紫永にお小遣いをあげる日が迫ってきてる!
あの動画……俺の黒歴史が増えて、紫永が買ってきてくれたプリンを食べた日から二日が経った。
俺は怖くてネットなんか全く見てないし、紫永も何も言ってこないことから、多分、笑いものどころか話題にすらなってないんだと思う。
……まぁ、紫永に色々準備をしてもらって悪いとは思うけど、俺としては安心かな。……あの時はネット上のおもちゃになる覚悟をしたけど、やっぱり嫌だし。
ネット上には毎日数え切れないほどの投稿がされてるんだ。俺みたいな一般人の動画が埋もれるのも仕方ない。紫永にはそう言って謝ろうか。……俺が悪いのかは微妙だけど、機材とかにお金を使わせてるんだし、謝った方がいいだろ。
「紫永、いつ帰ってくるんだっけ」
今日紫永は学校で家にいない。
だから、俺は考えるようにして、そう呟いた。
……あの家出をした日から、独り言が増えたな。……別に誰かに迷惑をかけてる訳じゃないし、特に意識して直す気はないけど。
「んー、暇だしダンジョンでも行こっかな」
この前、家出をした時、俺は何も持たずに家を飛び出したから魔物の素材とか何にも持ち帰れてないんだよな。
つまり何が言いたいのかというと、金がない。
正確には俺と紫永の生活分の金はあるけど、自由に使える金が無いんだよ。
俺は物欲とかあんまりない方だし、最悪生活さえ出来れば全然それでもいいんだけど、紫永にお小遣いをあげる日が迫ってきてるんだよ。
紫永はまだ成人もしてない高校生だ。青春真っ只中なんだよ。……俺はそんな妹を置いて三日間と大人気なく家出をした訳だが、それは置いといて、紫永には高校生の青春ってやつを楽しんで欲しいからやっぱり金は必要だ。
「行くか、ダンジョン」
そう思った俺は、寝転んでたソファから立ち上がりながら、そう言った。
ここでダラダラとしてたら絶対、明日でいいか、ってなる自信があるから、ソファから立ち上がった俺は直ぐに動きやすい服に着替えて、リュックを背負った。
「行ってきます」
そして、誰もいない家に向かってそう言いながら俺はダンジョンに向かって歩き出した。
俺が投稿……と言うか、紫永が投稿したあの動画が埋もれたとはいえ、何故か俺が甘味ちゃんを助ける動画がネット上でバズってたのは事実だし、一応顔を隠しておこうと思ってフードを深く被りながら。
そして、ダンジョンの前までやってきたんだが、また、人がいる。
……おかしいな。ついこの前まではマジでこのダンジョンの前で人なんか見かけなかったのに。
「あ、おい、あんた! そこはダンジョンだぞ!」
そう思いながらも、ダンジョンに入ろうとすると、いきなり肩を掴まれて、そんなことを言われた。
いや、知ってるけど。お金を稼ぎたいから、来たんだし。
「知ってますけど」
「はぁ!? だったら尚更、入っちゃダメだろ! 何の装備も持たずにダンジョンになんか入ったら命がいくつあっても足りないぞ」
……心配してくれてるってのは分かるが、ちょっとうざいな。俺はもう何回もこのダンジョンには来てるし、遅れを摂ることはないって分かってるんだ。なのにそう何回も言われると、ちょっとうざい。
「あー、大丈夫ですよ」
適当にそう言って、俺は無理やりダンジョンの中に入った。
ここでいくら問答を繰り返しても、意味が無さそうだったし、紫永が家に帰ってくるまでには俺も家に帰っておきたかったしな。……動画が埋もれてしまったことを紫永に伝えて、さっさとあの動画を消してもらうんだ。
可能性は限りなく低いとは思うが、いつあの動画が誰かに掘り返されるか分かったもんじゃないし、さっさと消してもらうに限る。
「……は? あっ、おい! ……俺は止めたからな」
ダンジョンの入口の方からそんな声が聞こえてきたが、俺は無視して、少し急ぎ気味でダンジョンを進んだ。
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