サイン貰うの忘れてた!?

 このダンジョンに家出をしてきてから、三日が経った。

 それだけの時間こんなダンジョンに居れば、当然頭も冷えてくる。

 自分がどれだけくだらないことをしていたのかも分かってくる。


 ……あいつ、三日間も一人で大丈夫だったかな?


「帰ろ……服も臭くなってきてるし」


 この斧も、別に要らないな。

 そう思って、適当に斧を放り投げた俺は、出口に向かって歩……いや、走り出した。


 道中、俺に襲いかかって来ようとする魔物が何匹かいたけど、それを全部無視しながら、俺はダンジョンの外に出た。


「久しぶりのシャバの空気!」


 そう言いながら。

 そしてその瞬間、気がついた。

 ダンジョンの前に若者を中心に小さな人集りが出来ていたことに。

 ……やば。めっちゃ俺の事見てきてるんだけど。

 いや、ごめんて。人がいると思ってなかったんだよ。

 いつも、入る時も出る時も、人っ子一人見かけないし、今日もそんな感じだと思ってたんだよ。


「し、失礼しました〜」


 なんだが恥ずかしくなってきた俺は、そう言ってそそくさとその場を離れた。

 

「……た、ただいま〜?」


 そして、家に着いた俺は、そう言いながらこっそりと家の中に入った。

 いや、居ないのは分かってるんだけどな。妹はまだ学校のはずだし。


「お、お兄ちゃん帰ってきたぁぁぁ」


 そのはず、だったのに、そんな叫び声と共に、金髪の見た目だけギャルみたいな俺の妹……紫永しえが俺の肩をグワングワンと揺らしてくる。

 

「わ、悪かった。俺が大人げなかったよ。……まだ高校生の妹を置いて家出なんて、本当に大人げなかった。ごめんなさい」


 一旦紫永を引き離した俺は、そう言って頭を下げた。言い訳なんて無い。どう考えても、俺が悪いからだ。

 

「そんなのはどうでもいいんだよ、お兄ちゃん!」


 どうでもいい? ……じゃあ、なんで俺はこんなグワングワン肩を掴まれて、頭を揺らされたんだよ。


「そうじゃなくて、これ見て!」

「ん?」


 紫永は俺に向かってスマホの画面を見せてきた。……鼻をつまみながら。

 いや、臭いのは仕方ないだろ。……一応適当な水浴びはしたけど、服はこれしか持ってなかったし、洗えなかったんだよ。


「斧を担いだ二つの意味で謎の家出男」


 紫永に見せられた画面には、Yのトレンド1位の所にそんな文字が書かれていた。

 なにこれ。


「これ、動画!」


 俺の反応が気に食わなかったのか、紫永はポチポチとスマホをタップすると、もう一度俺に画面を見せてきた。

 そこには馬鹿でかい斧を持ちながら、あのよく分からない鬼を殴り飛ばす俺がいた。


「……どういうこと?」

「それはこっちのセリフだってお兄ちゃん! お兄ちゃんが家出したと思ったら、お兄ちゃんバズってるんだもん! 意味わかんないよ!」

「いや、俺にも何が何だか……」


 本当にどういうことだ? なんでこんな動画が……


「もう! お兄ちゃん、家出中に誰か有名人に出会わなかった?」

「……有名人? あっ!」

「なんでこうなったか分かった?」

「サイン貰うの忘れてた!?」

「そうじゃないでしょ!?」


 サイン……欲しかった……

 そこまでファンって訳では無いけど、やっぱり有名人ってだけでサインは欲しいと思う。……単純に甘味ちゃん、可愛いいしな。

 

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