黒歴史確定な動画撮影
「ふぅ、いいお湯だった」
そう呟きながら、俺はお風呂をあがった。
そして、体を拭いて紫永が用意してくれていた服を着た俺は、髪を乾かしてから、紫永がいるはずのリビングに向かった。
「あっ、お兄ちゃん! ちょうど準備が終わったところだよ!」
すると、紫永はそう言って、また、スマホの画面を俺に見せてきた。
「ん? 家出男のダンジョン探索配信チャンネル? ……えっと、紫永さん? これは?」
「お兄ちゃんのチャンネルだよ?」
いや、それはさっきの話の内容的に、何となくわかる。
問題は、チャンネル名だよ。
なんだよ、家出男のダンジョン探索配信チャンネルって! こんなチャンネル名での活動なんて、流石に無理だぞ!?
「紫永、こんな名前で配信なんて、流石に……」
「……まだ成人もしてない高校生の可愛い可愛い妹を置いて、三日間も家出したことを私は許して上げたんだけど、どうしたの? お兄ちゃん」
「……いえ、ナンデモナイデス」
それを出されたら、俺に言えることは無い。
だって俺が9対1で悪いんだから。
「そう? だったら、早速始めよっか。いきなり配信はお兄ちゃんも緊張するだろうから、まずは動画を撮影して、お兄ちゃんが甘味? だっけ。……まぁ、その甘味ちゃんを助けた張本人だってことを分かってもらおっか」
「……お、おう?」
正直よく分からないけど、俺は曖昧に頷いた。
すると「どうも、初めまして。俺です」とだけ書かれた紙を渡された。
「……?」
「そこに書いてあるセリフを言ってくれたら大丈夫だから」
「……書いてあるセリフって、これしか書いてないけど」
いや、どう考えても、これじゃダメだろ。
他に何を言ったらいいかとか、全然分からないんだけど?
「じゃ、始めるよ〜」
「は? え、ちょっと待っーー」
「録画開始!」
録画を始めようとする紫永の事を止めようとすると、紫永は手を軽く上げながらカメラを俺の方に向けてきて、そう言ってきた。
「あ……えっと、どうも、初めまして。俺です」
急にそんなことを言われた俺は、頭が真っ白になって、取り敢えず、渡された紙を見ながら、そう言った。
……いや、俺ですってなんだよ。見てるやつは俺の事なんか知らんし、意味わからんだろ。もう恥ずかしいんだけど、やめていいですか? やっぱり俺には配信なんて向いてないんだよ。
「……ダンジョン配信とか、やっていきたいと思います」
ネガティブな思考になりながらも、取り敢えず、それだけは言っておいた。
「録画終了! うん。良かったよ。お兄ちゃん」
「……何がだよ。黒歴史増やすだけだろ、これ」
「まぁ、そうかもだけど、大丈夫だよ! 多分! ……もしそうなったら、私を置いて三日間も家出なんて大人気ないことをした自分を恨んでね。お兄ちゃん」
はい。ごめんなさい。大人気ない自分のことを恨みます。
「後、お兄ちゃん」
「……なんだよ」
「これ、私の少ないお小遣いで買っておいたから」
大人気ない自分のことを恨んでいると、紫永はどこからともなくプリンを机の上に置いて、そう言ってきた。
「……勝手に食べて、ごめんね。お兄ちゃん」
「別にいいよ。三日間頭を冷やして、もうなんとも思って無かったし。……むしろ、わざわざ俺のためにありがとうな。大事に食べるよ」
「ううん。配信活動に成功したら、ちゃんと返して貰うし、全然いいよ」
……成功しなかったら返さなくていいってことか。……ほんとに俺の妹か? いい子すぎる。……俺のプリンは勝手に食べるけど。
まぁ、マジでもう気にしてないし、別にいいんだけど。
「じゃあ、お兄ちゃんはそれ食べてなよ。私は適当にさっきの動画を編集してくるから」
「……マジでネット上にあげるのか?」
「投稿しなきゃ意味無いでしょ」
そう、なんだけどな。
今更紫永に何を言っても無駄だと思うし、諦めるか。素直にネット上のおもちゃになってやるよ。
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