マジで消えたい

「三層目とうちゃーく!」


 だだっ広い森のような場所の三層目に足を踏み入れた瞬間、俺はそう言った。

 ……ただ、さっきの羞恥心を忘れられる訳では無い。


「ああぁぁぁぁぁ! 俺甘味ちゃんにめっちゃ恥ずかしいこと言っちまった!」


 マジで消えたい。……こんな歳で家出……いや、まだ若い方だとは思うよ!? でも、でも、この歳で家出は無いだろ。


「……取り敢えず喉乾いたし、川に行くか。……一回沸騰させれば飲めるだろ、多分。……ダンジョンの川だし」


 少しでもさっきの羞恥心を忘れるために、そんなことを呟きながら、俺は川の方向に向かって歩みを進めた。

 

「ピィ」

「ん? ……あっ、鳥発見。……角生えてるけど」


 木の上に止まってる鳥に向かって、俺はジャンプした。

 そしてそのまま、思いっきり持っていた斧を振るった。

 さっきの鬼はどう考えても食べられなさそうだったし、なんか汚そうだったし斧を使わなかったけど、こいつは食う予定だから。


「よし、今日の食料ゲット」


 真っ二つにした鳥を持ちながら俺はまた斧を担いで、川に向かって歩き出した。血抜きをしながら。

 




 そして、川に着いた俺はなるべく綺麗そうな石に鳥

を置いて、適当な木の枝を集めだした。

 鳥を焼けるように。……あ、皮剥がないとな。……グロいのがダメな訳じゃないから、ナイフさえあれば何となくは出来ると思うけど、あの馬鹿でかい斧でできるかなぁ? ……いや、やるしかない、か。


「よし、もう枝はこれくらいあればいいかな」


 持ってきた枝を一箇所に集めた俺は、俺のスキル『焔』で塵にならないように火をつけた。

 

「炎の準備は出来た。後は、鳥の皮を剥ぐ」


 


 斧の先っぽの方を持って、鳥の皮を剥いだ。剥ぎ終わった。

 そこには、かなり身の削れた鳥の肉があった。

 ……うん。まぁ、こんな斧で剥いだにしては、いい方なんじゃないか? 

 

「よ、よーし、焼いていくか」


 これでも今日の大事な食料だ。大事に食おう。

 またその辺にあった木の枝を取ってきて、その木の枝に鳥の肉を刺した。

 そしてそのまま、さっきつけた火に向かって、鳥の肉を持っていった。

 焦げないように、大事に焼かないとな。




「そろそろいいか?」


 いい感じに焦げ目がついてきたのか確認した俺は、そう言いながら手を引いた。

 辺りはダンジョンの中なのに、外と連動して暗くなってきてる。

 これ食ったら寝るか。……火はあるし、凍死することはないだろ。魔物は……まぁ、警戒してれば大丈夫だろ。


「いただきます」


 そんなことを考えながら、たった今焼いた鶏肉に齧り付いた。

 

「んっ! 案外思ってたより美味いな」


 調味料も何も無し。ただ焼いただけなんだから、味には期待してなかったんだが、案外美味かった。

 ダンジョンの魔物だからか? まぁいいや、美味いんだし。




「ごちそうさま。ふぅ、美味しかったし、そろそろ寝るーー」

「グルルゥゥゥゥ」


 そろそろ寝るか。そう呟こうとした瞬間、俺の目の前に獅子の胴体に鷲の上半身の魔物……グリフォンがそんな咆哮を上げながら、現れた。

 

「今、寝ようとしてたんだけど……まぁ、さっきの鬼と違って、俺の見た事ある魔物だからいいけどさ」


 さっきの鬼はマジで見たことない魔物だったんだよな。……このグリフォンとか、さっき食った鳥の魔物とかはこの辺に来たら結構見るから、特に焦る必要も無い。……あの鬼を倒した時は別の意味で焦ってたけどさ。

 

「お前、多分食えないよな」

「グルルゥゥゥゥ!」


 わざわざ返事をしてくれたグリフォンに心の中で感謝していると、グリフォンはこっちに向かって前足を振り上げてきていた。

 後ろに飛び退いてグリフォンの前足を避けた俺は、地面に着地した瞬間、グリフォンに向かって走り出した。

 そしてその勢いのまま、思いっきり斧の後ろの部分で空に飛ぼうとしているグリフォンの頭をカチ割った。

 ……斧に血が少しついたけど、さっきの鬼よりはグリフォンは汚くなさそうだし、川もすぐそこにあるんだから、血が乾く前に洗えばいい。


「グリフォンの死体もほっとくか。さっさと斧を洗いたいし」


 適当に斧を川で洗った俺は、火のそばに横になって、眠った。

 斧を手に持ったまま。


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