第20話 十蔵の怒り
獄殺のカシュ―・ラッツがいる森の中へとやってきた十蔵。
「この森の奥らしいけど・・・どこらへんにあるか分からないな・・・」
十蔵は森へとやって来たものの森はそこそこの広さがあり獄殺のカシュー・ラッツが隠れているという場所が分からない。
「幻覚なら触れないよな?」
そう思い森の奥までやってきた十蔵はペタペタと岩壁を触る。
「う〜ん・・・触感は完全に岩だけど・・・そういえば有幻覚なんて言葉もあったな・・・」
有幻覚とは本来は実体のない幻覚に実体を持たせたもの。もし仮に有幻覚ならば触ったところで本物かどうかは判別不可能となる。
「さすがに有幻覚は考えすぎか?・・・でも魔法がどの程度出来るか分からないからな~・・・適当に殴るか・・・」
考えるのがめんどくさくなった十蔵はとりあえず適当に歩きながら壁を殴り続ける。
「ハッ!」
ドン!
「おら!」
ドン!
「よいしょ!」
ドン!
とりあえず殴った感触は今のところは普通の岩壁でしかない十蔵。それを繰り返すこと数回目。
「どうだ!」
ドカン!
十蔵の繰り出した一撃。それまでは岩壁が削れるだけだったそれは今回は穴が開きその先に道が続いていた。
「これは・・・ビンゴか・・・」
どうやら十蔵の想像通り獄殺のカシュ―・ラッツは火魔法で有幻覚を生み出して道を壁で塞いだらしい。
「それにしても・・・火魔法で壁を作れるって・・・何でもありだな魔法・・・」
魔法の何でもあり加減に驚いている十蔵。とりあえず十蔵が通れるぐらいにまで穴を広げる。
「よし!これで行けるな・・・この先に獄殺のカシュ―・ラッツが・・・」
一歩踏み出し閉ざされた道を歩き出した十蔵。
ビチュン
「!?」
一瞬のその音。それに十蔵は危機感を覚え条件反射にて100%を発動し回避行動を選択。十蔵を狙ったのはレーザーのような光だった。
「ぐっ!?」
十蔵の気づきからの100%での回避行動。しかしそれは一瞬遅く十蔵の片脚をレーザーを掠める。
パチパチパチパチ
「凄いな君は・・・私が不意打ちで発動した
そうして拍手で姿を現したのは40代ほどの男。この状況であればこの男が誰かは明白だろう。
「・・・お前が獄殺のカシュ―・ラッツだな?・・・」
十蔵はかすり傷のため動きに支障はない。立ち上がり問いただす。
「ああ、その通りだ。私がカシュ―・ラッツだが?君は私のファンかな?」
「・・・俺は冒険者だ・・・お前を殺しに来た・・・」
「ほう?私を?・・・なぜ?私は殺されるようなことをした覚えがないのだが?・・・」
そう分からないといった感じで首を傾げる獄殺のカシュ―・ラッツ。それに対して一瞬怒りで叫びたくなった十蔵。しかし強敵と分かっている相手に冷静さを失った状態で戦うことほど愚かな事は無いということは十蔵も理解している。
「・・・お前は実験と称して多くの罪のない人々を殺していたはずだ・・・これも覚えがないか?」
「殺す?・・・ハッハッハッハッハ!!」
突如として笑い出した獄殺のカシュ―・ラッツ。それに一瞬恐怖心を抱く十蔵。
「・・・何がおかしい?・・・殺していないとでもいうのか?・・・」
「その通りだ・・・私は殺してなどいないよ・・・」
そうまさかの言葉が本人の口から出た。その表情は一見嘘を言っているようには見えない。それに対して十蔵も混乱する。
「じゃあお前が冒険者ギルドに殺しの依頼が来ているのも・・・ある女の子が目の前で両親を殺されたと言ってるのも嘘だとでも?・・・」
「フッ・・・馬鹿なことを・・・私は殺してなどいない・・・勝手に死んでいくだけだ・・・」
「勝手に・・・死んでいく・・・何を言って・・・」
獄殺のカシュ―・ラッツの言い分に理解できない十蔵。
「人間とはなんと脆い生き物か・・・私の魔法の研究に快く付き合ってくれている彼ら彼女らは・・・だが、ちょっとした刺激に耐えられず勝手に死んでいくんだ・・・私もその度に新たに私の研究に心から付き合てくれる優しい人物を探すのに苦労するんだぞ?・・・最近では魔物を対象にしているがこれが中々捗らなくてね・・・もうそろそろ街に行って研究に付き合ってくれる人を『空覇掌!』おっと・・・私の話はまだ終わってないのだがね?・・・」
十蔵は獄殺のカシュ―・ラッツの言葉に遮り拳で空気を叩き衝撃波を飛ばす"空覇掌"を繰り出した。100%状態で繰り出した十蔵のそれを獄殺のカシュ―・ラッツは火をぶつけることで防いだ。
「・・・よく分かった・・・お前は死ぬべきってことが・・・」
十蔵の怒りは頂点に達した。
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