんだから、絶対に会わない方がいいという気持ちだ。

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